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3.『案件1』レベル差を知らない魔法使いの暴走

この作品はカクヨム先行で公開している作品です。

カクヨムのページはこちらです。

https://kakuyomu.jp/works/822139839209446983

翌朝、朝日が昇り冒険者たちが動き出す頃合いの時間。

冒険者たちがよく宿泊する宿屋『深緑の宿』より様々なパーティが其々の目的に動き出す頃、中からガイウス達パーティが現れた。


近くにある建物の影で樽を椅子にして待ち続けていたリナとアイリィは静かに後を付けながら見つからないように追いかける。


彼らは昨日予告していたように南の森に向かっているようだ。

都市国家の南門は、運び屋達の待合所として今日も賑わっていた。


グレードボア討伐の輸送費を稼ぐために、門から出ていく冒険者たちを運び屋の人達が見送り今日も頑張ってくれと言わんばかりに手を振りながら見送って行く。


朝日が降り注ぐ中、石造りの重厚な門の下を冒険者達が次々とくぐり抜け南の森へと歩み出す。

彼らの前方には、どこまでも広がる深い森が広がっていた。


南の森を奥に進み、選考したレンジャーのフリッツが周辺を探索する。

目的のグレートボア単体で直ぐ近くの木周辺に生えているキノコで食事を行っているのを発見する。

右手を振って無言で近くにいる仲間に自分たちの目的の存在を知らせる。


発見したグレートボアは通常の個体より更に大型の巨体だ。

恐らくであるがこの辺りの集団をまとめるボスのような存在なのであろう。

狙いを定めたパーティが攻撃の準備を始める。


「じゃあ、仕掛けるぞフレン、強化魔法を頼む」


「わかったわ」


「大地に息吹く精霊よ、その力を持ってかの者に大樹の力を与えよ!『大樹の重み(ヘヴィーウェイト!)』」


「光の精霊よ、その力を持って守りの加護をかの者に与えよ!『防御強化ガーディアンロック』」


大木の根のように大地に足を固定する重量魔法と、物理防御を高める魔法をガイアスに付与し準備を完了させた。


「それじゃあ行くぜ」


レンジャーのフリッツが弓を構えグレートボアに体に矢を打ちあてる。

二連射された矢は、正確に魔獣の分厚い体に刺さり、痛みにより飛んできた方に体を振り向け雄叫びを上げる。


――グオオオッ!!


