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聖女メアリィ


――――レベッカとディアナと再会した翌日には、下町に逃れた邸のみんなとも徐々に会うことができた。

みんな私が生きていたことを喜んでくれて、私もまた再会できたことを喜んだ。しかし相変わらず、これ以上は手詰まりだ。


公爵家を取り戻そうとするみんなを必死で止めるしか、私にできることはなくて……。


「門下の貴族も当たれる……かな」

できることはなくても……せめて顔だけは無事を……。

「当たってどうする?俺たちはどう足掻いたところで手詰まりだ」

「それは……」

フィーロの言う通りだ。王命を覆す。あの国王を説得するのは不可能だ。お父さまですらダメだったのだ。

公爵家を取り戻し、みんなを助けるためにはもはや、王を討つしかない。そりゃぁ公爵家の軍事力総力で攻めれば勝てるかもしれない。けれど公爵領から大軍を率いれば確実にバレるし、その好きにイグナルス帝国に攻められる。さらに辺境伯側の国境も危なくなる。

私のためにここに残ってくれているみんなも、門下の貴族たちだっているのに……謀反以外に打つ手がない。そして失敗すればみんな揃って共倒れである。だからもっと……何か、あと一手が欲しい。


「……何か、騒がしい」

ような……?


「お貴族さまでも来るのかねぇ」

フィーロが呟く。


「でも……どうして……?もう日が暮れるのに」

孤児院訪問や、救貧院の炊き出しならしたことがあるが、その場合入念に準備をするし、御触れを出す。必要なひとにものが行き渡るよう、そして殺到しないように曜日を決めて、繰り返す。王都の場合は地区を決めて、高位貴族を中心に門下たちとの交代制だったはず。さらにはこんな夕暮れから……?王都の治安はそこそこ維持されているとはいえ、犯罪が起きないわけではない。警備も合わせて追加手配しないといけない。だから災害時を除いては、集まる民衆の安全確保のためにできるだけ避けるはずだ。


「ここら辺でも、慈善事業を……?」

「いや、ここらは平民街でも潤ってる方だ。西部だからな」

王都の中心部は貴族街が多く、ほかは東西南北で豊かさや住まう住人が分かれる。その中でも西部は……裕福な商家や商人、貴族邸で仕事をもらえるような平民が多くい。平民の中でも高級住宅街なのだ。


「門の近くは違うが」

門の側は旅人や冒険者たちが行き来し、ガラの悪いものもいないわけではない。


「西部はわりと、治安がいい。ああいうやつは自ずと追い出される」

あの時私に声を掛けた男のことだろうか。フィーロも気にかけてくれているのか。


「関わらない方が身のため。とっとと行く……」

フィーロがそう言い掛けた時だ。


「ちょっと、何なのよこれ!誰も私をありがたがらないじゃない!私は聖女なのに!」

聞き覚えのある声にびくんと震える。


前方に聖騎士たちと現れたのは、ガチガチに着飾ったメアリィだ。

平民出身とあって当初は庶民に人気が出たメアリィだが、いかにもと言う贅沢を身に纏った彼女を歓迎する庶民がどこにいようか。

聖女になって貴族のような贅沢をし出した聖女など。

そして慌てて目をそらそうとしたのも遅く、メアリィと私の目が合った。


「キャアァァァッ!ロザリアよ!悪女ロザリアだわ!何よ!殺したんじゃなかったの!?追っ手が行ったはずじゃない!」

あ……悪女……?それは私のこと……?それに追っ手なんていなかった。知らぬ男に無理矢理絡まれていただけ……。あれ……?あの時フィーロは何と言ったかしら。まさかメアリィが手配した追っ手をフィーロが片付けてくれたの……?

しかしどうしてフィーロが……。

そして周りの騎士たちが宥めるように『見失った』『帰ってこなかった』だの不穏な言葉を漏らす。その……それもやっぱりフィーロが……?

しかしそれも聞かず、メアリィは叫ぶ。あの子は……自分に都合の悪いことはとことん聞かないたちなのよね……。


「いい?聞きなさい!ロザリアは聖女である私を虐げたの!聖女を虐げた悪女が国にいたら、この国は神に愛されず滅んでしまうわ!」

確かに聖女を大切にしなければ国が傾くと言われている。しかし、私は悪女でも何でもない。

むしろ悪女は……。


だが、脚がすくむ。こう言うときにもっと言い返せれば、今の状況は変わっただろうか。

だけどその一歩が踏み出せない。


「恐いのか」

「……」

フィーロが小さく問うてくる。


「早く殺しなさい!!」

が、そんな些細な優しさすらも封殺するがごとくらメアリィが聖騎士たちに命じる。その聖騎士たちは……あの時と同じ、ただの聖騎士ではない。聖女の命を絶対として忠誠を誓う特別な神聖騎士だ……!


彼らには特別な聖剣がある……!

ダメだ……このままじゃフィーロまで殺される……!


「ふぃ……フィーロ!にげ……っ」

あなただけでも……っ。しかしフィーロは剣を抜き、私を庇うように腕を伸ばすと呟いた。


「恐れるな、突き進め、イグナルスの先にこそ、我ら帝国の栄光がある」

それは……まさかイグナルス帝国の……っ。

フィーロは……イグナルス帝国人だったの……?



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