第十三話 初めてのお客さん
一週間後、この日は初めての移動販売する日である。午前中は畑の手伝いをして、午後から販売だ。茜は一種類ずつ数量を確認しながらリアボックスへ積んでいった。トイレットペーパーや箱ティッシュは1個ずつバラで載せた。そして、キッチン用品、風呂用品、洗濯用品をそれぞれ2個ずつ入れていった。バイクのリアボックスがパンパンになり、茜はなんだか心が晴れていった。
(やっと、ここまで来たんだ。買いに来てくれるかな。でも、やるだけのことはやった。あとは、売るだけよ。)
茜は新たな気持ちでバイクにまたがった。
まず、向かうのは集落で家が密集している場所。そこは、老若男女、色んな年代の人たちが集まる場所。この町で一番、人が密集している地域だ。バイクで進む中、茜はドキドキしていた。やはり、不安は大きい。売れ残った事ばかり想像してしまう。考えれば考えるほど、不安だけが頭をよぎっていった。
集落の販売場所に到着すると、まだ誰もいなかった。茜はバイクから降りて、販売の準備を始めた。と、いっても、今の花守町よろず屋は商品を陳列して販売するわけではない。値段表記の看板をバイクの前に置くだけの質素なものだった。お客さんはまだ来ない。
茜は周りの景色を見ながら待つことにした。緑の木々たちがざわざわと風に揺られ、なんだか、お喋りをしているみたいだった。空気も爽やかで舗装されていない道の上にいると土の香りもして、心がリラックスする。緑と小川のせせらぎ。茜は思いっきり、深呼吸して綺麗な空気を堪能していた。
しかし、まだ、お客さんは来なかった。しびれを切らして、近くの家を訪問することにした。
———ピンポーン———
「こんにちは。花守町よろず屋です。今、移動販売しています。良かったら、どうぞ。」
インターホン越しにお客さんの呼び込みを始めた。何軒も何軒も繰り返し、話した。それから、販売場所へと戻り、お客さんを待つことにした。
しばらくすると、まだよちよち歩きの子ども連れの若いお母さんがこちらへと向かってくる。
「あの~、すみません。こちらでトイレットペーパーってありますか?」
「あ、はい!ありますよ。ただ、一個しか載せていなくて、それだけでも大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です。助かりました。子供がトイレットペーパーを全部、水に落としちゃって、困ってたんです!助かりました~。」
「あら~、子供のやる事は予想付かないですもんねぇ。それは大変でしたね。」
「あの、ついでに洗濯洗剤も貰えますか?トイレットペーパー一個じゃ申し訳ないので。」
「ありがとうございます!袋はいりますか?」
「お願いします。お姉さんがいて、本当に助かりました。主人が車で職場に通っているので、買い物にも行けなくて困っていたんです。」
「その言葉が聞けて、私も嬉しいですよ。ありがとうございます。夕方からも急ぎの品があれば対応しますので、電話いただければ、飛んできます。」
「ありがとうございます。また、連絡するかもしれません。」
「はい!いつでも!」
初めて、商品が売れて、茜は嬉しさがこみあげていた。そして、ちょっとしたハプニングにも対応できる移動販売を褒めてもらえたみたいで、一人で誇らしくなっていた。ホッと肩を撫で下ろし、笑顔を見せてくれた若い子連れのお母さんは深くお辞儀をして、自宅へと帰っていった。
(良かった~。笑顔になってくれて。初めて売れたし、嬉しいなぁ。)
それから、待っていると、次々とお店を訪れてくれる人が増えていった。近所同士で示し合わせて、グループで立ち寄ってくれ、一人で買いに来るおじいさんや若い夫婦も見受けられ、盛況だった。
「いらっしゃいませ。何をお買い求めですか?」
「台所洗剤貰える?ここで販売してもらえて助かるわ~。今後、商品増えるのかしら?」
「まだ、未定ですが、今後も増やしていきたいとは思います。何か欲しいものがあれば、出来る限りご要望にお応えしたいと思っています。」
「ゴミ袋とかあるとだいぶ助かるわ。いつの間にか切らしたりしちゃうから。」
「それは確かにそうですね。わかりました。来週、追加しておきますね。」
茜はお客さんの要望をメモした。来るお客さんがみんな笑顔になって、とても嬉しくなっていた。あっという間に時間は過ぎていき、移動販売の終了時間になっていた。この集落ではお客さんが興味を持って、お店に来てくれて、茜自身も移動販売をやることが出来て心が爽快感に包まれていた。
「夕方以降で、もし、足りないものがあれば配達もしますので是非、利用してくださいね。ありがとうございました。」
茜は最後のお客さんに挨拶だけして、片付けを始めた。この集落では半分ほどの人数が買い物に寄ってくれていた。思っていたより、沢山の人が買ってくれて、茜の中でも満足のいく結果となった。リアボックスの中はかさばるものが無くなって、隙間も出来ていた。完売とまではいかなかったけど、今回の移動販売で多少傾向が見えていた。やはり、ペーパーや洗剤系はよく売れるみたいだ。欠品で断ることもあった。お客さんの要望も聞いて、次の発注で増やす予定に入れることにした。
(それにしても、よく売れたなぁ。明日も売れるといいなぁ。)
茜は、次の日の事を考えていた。次の日は今回の集落とは違って、一軒一軒が離れているような場所に店を出す。今回みたいには人は集まらないだろうと、思いながら、バイクで自宅へと帰っていった。
自宅に着くと在庫の集計と売上金の計算をして、次の日の準備をして終わる。すると一本の電話が鳴った。
———Prrrrrrrr———
「はい、花守町よろず屋の駒田です!」
『あの、すみません。お昼に伺ったんですが、追加でほしいのですが大丈夫ですか?』
「はい!大丈夫ですよ!何をお買い求めでしたか?」
「トイレットペーパーを2個と箱ティッシュ2箱欲しいです。」
「それでは、お持ちしますので、お待ちくださいね。」
茜は、初めての追加便を持っていく。お客さんの住所を聞いて、向かうことにした。バイクを颯爽と走っていく茜は、夕暮れの景色を見ながら、お客さんの事を考えていた。利用してくれる事がとても嬉しくて、有難いと思っていた。そんなことを考えながら、家の前に到着した。
———ピンポーン———
「お待たせしました。花守町よろず屋です。」
「はーい!今行きまぁす!」
茜は家の前で呼び鈴を鳴らし、挨拶をして、少し待っていた。
「すみません、来てもらっちゃって。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」
家から出てきたのは昼間に一番、最初のお客さんとして来てくれた若いお母さんだった。申し訳なさそうに、茜の事を見て、商品を受け取った。
「ありがとうございます。助かりました~。」
「トイレットペーパーと箱ティッシュで、440円になります。」
茜はお金を受け取って、財布にしまった。
「ありがとうございましたー。またお願いします。」
深々とお辞儀して、お客さんと別れた。
バイクにまたがり、ゆっくりと帰路についた。帰り道は行きよりも暗くなって、夜道になっていた。真っ暗闇の中、走るバイクの音が響き渡っていた。