グレートボアは視線の先に写った、盾を持ち大きく構えるガイウスへ見据えた。

そして巨体を揺らし、凄まじい勢いで突進を開始し頭から体当たりをしてきた。


岩塊のような頭部と強大な牙が、ガイウスが構える盾に直撃する。

凄まじい衝撃音と共に巨体に押された足元が滑るが、彼は力強い声を上げながら前に進ませないように、地の底に根を張ったかのように巨体の突進に耐え抜いた。


怪物は頭を抑えられながら左右に激しく動かし抵抗をする。

ガイウスが剣を使い首元を狙うが余りにも巨体のため刺さりかたが浅くトドメをさせない。


レンジャーのフリッツも弓矢で応戦するが首先に連射された矢は、怪物の分厚い首周辺に刺さるが、激しく抵抗し矢が抜けてしまう。

それを見たガイウスは頭を抑えるため相手の角を右手でしっかりと掴み動きを止めた。

そして後方にいる魔法使いに、昨日覚えた魔法を使うように指示を出す。


「抑えた、レフィ!魔法を撃て!」


命令されたレフィは魔法の詠唱を始め魔法の準備を整えた。

そして杖を構え攻撃の体制を取った。


「リング・オブ・ウインドブレード!!」


だが杖の向き先はグレートボアではない、仲間であるガイウスへと向けられていた。

必死に守っている仲間に対して魔法を撃ち眼の前の戦士に飛来した魔法が直撃する。


「ぐあっ!!」


魔法が直撃したガイウスは苦悶の声をあげ、体に当たった刃の魔法は周囲に飛び散り左腕と左足に傷が刻まれる。

体の傷の痛みにより力が抜け始め体勢が崩れ始める。

強力な力で突きながら、対峙する怪物は首を振り回し、相手を角で引っ掛け体を横に吹き飛ばした。


突然の魔法使いの蛮行に対してレンジャーのフリッツとフレンが叫ぶ。


「おい!なにやってんだ!!」


「ガイウス!」


だがその姿を見て笑みを浮かべるレフィ。

そして今まで溜め込んでいた自身の想いを全員に叫ぶ。


「いつもいつもみんなでアタシを下に見て!いい気味だわ!」


「私は強力な魔法使いなのよ!ずっと補助で小間使いな攻撃だけさせて!」


グレートボアは、眼前に映るレフィをターゲットに定めた。

足を前後に動かし突進の準備を進めている。


「みんながいなくてもこんなモブくらいアタシの魔法で一撃で倒してやるわ!」


準備を終えた怪物は魔法使いに対して突進を開始した。

彼女は魔法詠唱を開始し突っ込んでくるグレートボアに対して、先程攻撃した魔法を強烈な風圧で撃ちこんだ。


だが、その魔法はグレートボアの突進と硬質な皮膚に弾き返され無惨にも弾き飛ばされ速度を止めずそのまま突き進む。


「え……!」


今まで強気だったレフィの表情に、初めて驚愕と恐怖の色が浮かんだ。

あまりの恐ろしさに足がすくみその場から動けなくなる。


「レフィ!!」


ガイウスの叫びも虚しく、加速したグレートボアの分厚い頭部が、レフィの華奢な体へ直撃した!

鈍い音とともに、レフィの身体は、まるで投げられたボールのように空高く宙へ舞い上がった。


避けられなかった彼女の体はそのまま、森の地面に叩きつけられる。

無抵抗になった体は、そのまま地面を激しく転がり、周囲の小石や枯れ枝を巻き込みながら十メートル近く転がっていた。


彼女の洋服と茶色い髪は土埃にまみれ、詠唱用の杖は手から離れ、冷たい地面の上に転がっている。

僅かに意識が残ったまま、なんとか体を動かそうとした。

だが先程の衝撃で全身に激痛が走り全身の痛覚を目覚めさせるよう感覚が体中をのたうち回る。


なんとか手を付いて体を起こし逃げようとした、口からも血が出て来る。

口の中を切ったのか赤い鮮血が飛び散っていた。


「ゴホッ…ゴホッ…」


巨大な怪物は、獲物が吹き飛んだ場所に再度狙いを定める、次の攻撃のため、前足前後に蹴り再び荒々しい咆哮を上げた。


ゴオオオオオオ!!


巨大な相手と叫び声を見て体が動かせない、今まで感じたこと無い間隔。

それは初めての恐怖だった。この僅かな時間で必死に考えた、自分はこのまま死ぬかもしれないと。


そう考えると体が震えて全身がすくみ力が入らない、初めての死の恐怖に全身がガタガタと震えあまりの恐ろしさに硬直し動けなかった。


「逃げろレフィ!」


「レフィ!!」


勢いを付けた怪物は巨体を揺らしながら一直線に全速力で走り出す。

倒れ込んだレフィの下へ激走しあっという間に距離が縮まる。


次の瞬間、走り出したグレートボアの前足に緑色の魔法が放たれた。

同時に足の腱が切れバランスを崩して、地面に腹を擦りながらレフィの眼前でその巨体が止まる。


「レンジャーさん!トドメを!」


木の陰から現れたのは、先日遭遇した魔法屋の店員、アイリィとリナであった。

アイリィが自身の武器となる杖を構えていた、彼女が魔法を使いグレートボアの動きを正確に止めていた。


突然の声にハッと我を取り戻した、フリッツは速攻で走り出し跳躍し叫ぶ。


「うおおおおおお!」


そのままグレートボアに上に乗り、体を激しく動かしもがく首筋に向かって自身が腰に備えてた短剣を深く突き刺す。


グアアアアアアアッ!


