6 .『案件2』お嬢様の狙い、それは氷剣魔法の使い手と会うこと
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情報屋からタリスマンへと戻ったリナは、アイリィに先程のお嬢様がグリムロックに宿泊した情報を聞き、そのまま宿屋へと向かった。
宿屋「グリムロック」はこの都市国家には存在しない貴族や大商人等が宿泊するための施設で、入口は重厚な騎士たちに守られ、セキュリティもしっかりした選ばれた人たち向けの宿屋だ。
その中に今回の依頼人ロゼリアが宿泊している。
受付に目的と面会希望の人物を伝え、待合室でしばらく待機してくつろぐ。
やがて先程遭遇した使用人が下へと降りてきてリナの元に向かい伝える。
「ついてこい、くれぐれも失礼がないようにな」
リナはそのまま使用人の後ろを歩き宿泊している部屋へと向かう。
そして最も豪華な角部屋の扉を使用人は静かにノックした。
「どうぞ」
その言葉を聞き使用人が扉を開き、リナは静かに部屋へと入った。
室内では暖炉の火が燃え、薪が燃える音が静かな部屋に安らぎを与えている。
ロゼリアは、昼間のように優雅なドレス姿ではなく、動きやすくとてもシンプルな、白い室内着へと着替えていた。
彼女は低めなテーブルの後ろに備えられた優雅なソファに腰掛けており、リナに視線を向けて眼の前の椅子に座るように促す。
「どうぞ、そちらにお座りになって」
リナは促されるまま正面の椅子に座り、ロゼリアの前に対峙する。
まるでこちらに来ることを予見していたような態度だ、そして後ろに立ち構えている使用人に対して指示を出す。
「ドルカス、貴方は席を外して頂戴…出来ればこの部屋から少し離れた場所で待機していて」
ドルカスはその言葉を聞き、お嬢様に進言する。
「お嬢様!二人だけにするのは反対です!私は貴方様の護衛の役目もあるのですから!」
しかしロゼリアは落ち着いた様子で説得する。
「この方とは既に仕事で契約を結びました、私は信頼出来る方と思っています、だから今は護衛は無くても大丈夫よ」
ドルカスは説得に応じたのか素直に引き下がる。
「わかりました、なにかあればお呼びください」
「わかったわ」
使用人は扉を開き外に出ていく。
リナはテーブル越しにロゼリアの瞳を真正面から見据え疑問に思っていた事を問いただす。
「お嬢様、単刀直入に尋ねます、ちょっと長くなるがいいか?」
「よろしくてよ」
「あなたがタリスマンに依頼を持ってきた真の目的は何だ?」
ロゼリアは、リナの真っ直ぐで、心の奥底まで覗き込むような瞳を見据えた。
彼女は紅茶のカップを口に運びそして静かに置き、一服おいて相手が問いただした
答えについて静かに語り始める。
「……目的は氷剣魔法の使い手を探すこと、そしてその人物と面会すること、それ以上はありませんわ」
リナはその言葉を聞き、真実を追い求めるように更に畳み掛けるように問いかけた。
「それは半分真実で、半分嘘だな」
「私は、まず情報屋にその人物について尋ねた、そして既に西の商人の使いがその情報を探ってギルフォード卿が目的の人物だと伝えたと言っていた」
「既に貴方は情報を入手済みなのに、わざわざうちの店に来訪し、同じ依頼を行った」
「ひとつだけ依頼内容が違うのは、『その人物と面会すること』だ」
「で、私は考えた、正規ルートで既に接触済みだろう、だが相手に拒絶された」
「そしてうちに依頼を持ってきた、それは何故か?特別なコネでもあればわかるが、ただの魔法屋には無い、だが一つだけ思いつくのは、私の師匠アルテロだ」
「タリスマンを訪れた時、貴方は私の名前を聞いた、それは私が師匠アルテロの一番弟子かを確認するためだったという事」
「師匠の名前を出して、ギルフォード卿への面会への道を作る、そこまでする理由は一体なんだ?」
ロゼリアは、静かにため息をつきリナの目を見据えた。
