5. 『案件2』西の大商人のお嬢様、その依頼
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商業都市国家の西門に設けられた関所に、この辺りではあまり見かけない金色の装飾に赤色の壁で塗られた豪華なキャビンに人を乗せ、二頭立ての馬車が到着する。
馬車から使用人と思しき人物が降り、関所管理の役人に金色に赤い札の書状を見せ、関所通行の通行料を支払い、馬車に再度搭乗し都市内へと走らせる。
大きな石造りの門をくぐり抜けた後、都市国家の姿が見える。
馬車に取り付けられた、窓の向こうで、金髪で綺麗に髪を結び整えたお嬢様のような人物が、豪華な座席から外を覗き都市内の様子を眺めていた。
馬車が商店街を通りながら進んでいくと、皆その珍しい馬車の外観に注目が集まる。周囲の通行人が一斉に足を止め、その豪華な装飾に目を奪われ辺りの人たちは、馬車に目を向け露店商人の威勢の良い声も止まり、そして行き交う人々のざわめきが響き渡る。
やがて馬車は、人通りが少ない路地を抜けると魔法屋タリスマンの前で停止した。
そして使用人である男性が馬車の扉を開き、中にいる人物に声をかける。
「お嬢様、到着いたしました。『目的の魔法屋』でございます」
そして、内側から一人の女性が使用人に手を取られ優雅に扉から姿を現した。
見た目から成人しているが少し顔に幼さが残る女性。
誰が見ても良家のお嬢様と見られる女性は、気品を備え整った顔をしており、それでいて目元は化粧により気が強そうな雰囲気を醸し出すがどこか優しそうな目だ。
顔立ちは優雅だが、その瞳には長時間馬車に揺られてきた僅かな疲労の色が垣間見える。
金色の髪は綺麗に整えられ、後ろで二本に分け編み込んだ紐で綺麗に纏められ結われている。
恐らく値打ちモノだと人目でわかる、赤色ドレスに白くて華美なフリルやレースが縫い付けられた、仕立ての良いドレスを纏っている。
手元には大きな白い羽の扇子を持ち、その首元で控えめに輝くのは、紛れもなく高価な宝石だ。
彼女は、眼の前にある古びた扉に視線を向け優雅さをもって一歩、また一歩と石畳を踏み出した。
「……ここね。」
使用人が店の扉を開け、お嬢様はその開かれた扉から静かに店の中に入る。
来客に気づいたアイリィが普段見ないような豪華な衣装に包まれたお嬢様を見て、
少し戸惑いながら来店の挨拶を伝えた。
「いらっしゃいませ!」
お嬢様は口元に扇子を当て、眼の前の少女へと自身の目的を伝える。
「このお店では魔法に関する頼み事を聞いてもらえると伺って参りましたわ」
「はい、承っております、魔法相談ですね、少々お待ちください」
アイリィは裏手に進み、大声で書庫で探し物をしていたリナを呼び出す。
「店長!お客様です!」
奥の部屋で魔法の新しいアイテム作るべく書庫を漁り思考していたリナ、アイリの呼び出しに応じていつものように準備して表に姿を表す。
店の中には珍しい出で立ちの女性が来訪しており、いつも通りの形で質問を返した。
「魔法相談の依頼かな?どんな依頼だい?」
問われた質問に対してまず聞いてきたのは相手の素性を確認することだった。
「失礼、貴方お名前は?」
「こういう名前を聞く時は自分から名乗るもんじゃないの、お・嬢・様?」
リナの返しに対して横にいた使用人が相手の態度に納得がいかず、突如として激昂する。
「ちょっと貴様!お嬢様にその口の聞き方はなんだ!」
激昂する使用人に対してまったく動揺せず、冷静に言葉を返す。
「悪いがこれが私の接客スタイルなんだ、どこのお嬢様かしらないがこのスタイルを変えるつもりはない」
リナは手のひらをヒラヒラと振りながらやれやれと言った感じの仕草をした。
相手に対して詰め寄ろうとした使用人に対してお嬢様は叱咤する。
「おやめなさい!」
その言葉を聞き使用人は動きを止める、お嬢様の命令は絶対なのだ。
相手はお嬢様の後ろに戻り静かに立ち尽くす。
「失礼しました、ワタクシの名は、ロゼリア・グレイスバーグですわ」
「グレイスバーグ…聞いた事あるな、ストラグニル国の西方にある海辺の大商人か、その血筋の人物かい?」
「ええ、商会を取り仕切っている父『ダッカ・グレイスバース』の一人娘ですわ」
「それは失礼、私はこの魔法屋タリスマンの店長兼マエストロ・アルテロ一番弟子、リナリア・フローリアスだ、リナと呼んでくれていい呼称は不要だ」