巨大な咆哮と血しぶきをあげながらグレートボアは全身が痙攣し動きが止まる。

フリッツの攻撃により相手の息の根を止めたのは確実だった。


木の間から現れた二人はガイウス達のパーティに近寄って様子を見て、リナが仲間のフレンに指示を出す。


「フレンと言ったか、そこの戦士を回復してやってくれ、恐らく軽症だろう」


「わかったわ」


「アイリィ、運び屋の人たちを呼んできてくれ」


「わかりました、呼んできます」


フレンは、レフィの魔法で傷ついたガイウスのそばに近寄り回復魔法を唱え、体の傷を癒やしはじめた。

治療を行っている仲間を見てリナはこの事態を引き起こした人物に視線を向ける。


「さて、次はそこの魔法使いレフィだっけか、こいつの後始末だな」


リナは、レフィが倒れ込んでる場所に歩き出し、相手の前で立ち尽くす。

そして現在起きている事態に冷静に告げる。


「お前が何かするのは予想していたからな、ちょっと痛い目にあって貰った」


相手は上半身を起こし眼の前にいるリナに対して力を振り絞り魔法屋に対して罵詈雑言をぶつけてくる。


「このインチキ魔法屋!強力な魔法なんていいながら全然威力がないじゃない!」


リナは静かにしかし、表情から怒りを見せながらレフィに対して怒鳴りつける。


「あ?自分の魔法力の無さを人のせいにしてんじゃねえよ」


リナは、グレートボア討伐に対して先程起こった事実に対して告げる。


「さっきアイリィが使ったのはお前に教えた、リング・オブ・ウインドブレードだ」


「魔法の威力、狙いを外さず目的の場所に当てる攻撃の正確さ、相手の動きを止めるためにどこを攻撃したらよいかの判断力、どれをとってもお前とは違って一級の魔法使い、いわゆる魔導師だ、お前の比じゃない」


そしてリナはレフィの髪を掴み地面へ顔を落とし、先程発生した事態の自身の目で確認させる。


「お前は何をやった!?自己満足のために魔法で仲間を攻撃して危険に晒した」


「その結果、更に自分も負傷して命を落としそうになった」


「私らが来なかったパーティが全滅していた可能性もあった、それがどういった事かわからないのか!」


眼前に繰り広げられる光景、傷ついた仲間たち、グレートボアの攻撃で負傷した自分

レフィは体を起こし自分が何故このような事態を引き起こしたか静かに語りだした。


「みんなを見返してやりたかったのよ…」


「いつもアタシの事をみんな下に見て、小間使いのような魔法ばかり使わせて」


「私だって凄い魔法使いだって言うところ見せたかったのよ!いつも偉そうに私に!魔法を使わせてたガイウスに!みんなに!」


その言葉を聞いてガイウスの下からフレンがレフィの下へ早足で駆けつける。

フレンはレフィの真正面に立つと、襟元を掴み自分の正面へと持ってきた。

そして一瞬の躊躇もなく、レフィの白い頬に平手打ちを食らわせた。


パーンッ!