全てを考察し見据えられたように真実を追求された事に対して賛辞を述べる。
「そこまで解ってるのね、さすがマエストロの一番弟子って事かしら」
ロゼリアはソファーから立ち上がり窓より外の様子を見る。
外は既に日が落ち夜が迫ってきていた。
深く、静かに何かを考えているように見えたがそっと口を開いた。
「今から言うことは他言無用でいいかしら?」
リナは快く承諾した、依頼人との機密保持は仕事の一部だからだ。
「わかった、秘密は守ろう」
その言葉を聞き、リナの方を見据え真剣にそして真っ直ぐに答えた。
「――私が追っているギルフォード卿、その方は私の母を殺した人物です」
ロゼリアの告白は、宿屋の静かな部屋の中に凍り付くような衝撃をもたらした。
リナは一瞬考えその頭脳で何が目的か理解した。
「目的は、母親の敵討ちか?」
「いえ、まずは母を殺した事実の追求と何故殺されなければなかったのか、その真実を知るためです」
ロゼリアの瞳は、昼間の疲労の色とは違う、その目は冷たく澄み切っていた。
その奥には、ただの商人の娘とは違う個人的な感情が燃え盛っているのが垣間見えた。
リナは静かに口を開いた。
「もし、ギルフォード卿への面会がかない、その機会が訪れたとしよう。だが貴方が変な行動を起こせば、私も含め貴方もタダではすまない、下手すりゃ貴方の商会…、そう故郷にいる父君にも迷惑をかける事にもなりかねない、それは理解してるか?」
ロゼリアはその言葉を聞いて、敵討ちのことにはあえて触れずに、ある事実だけを静かにリナへと伝えた。
「父は先日病気でなくなりましたわ、商会の後継人として私を指名して」
リナは今の言葉を聞いて理解した、ギルフォード卿へ母の死の真実を問いただす事、それは正しい、だが相手と対峙して真実を聞いたらどうするか、両親をなくし一人ぼっちになってしまった彼女が取るべき行動は明白だった。
「それに、貴方には迷惑をかけません、それは約束しましょう」
彼女の瞳は真っ直ぐだった。
そこにあるのは、全てを捨ててでも目的を遂行しようとする意思が感じられた。
彼女の決意が揺るぎない事を感じたリナはただ頷き、彼女の目的に自分がどう関わるべきかを静かに考え始めた。
そしてある取引を持ちかけた。
「もし面会がかなった時は私も同行しよう、それでいいか?」
ロゼリアは少し考え、素直に答えた。
「ええ、構いませんわ」
相手の答えを聞き、リナは立ち上がる。
そしてロゼリアのそばに歩み寄り、彼女に顔を近づけそして伝えた。
「私はこう見えても世界五大マエストロの一人、アルテロの一番弟子だ、私にも一応立場がある」
そしてリナはロゼリアの顔を左手で持ち上げ、相手の瞳を真剣に見据えながら、もしかしての出来事に対して恫喝した。
「もし敵討ちなど不埒な行動をおこしたら、死ぬほど恥ずかしい目にあわせるから、覚悟しろよ…?」
ロゼリアは静かに無言で頷いた。
相手の返事を確認し、ゆっくりと手を離した後にそのまま出口へと向かう。
扉を開け部屋を出ようとしたところで、リナは止まった。
今回の件で自分が知らないとある出来事を確認するために最後にお嬢様にある疑問を問いかけてみた。
「最後に一つ質問いいか?」
「なにかしら?」
「なぜ貴方は、師匠アルテロとギルフォード卿の繋がりを知ったのか教えてほしい」
ロゼリアは繋がりについて静かに答えた。
「商人の情報で入手しましたの、過去にギルフォード卿の領地に来た化け物をその方が退治したと伺いました」
「わかった、ありがとう」
リナはこれから自身が行う行動についてロゼリアに伝える。
「ギルフォード卿に面会状を送って返事を待つから恐らく数日は時間がかかる、返事が来るまでしばらくこの街でゆっくり待っていてくれ」
「わかりましたわ」
リナは部屋を後にして自分の家に向かい帰宅の途についた。
家に帰った後、羊皮紙に面会状を作成し手紙を便箋に納め手紙屋に送付依頼を行う。
「あとは、返事待ちだな」