「わかりました、リナはじめまして」
「それでお嬢様は如何ような要件でこちらに?魔法の相談と言ったが」
「はい…実はある魔法を使う人物を探してほしいの」
魔法相談と聞いていたが、魔法使いの捜索依頼と聞きリナは珍しく驚く。
そしてこの店に来たことは、まるで場違いのような態度を取り相手に伝えた。
「おいおい、ちょっとまってくれ。ここは確かに魔法に関する相談を受けている店だ、だけど人探しは専門外だ、人探しが目的ならここではなく、情報屋を紹介するからそちらに相談してみるんだな。」
しかし、その言葉に全く動じず淡々と依頼の内容を続ける。
「情報屋ではなく貴方に頼みたいの、もちろん報酬は弾むわ…ドルカス!」
「はっ」
ドルカスと呼ばれた使用人は、表へと戻りまた店舗内に戻って来る。
その手には大きな袋が抱えられ、かなりの重量のようだ。
荷物をカウンターへと下ろし袋の紐を開き中身を見せる。
中には大量の金貨が蓄えられていた。
「報酬は前金で金貨二百枚、更にその人物と面会が叶ったら更に追加で二百枚お出しいたしますわ」
「き…金貨二百枚!?、合計四百枚!!」
あまりの報酬の多さにアイリィが珍しく動揺している。
それもそうだ、金貨百枚は冒険者一人あたり数年分の年収となる金額だ。
それをポンと出してくるのはさすが大商人の娘ということを垣間見せた。
「えらく奮発してくれるんだな、ちなみに理由を教えてもらえるか」
ロゼリアは視線を反らし、依頼の理由について答える。
「それは…どうしてもその人物にお会いしたいのよ」
相手は何故か歯切れが悪い答えを返してくる、リナは何か隠し事があると確信した。
だがあえてそこには言及せずに相手の情報を引き出すことにした。
「わかった、ちなみにどんな魔法を使うのか特徴があったら教えてほしい」
「その人は氷剣魔法の使い手で、氷をまるで剣のような形にして、相手に飛ばす魔法を使う方ですわ」
「そんな魔法なら私でも使えるが、もちろんそちらのアイリィも」
リナが手のひらを上に向けその少女が伝えた氷魔法で剣の形を作り出す。
隣りにいるアイリィも同じ様に氷の剣を作り出してみせた。
「いや、相手の方は男性でその当時の身なりからして、恐らく騎士か名家の方です、昔その姿を拝見した事がありますの」
「昔見た事がある?」
「ええ、幼い時にその魔法の使い手を見たことがありますの」
「それはどれくらい前の話だ?」
「十五年前ですわ」
「つまり幼少期にみたその氷魔法の使い手を見つけて欲しいって事か」
「そのとおりですわ」
こちらからの問いかけに対して迷いなく答えを返すある種の信念を感じた。
「少し、理由が気になるが…昔見た人物に会いたいって事か…」
リナは考えた、理由は気になるが報酬は破格だ。
当面は売上を気にせずゆっくりと商品開発も出来る、色々な出来事を天秤にかけそして決断し相手について伝える。
「わかった、引き受けよう」
その言葉を聞いて相手の目が輝きこちらを強く見つめた。
「引き受けてくださるの!?」
「ああ、了承した、アイリィちょっとお金数えてくれ」
「はい、少々お待ちください」
アイリィは袋から金貨を取り出し、きれいに並べ数えていく。
「はい、確かに二百枚あります、受領書を発行しますか?」
「ええ、お願いしますわ」
「わかりました、少々お待ちください」
タリスマンの証明書が入った受領書類と依頼内容を記載し使用人の方に渡す。
事務処理を行っている間に、これからの事を尋ねる。
「依頼は受諾した、それでロゼリアお嬢様は、どこかに滞在するのかい?」
「ええ、宿屋にしばらく宿泊する予定ですわ」
「わかった、宿が決まったら教えてくれ、分かり次第連絡する」
「わかりました、それでは失礼しますわ」
使用人が扉を開け、表へと歩いて馬車に乗るお嬢様。
馬車の扉を締め、使用人が運転する馬車に揺れられ宿屋街の方へ進んでいった。
その場所の中でロゼリアはポツリと呟いた。
「(やっと一歩近づけましたよ…お母様)」
先程の来訪者が店から退店した後にこれからの事をアイリィは尋ねた。
「店長どうするんですか?」
「ちょっと情報屋に行って今聞かれた人物に心当たりがないか調べてくる、後はたのんだ」
「わかりました、いってらっしゃい」
リナは店を飛び出し、都市国家南西の路地に向かう。
昼間の賑わいが嘘のように静かな、商業都市国家の裏路地。