甲高い音が、静寂を取り戻した広場に響き渡る。レフィは、打たれた頬を押さえ、驚きに目を見開いた。


「あなたは…っ、ガイウスの気持ちも知らないで、なんてことを……!」


フレンは、いつもより更に激しい口調でレフィに対して言葉で責めた。


「仲間を組んで一年半、全く成長せず増長ばかりして、あんたは一体何をしたの!」


「魔法の力も、パーティとしてのスキルも全く成長しない!」


「私たちは何度もガイウスに、貴方をパーティから外そうと進言したのよ!」


「だけど『もう少し成長を見守ろうと』ずっと貴方の事を庇ってきたのはガイウスなのよ!」


「仲間としてなかなか成長しない貴方が怪我をしないように、ずっと守ってきて…それなのに」


フレンは言葉が詰まる。

相手から真実を告げられレフィの表情からは絶望に沈み込まれた。

自身の事をずっと庇ってきたのはガイウスだった事実。

仏頂面で感情をあまり見せないリーダー、だけどずっと守って来てくれていたこと。


「そんな…ガイウスが…そんな」


落ち込んでいるレフィを見据え語気強めにそして冷静にリナは語り始める。


「レフィ、お前は自分の魔法力がもの凄い力を持っていると勘違いしてるだろ」


図星だった。

幼少期に他の人達より魔法が強く一目置かれていたため、自身が強力な魔法使いだと自分自身で思い込んでいた。


「確かにお前には普通の人より多少魔力は高めだ」


「だが、私が見る限りお前の魔法の錬成力、コントロール、攻撃力全てが冒険者というレベルにすら到達してない」


「ハッキリ言ってやろう、お前の魔法はお子様のお遊びレベルだ、魔法使いと呼ぶのも烏滸がましいくらいの雑魚だ」


眼の前にいる魔法の強者より自身の魔法使いとしての力量を完全否定された。

子供のお遊びレベル、そう言われたらそのとおりだった。

小さい頃から全く成長していない、それは自分が勘違いしていたから。

しかし、何故それならと思い声を貼り叫ぶ。


「じゃあ、なんで私をパーティに加えたの!直ぐに追放してもよかったじゃないの!」


静寂の中、リーダーのガイウスはその質問に静かに答えた。


「お前が自分からパーティに入りたいと言ってきたからだ」


「確かに魔法使いとしての力量は感じられなかった、だが仲間に入り冒険したいその心意気を狩って仲間に加えたんだ」


レフィは思い出した、冒険者ギルドで魔法使いとして誘われるのを待っていた。

しかし、誰も誘ってくれなかった、周囲の者は知っていたのだ。

私が魔法使いとして使えないレベルだという事を。


そして、自分から売り込み行こうと想い、ガイウス達のパーティに「入りたい」と伝えたことを。

少し考えたが快く受け入れてくれたことを…


「まあ、コイツはその期待を見事に裏切ってしまったがな」


リナはレフィが行った行為を冷たく言い放った。


「じゃあ、仲間からは引導を渡しにくいだろうから私がコイツに伝えてやるよ」


「レフィ、お前が今日仕出かしたこととその罪状をハッキリさせよう」


「まず強くなるように大金を掛けて習得した新魔法を使い大事な仲間を攻撃した」


「加えて仲間の命を危険に晒したし、自身も怪我を負った」


「お前は冒険者としてやってはいけない事をした、冒険者失格だわかったか?」


リナは後ろを向きガイウスを見据え語りだす。


「ガイウス、後はリーダーのお前からレフィの処遇について伝えてくれ」


ガイウスは立ち上がりレフィの前まで歩き出す。

そしてしゃがみ込んでいる相手に対して片足を折り座り込み、リーダーとして責任を果たすため相手に、今までの事を謝罪しこれからの事を話し始めた。


「すまない…私の言葉が足りなかったのでお前にはつらい思いをさせた」


「だけど、お前がやった事は確かに看過できない、仲間の命が一番大事なことだ」


「もうお前をこのパーティには置いておけない」


「…さよならだレフィ」


別れの言葉を聞いてレフィは激しく泣いた。

自分のことを大事に扱ってくれた仲間がいたこと。

それに対して自分が行った行為に対する自己嫌悪。


今までずっと迷惑をかけていたのに我慢して自身と組んでいてくれたこと。

様々な感情が入り乱れ、ただただ悲しさが次々と押し寄せてきた。


運び屋と共にアイリィが戻ってきた。

運び屋の人達は気にもせず手慣れたようにグレートボアを持ち上げ台車に載せた。

リーダーと思える人物に輸送を承った印を渡し商業都市へと運んで行く。


ガイウス達は運び屋とともにレフィをその場に残し街へと戻りだす。

共に帰ってきたアイリィは、状況がよく飲み込めずリナへと静かに問いかける。


「師匠、あの子…あのままにしておいていいんですか?」


リナはアイリィに告げる。


「ああ、大丈夫だ、怪我は全身打撲くらいだからな、街まで近いし一人で戻ってこれるだろう、私らも帰ろう」


ひとり南の森で座り込んで泣き崩れるレフィを後に全員が帰路についた。



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