9.『案件2』母の想いと父の願い、お嬢様が見る未来
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ロゼリアの母との戦いで勝利した後、伯爵は彼女と起きたもう一つの出来事について語りかけた。
「ロゼリア、貴方に一つ伝えておくことがある」
「…なんでしょうか?」
「彼女は死ぬ間際に私にある取引を持ちかけてきた、これは私しか知らない話だが」
「取引…?なんでしょうか」
-----当時の回想
「おい!誰か回復魔法使えるものはいないか!?」
しか、他の者たちは村の捕物でバラバラに動いており誰も見つからなかった。
魔法をお腹に受け致命傷となったアンナは眼の前の騎士に、語りかけてきた。
「騎士さんよ、私はもうダメだよ…このまま死なせてくれ、それよりちょっと私と取引しないか…?」
「取引?犯罪者と取引など出来るものか!」
「…まあ、そう言わないでおくれ、貴方にとってもかなり利益がある話だ」
私は考えた、犯罪者との取引それは正しい行いではない。
だがその話が気になり、とりあえず聞いてみることにした。
「とりあえず話してみろ、聞くかどうかは解らんが」
「聞くさ…多分な…」
「実はな…私と貴族が取引し薬を購入していた帳簿をある場所に保管してある…この国の貴族大半が薬を購入していたリストだ…貴方がそれを入手したことにして王国に提出すれば恐らく大半の貴族が処罰される…そして貴方の家は大きな名声を手に入れられる」
「…だが取引を拒むならその帳簿は手に入らないし、腐敗した貴族もそのままだ、
どうだ悪くない話だろ…?」
ギルフォードは考えた。
確かにそのような帳簿があれば、我が家が大きな名声を手に入れられる。
貴族も腐敗が進んでおり、戦後復興も遅々として進行してない。
悪辣な貴族を処分出来るのは悪い話ではない、そう考えた自分は取引に応じることにした。
「わかった、その取引の内容とはなんだ?」
「…なに、簡単だよ、うちのダンナと娘が国外逃亡してもそのまま見逃してほしいんだ」
「ダンナはともかく娘は私の裏の顔は知らない、だが事実が知れれば何も知らないとしても、二人とも恐らく王政に粛清されるだろう…だから逃がしてほしいんだ。
ダンナもまともな商人として働いていた、この件には無関係だ、だから頼む…」
ギルフォードは考えた、犯罪者の家族を逃がしたとあれば自身の名誉に傷がつくかもしれない、だが腐敗した貴族の件を表に出し逃亡に関しては知らなかった事にすればそれも揉み消せるはずだ。答えは一つしかなかった。
「解った、ギルフォード・パーセイムの名において約束しよう」
その言葉を聞いてアンナは笑みをうかべ、今後のことを眼の前騎士に託した。
「…ありがとうよ、騎士様…帳簿は村の外れにある小さな農具小屋の下に埋めてあるよ…」
ギルフォードは彼女が死ぬ前に一つ確かめたかったことがあった。
「なぜ、貴方はこんな悪魔の薬を広めたんだ、死ぬ前に教えてくれ」
アンナは遠くの空を見ながら静かに語った。
「…私たちの庶民の生活を無茶苦茶にした貴族達へのささやかな復讐だよ…」
「…戦争で自分たちが住む街も滅茶苦茶になっていた…だけどそんな事を貴族達はお構い無しで重税を課して更に生活を苦しめた…その一方で自分たちは贅沢三昧…街を守る騎士たちも裏で恐喝や物品強奪が横行して誰も取り締まりもしない…私たち庶民を誰が助けてくれるんだ…だから貴族も騎士も痛い目に合わせてやりたかったんだ…」
「我が領地ではそんな事はしていない!民と共に復興を頑張っているつもりだ」
「そうか…そういう貴族もいるんだな…あんたのとこの領民に生まれたかった…よ…」
「後は頼んだよ…ギルフォードさんよ…」
彼女は見知らぬ私に今後のことを託しそして静かに息を引き取った。
伯爵はそしてその後の顛末についても語った。
「私は彼女が教えてくれた帳簿を見つけ、父を経由して王政に提出し大量の貴族が処分された」
「お家取り潰しなど厳しい沙汰が下された、そして我が領地は貴族たちの領地を併合し大領地となって、王政に貢献したとして父も伯爵から公爵まで格上げされた」
「そして他の国に逃亡しようとしていた貴方と父君を裏で手を回し、国境で通すように伝えておき、二人とも西の国に逃亡した」
「その後、貴方の父君は真っ当に商売を続け、西の大商人と呼ばれるほど大きな商会を作り上げ、貴方を育てたという事だ」
伯爵は更に何故この件を隠していたのか自身の思いをロゼリアに伝える。
「私が面会を断ったのは、貴方の母との約束でもある。何も知らず西の商人として仕事を頑張ってほしかっただけだ、会えば真実を伝えるしかないと思ったからだ、だが貴方は来てしまった」
沈黙が応接室に広がる、ロゼリアはどうするべきか悩んでいる。
そこでリナが口火を切った。