壁には怪しげな看板が並んでいる、表では扱っていない少しマニアックな商品が揃った店がある場所。
その中でも異彩を放つ、錆びた鉄扉の前『情報』とだけ書かれた初見殺しのお店に、リナは立っていた。
リナは鉄扉に備え付けられたた奇妙な紋様のノッカーを使い、軽く三回叩いた。
しばらくの沈黙の後、扉の奥から、大人っぽい女性の声が返ってきた。
「どうぞ」
重い錠がガチャリと外れ、鉄扉の鍵が外されたのがわかる。
扉を内側へ開き、その店舗の中に静かに入店する。
表の汚れた感じとは裏腹に、室内は小綺麗な感じをしている。
部屋の中はかぐわしい香により独特の甘いような匂いに満ちていた。
照明は小さい天窓とランプ一つで、若干暗めの部屋には沢山の書物と巻物や地図が積み上げられている。
そしてカウンターの奥には、この店の店主が座っていた。
年齢は20代後半、濃い茶色の髪型はボブカットで乱雑に切りそろえた感じ。
体のラインは大人を感じさせる体型で出るとこは出て引き締まっている体だ。
その目は鋭い眼光で卓越した千里眼、この街に限らず様々な情報を取り扱う彼女は、この街唯一の『情報屋シルフィ』だった。
「やあ、リナ…今日はどうしたんだい?」
リナは自身の目的を率直にシルフィへと伝える。
単刀直入こそが情報屋と付き合う術、それを理解しているからだ。
「ちょっとある人物に心当たりがあるか情報を仕入れにきたんだ」
「へえ、リナが人探しとは珍しい」
「ちょっと変な依頼を受けてしまってね」
続けて相手は自分の情報から答えを出すべく質問を畳み込んでくる。
「それでどんな人物だい?特徴は?」
「氷剣魔法の使い手で、氷を剣の形にして飛ばす魔法使いを知らないか?」
「ああ、そういえば先日も似たような依頼があったね」
「似たような依頼、どういうことだ?」
「西の商人の使いだかなんかで、氷剣魔法の使い手を探してくれってさ」
「それで調べはついたのか?」
「ああ、イグロニアス国家のパーセイム領主、ギルフォード・パーセイム伯爵がその氷剣魔法の使い手だよ」
「それは間違いないのか?」
「ああ、若い頃は魔法騎士だったそうで、氷魔法を剣の形にするのはその人物の特徴だったそうだよ」
調査に時間がかかると思っていたが、当日に答えを得られるとは考えていなかった。
相手に謝礼を伝え、今回の報酬について伺う。
「わかった、ありがとう、ちなみにその人物の現在について教えてもらえるか?」
「現在も健在だよ、その時作った報告書が残ってるけどいるかい?」
「ああ、頼む、それで情報量はいかほどだ?」
「既に解ってた情報で調べは付いていたしね、その前にかなりの報酬いただいたから今回は金貨二枚でいいよ」
「ああ、了承した、あとでアイリィに届けさせよう」
「毎度ありぃ!」
リナはタリスマンへ戻りながら伯爵の現在置かれてる立場などの資料を読みながら帰路の途を進んでいた。
どうやら現在の伯爵は現地では名君として民にも慕われている人物だ。
敵対する人物はいてもおかしくないが王政も含め、周辺とは良好な関係を保っているように見受けられた。
その事実を知りリナは思考を巡らせていた。
(どういう事だ?既に相手はパーセイム領主ギルフォード卿と調べがついている。
それならば何故またこちらに依頼してくる?)
(相手は確かこういってた、その人物と面会が叶ったら追加報酬を払うと。
つまり、前金はこちらに依頼を引き受けさせるための釣りエサで、目的は相手と面会する事を狙っていると言うことだ)
(だが大商人の娘ならば、伯爵に対して正規のルートで面会を要請すれば、相手も普通なら応じる可能性は高い。だが、何らかの理由で断られたと言う事)
(だとすると他のルートからも接触する方法を模索するはず、うちの店に来訪してまで直接依頼しに来たのは、そのうちの一つか?)
(いや、単なる魔法屋の口添えだけでは、同じ様に面会を断られるだろう、という事は面会するだけのコネクションや権力を持った人物に限られる)
(でも、私もその人物とは会った事もない、コネクションは無いに等しい、加えて権力も地位もあるわけがない…)
(いや…、あったな、それはマエストロの一番弟子という地位か)
「これは、相手に理由を問いただす必要が出てきたな」
リナはタリスマンへ戻りながら、依頼人に真の目的を問いただすため動き出すことを考えた。




