露出狂戦士
俺は、ただの田舎の少年だった。
村の外に出たこともなく、剣を握ったこともない。
だが、その日。
俺の前に、黄金の騎士が現れた。
「汝、名を何という?」
透き通るような声。
目の前に立つのは、黄金の鎧をまとった女だった。
甲冑は眩い光を放ち、まるで神々の祝福を受けているかのよう。
長く流れる金髪に、凛々しい青い瞳。
しかし、俺は彼女を見て、一つの疑問を抱かざるを得なかった。
「……え?」
何かがおかしい。
確かに、彼女は全身に甲冑をまとっている。
だが――
なぜか、大切なところだけが無防備だった。
胸元は、黄金の装飾が施された豪奢な鎧。
だが、そのすぐ下の腹部――
そして、太ももや腰回りには、なぜか防御がない。
金色の鎧は、彼女の身体のラインを際立たせ、
それでいて、何も守っていないかのようだった。
俺は、困惑した。
「……えっと、その……鎧、変じゃないですか?」
すると、彼女は俺を見つめ――
「何が?」
と、首を傾げた。
その瞳には、本気で俺の疑問が理解できないという色が宿っていた。
「いや、その……普通、鎧って全部覆うものじゃ……」
俺が言いかけた瞬間だった。
世界が、一瞬だけ歪んだ。
空気が揺れ、風がざわめき、太陽の輝きが僅かに揺らいだ。
そして――
俺が目を戻すと、
彼女の鎧は、完全なものになっていた。
胸も、腹も、腰も、太ももも。
全身を覆う、まばゆい黄金の鎧。
一分の隙もない、まさに戦場に立つ騎士そのもの。
俺は、息を飲んだ。
「……」
彼女は、何も言わなかった。
ただ、まるで最初からそうであったかのように、
鎧を軋ませながら、俺の前に立っていた。
俺は、目を逸らした。
そして、何も言わずに背を向けた。
彼女も、何も言わなかった。
***
翌朝、目を覚ますと、村の広場に人だかりができていた。
「おい、お前も見たか?」
「すごいぞ、黄金の騎士がやってきた!」
俺は、凍りついた。
広場の中央に立っていたのは――
昨日と全く同じ、黄金の鎧の女だった。
しかし、昨日のような露出はどこにもない。
最初から、全身を覆う鎧をまとった完璧な騎士だった。
そして――
彼女は、俺を見ても、何の反応も示さなかった。
まるで、初対面のように。
俺は、知ってしまった。
「露出狂戦士」
彼女は、この世に存在しないもの。
名前を呼んではいけない、何か。
そして――
決して、指摘してはいけないものだったのだ。