「お嬢様、貴方は事実を知り困惑していると思うが、伯爵の心遣いに答えるべきだ」
「貴方は母が犯罪者だったという事実を知った、だが貴方を育ててきた父君はどこまでも真っ直ぐに商売を続け貴方を育ててきたと思うんだ、大切な娘の幸せのために」
「グレイスフォード商会は真っ当な商売で大きくなったのを街の噂で知っている、
だったら母親の敵討ちなどせず、貴方も父君の想いを継ぎ商会の跡取りとして事業を継ぐのが娘としての立場ではないか?」
伯爵もその言葉を聞き同意する。
「私もそう思うよ、何もなかったと信じ、このまま元の国に帰りたまえ」
「伯爵、この話を知っているのはここにいる三人だけでしょうか」
「ああ、ここにいる三人しか知らない」
「お嬢様、私は秘密は守る、この事は誰にも口外しない約束する」
ロゼリアは上を向きながらこれからの事を考えた。
二人のいう商会の後を継ぐ、それが大事に育ててくれた父が願う想いだということを気づかせてくれた、だったら自分が行うことは何か考えるまでもない。
そして意思の強さを見せながら答えを出した。
「伯爵…お話を伺って真実がわかりました、そして貴方様は母の敵討ちにしか心になかったワタクシに実際は道を与えてくださったとは知らず、大変無礼な真似をしてしまいました」
「それは私が阻止させてもらった、恐らくこうなる事は織り込み済みだ。だから伯爵と会った時には絶対防御魔法で物理攻撃を防ぎ、加えて魔法発動も阻害しておいた」
「なるほど…魔法が発動しなかったのはキミのおかげか」
「ええ、伯爵に無礼があってはいけませんから」
「さすがアルテロ殿の弟子と言うわけだ、それでロゼリア君はこれからどうするんだ?」
ロゼリアは決意を固めたように力強く答えた。
「はい、国へ返って父の事業を継ぎます、それが恩義に報いることだと感じました」
「そうだな、そうしたまえ、それが貴方のためだ」
「よし!では決意も固まったことだし帰りましょうか」
ロゼリアとリナは伯爵と執事に見送られ、そのまま屋敷を出る。
リナは商材を手に入れるため数日残ると伝え彼女だけ先に国へと戻ることになった。
「伯爵、リナさんありがとうございました、それでは失礼いたしますわ」
「ああ、商売頑張りたまえ、あとよき伴侶も見つけて幸せになりなさい」
「道中気を付けてな、あと残りの代金よろしくな」
軽く会釈してロゼリアを乗せた馬車が出発する。
ロゼリアの表情は晴れやかだった、過去の事実それは変えられない。
だけどこれからの未来は自分で作っていくものだ、大切に育ててくれた父の想い、
娘を大事に思ってくれた母の想い、皆の想いを背負い生きていくと強く決心した。
ひとり残ったリナは伯爵に確認するため、問いかけた。
「伯爵、ひとつ聞いていいですか?」
「なにかな?」
「私の師匠アルテロがこの街を救った事があると言うのは、どのような出来事だったんでしょうか」
伯爵はその話を聞いて突如として笑い出した。
「どうしたんですか?」
「いや、その時の事を思い出してね」
伯爵はその時の出来事について語りだす。
「十二年前だったか、この領地がジャイアントオーガの大群に襲われてね、騎士や軍も動員してかなり苦戦していたんだ」
「長時間戦闘が続いていたのだが、戦いの音が煩かったのか、突然戦場にアルテロ殿が現れて『ギャーギャーうるせえんだよ!眠れねえだろうが!』と叫んで百数体いたジャイアントオーガを一瞬で全滅させたんだよ」
「…ああ、師匠寝てるの邪魔されるとめっちゃ機嫌悪くなるからな…師匠らしいや」
「そしてそのまま宿屋に帰り、また眠りについたようだ」
「師匠は相変わらずブレないなあ、納得しましたよ」
「で、その後に街を救ってくれたお礼をしたいと伝えたが 『よく覚えてない』
と言われ断られた、だが何かお礼をしたいと願ったらこう言ったんだ」
「『私の弟子がもし来るような事があったら力になってくれと』、そしてアルテロ殿はふらりと街から消えていった」
「…なるほど、だから伯爵は私と面会を、ありがとうございました」
「まあ、今回は特に何もしてないが…もし困ったことがあったら言ってくれ」
「わかりました、伯爵とのコネクションも出来たので頼りたい時があったら、
何かお願いしに来るかもしれません」
リナは伯爵と握手を交わし、カルドラフへの帰路へついた。
そしてアイリィに衝撃の事実を知らされる。
「店長、おかえりなさい、あのう…何かあったんですか?」
「どうした?何かあったか?」
「はい、あの先日のお嬢様から後払いの報酬をいただいたんですが…なんでも乙女に大きな恥をかかせたので報酬半分に減額だと…」
リナは伯爵邸で起きた出来事に対しての仕返しだと思い激怒した。
「あの、お嬢様ああぁぁ!!」
帰りの馬車でロゼリアお嬢様は静かに言った『お返しですわよ』と幼い仕草で、
タリスマンに向かってぺろりと舌を出して帰っていった。




