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11/20

11:もうあなたたちの思い通りにはならない

 順調過ぎる日々に、いつかこんな日が来ると思っていた。


 エリアンナは私の部屋にまで追いかけてきて、ニヤニヤと唇を歪めながら室内を物色する。すぐにユリウス様からのプレゼントを見つけてしまった。


 本以外はものが少ない私の部屋で、王室御用達のブランドの刻印がされている木箱は目立つ。


「あら、その箱は何かしら? エリーシャ、私にも見せてくれるわよね」


 キランと目を光らせて、勝手に木箱を開けるエリアンナ。

 ユリウス様からのプレゼントのドレスを見て、頬を紅潮させた。


 やっぱり、エリアンナが目の色を変えるほどいいドレスなのね。


 彼女の瞳にはギラギラした欲望が渦巻いている。


 エリアンナには今年作っただけでたくさんのドレスがある。まだどこにも着ていっていないドレスもあるはずなのに、エリアンナに我慢という言葉などないことを私はよく知っていた。


 案の定、寄越せと言うエリアンナ。


 エリアンナに奪われるのを、また黙って見ているしかないの?


 ──そんなの、嫌!


 エリアンナの手がドレスに触れようとした瞬間、思わずエリアンナの手を払いのけていた。

 大切なドレスを奪われないように抱え込む。


 このドレスは私だけのもの。

 私のために作られた、私が愛されている証なのだ。

 エリアンナには触れさせたくない。


 私はずっとエリアンナに萎縮していた。

 誰も味方になってくれず、いつも自分の責任じゃないことで責められ、何を言っても無駄なのだと諦めていた。


 けれど私はもう、以前の私ではない。


「お断りですわ。ユリウス様からいただいたと言ったはずですが、聞こえませんでしたの? ユリウス様と出かける用事があるのです。その時に着る約束をいたしました。このドレスは私のもの。エリアンナには指一本触れさせません!」


 そうはっきりと言い切れば、心が高揚した。

 悪役令嬢の強い口調を使うだけで心が引っ張られ、強くなれたような気がした。


 エリアンナは目を大きく見開く。

 私に拒否されるとは思っていなかったのだろう。

 ただし、それくらいで諦めるエリアンナでないことも、私はよく知っていた。


 エリアンナは両親に泣きついたのだ。

 両親は、エリアンナを庇い、私に向かって青筋を立てて怒鳴り立てた。


 しかし私も引いたりせず、ドレスはユリウス様からのプレゼントであるため、渡せないとはっきり伝えたのだ。


「お父様、第二王子ユリウス様から下賜されたという意味がわかって? 着ていく約束もしております。許しもなく勝手に譲ってはなりませんのよ」


 そう論理的に言えば、今度はお母様が情に訴えてくる。

 いつもお父様は頭ごなしの叱責をし、お母様は情に訴え、私を悪者としようとする。


 しかし、私は悪役令嬢なのだ。もう今までの私じゃない。

 自分の意思でふんぞり返り、顎を上げる。

 扇子で口元を隠しながら両親とエリアンナに視線を向けた。


「お父様、お母様。お二方がわたくしに求められているのは、ユリウス様の婚約者という役割ではございませんこと? そしてわたくしはユリウス様に気に入っていただいています。こんな素晴らしいドレスをいただくほどに。ですけれど、エリアンナにドレスを渡したら、ユリウス様もお気を悪くされてしまいますわ! そうしたらどう責任を取るおつもりですの!?」


 まるで虎の威を借る狐だけれど、そもそもユリウス様と娘を婚約させようとしていたのは両親だ。この婚約に得るものがあってのことのはず。


 そして、私がユリウス様と上手くいっているという結果を出せた以上、無駄な意見を聞く必要はない。


「わたくしに課せられた役割は果たしておりますわ! そうですわよね?」

「ぐ……そうだが」


 お父様はさすがに認め、お母様も何も言えない。

 

「エリアンナ、すまないが……」

「ちょっと、なんで、ねえ、お父様、お母様!」


 私はニッコリと微笑む。

 もう、エリアンナの思い通りにはさせない。


「ええ、ユリウス様を怒らせないためにも、エリアンナにドレスは渡せません。何度言われても同じですわ! さあ、お話は終わりですわね。わたくし、やることがありますの。部屋から出て行ってくださること?」


 両親は渋々と部屋から出ていく。エリアンナは泣きそうな顔で私を睨んでいたが、諦めたようにプイッとそっぽを向いた。

 

 苛立ちのまま力任せに閉めたらしく、激しい音がして扉が閉まった。

 大きな音に思わずビクッとしてしまったけれど、もう部屋には私だけしかいない。

 ホッと息を吐くと、全身の力が抜けた。


 正直に言えば怖かった。でも。


「や、やりましたわぁ……」


 胸をぎゅっと押さえる。

 充足感が胸を占める。

 勇気を出せた。勝てたのだ。


 初めてちゃんと両親に言い返せた。

 初めてちゃんとエリアンナから大切なものを守り通すことができた。

 初めてちゃんと、私は自分を肯定してあげられた。


 私はクローゼットにドレスをしまう。

 それから、部屋の扉を魔法でしっかりとロックした。

 エリアンナが両親に諭されたくらいで諦めるとは限らない。私のいない隙にドレスを盗み出すかもしれないし、侍女や掃除のメイドもエリアンナの味方なので信用できない。


 留守中にも必ず魔法で鍵をかけておこう。

 もう、エリアンナに負けないようにしなければ。


 ユリウス様の隣に立つためにも、もっと強くなる必要があると思ったのだった。


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