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身代わり悪役令嬢は呪われている 〜破滅を回避したいだけなのに、何故か第二王子に溺愛されてます〜  作者: シアノ


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17/20

17:ユリウス様を信じて

「──エリーシャ!」


 確かにそんな声が聞こえた。

 ユリウス様の声だ。

 私は換気口に向かって返事をした。


「ユリウス様……っ!」


 しかし、雷魔法による痺れが残った体では大きな声は出せなかった。

 たったその一言を発しただけで息が切れてクラクラとしてしまう。


 だめだ、声では届かない。


 けれど、ユリウス様が私を探してくれているのなら、すぐに助けてもらえるはず。

 わずかとはいえ、希望が見えてきた気がする。


 そう考えた時。


「──はい、なんですの?」


 ユリウス様の声に返事をしたのはエリアンナの声だった。

 そして話し方は、悪役令嬢口調の私の真似である。


 つまりユリウス様のそばには、私のフリをしたエリアンナがいる。


 話している内容からして、庭を散策しているようだった。二人は楽しげに会話を続けている。


 ……今の呼び声は私にではなかったのね。


 私は体の力が抜けて、土魔法で作った土台にペタンと座り込んだ。


 エリアンナと私は一卵性の双子だ。両親も見分けがつかないくらい似ている。

 やっぱりユリウス様も、私ではなくエリアンナであることに気づいていないのだ。


 想定していたとはいえ、ショックが大きい。

 魔法で灯した火がフッと消え、地下室は再び暗闇に沈み込んだ。


 ユリウス様が『エリーシャ』とエリアンナのことを呼ぶたびに、ズキンと胸に痛みが走る。

 エリアンナに私の全て……名前までも奪われてしまったのだ。


 ──待って。


 私はあることに思い至り、はたと顔を上げた。


 ユリウス様が、私のことをエリーシャと呼ぶ?

 それは、おかしい。

 ほんの数日前にリーシャと呼ぶと約束したばかりなのに?

 ユリウス様が約束を忘れるはずがない。


 もしかして、ユリウス様は私ではなくエリアンナであることに気づいているのでは。

 そしてあえてエリーシャと呼ぶことで、エリアンナの成り変わりに気づいていることを、私に知らせようとしているのではないだろうか。


 そう考えると、再び立ち上がる気力が湧いてくる気がした。


 ユリウス様はエリアンナだと見破ったけれど、私がどこに閉じ込められているかわからず、探っている最中なのかもしれない。


 それなら地下室にいることを伝えられたら、助けに来てもらえる。

 

 しかし、どうすればいいのだろう。大きな声はまだ出せそうにないし、仮に出せたとしても、外は物音が多く、声くらいではかき消えてしまうかもしれない。


 ……私がもっと光魔法を使えれば。


 ついそんなことを考えてしまう。

 ゲームのシナリオで雪乃が閉じ込められた時は、光魔法で解決したのだ。


 雪乃は悪役令嬢エリーに倉庫に閉じ込められ、光魔法で壁を照らし、小さな亀裂を発見する。

 暗くなるのを待ち、その亀裂に向かって強力な光魔法を向けるのだ。

 すると好感度が一番高い攻略対象が亀裂から漏れた光に気づいて助けに来るのである。


 問題は、ここは地下室で壁の亀裂もないし、光魔法適正が少ない私には、場所を知らせるような強い光魔法も使えないことだ。


 しかし、換気口から声が聞こえたということは、おそらくユリウス様は換気口のそばにいる。

 とにかく合図をすれば、気づいてもらえる可能性がある。


 それなら、雪乃のように強く光らせず、ほんの一瞬の光だとしても、気づいてもらえるかも。


 どうせ私の得意な魔法は合図に向かないのだ。

 外まで光魔法が届くかは賭けだが、ここで手をこまねいている暇はない。


 私は換気口に手を当てる。

 おそらく、換気口は筒状になっていて建物の基礎を通っているのではないだろうか。

 私は手から離れた箇所に光を集めるイメージで魔法を放った。

 外まで光が届いたかはわからないが、換気口の中でパッと光り、一瞬で消える。


 それを見て、ふと思い出したのは、学園で転ばされた時にユリウス様が拾ってくれた、あの思い出の本だった。

 あの本には光を点滅させる暗号が出てくる。そう、前世の記憶でいう、モールス信号に酷似しているものだ。


 どうせ光魔法は持続せず点滅してしまうのだから、暗号にすればユリウス様に通じるかもしれない。


 助けて、地下室にいる──いや、それは長い。ユリウス様が私を探しているのなら、「地下」の二文字で通じるはずだ。


 私は換気口に手を当てたまま、何度もチカチカと光らせる。

 タイミングを調整しているから、わかる人が見れば暗号として伝わるはずだ。


 しかし、得意ではない光魔法を連続して使うと魔力の消費が思いの外激しい。

 さっきから火魔法で照らしたり、土魔法で踏み台のような足場を作ったりと無理をしていたのもあって、魔力欠乏により頭がクラッとするのを感じる。


 それでも私はやめなかった。


 私はもう、エリアンナに負けるのは嫌。

 エリアンナには絶対に屈しない。

 そんな強い思いを込めて、光魔法で合図を送り続ける。


 はあ、はあと息が荒くなる。息を吸っても吸っても肺に酸素が入ってこないかのように、苦しくてたまらない。

 暗闇の中にいるのに、魔力欠乏のせいで目の前がチカチカして赤く感じるし、キーンと耳鳴りもし始めた。


 だから、バタバタ、ガタガタという物音が本物か、それとも耳鳴りによる幻聴なのか、すぐにはわからなかった。


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