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裁きの時


玉座の間に続く扉の向こうには、バリケードが敷かれ、残り少ない近衛騎士たちが国王たちを守っていた。王妃、王太子、宰相やその子飼いの高官もいるようだ。


「玉座の間ってさぁ、いざと言う時用の抜け道とかありそうだけど」

と、エレミアスが嗤う。相変わらず緊張感のないひとである。


「壊れていたそうですよ」

と、トール。一体誰が壊したのか。まさか……お父さま……?先王兄の息子とは言え……知っていただろうか……?いや……むしろ。兄だった祖父は元々、王位を継ぐために知っていたのではないだろうか。しかし王位を継ぐことができなかった。理由は祖父の母親は元は正妃だったが、後からやって来た隣国アソーモスの王女が無理やり正妃の座をもぎ取ったから……と言う理由で、側室の王子になった祖父は長男でありながら王位を継げなかった。

しかしそれを父親である曾祖父が不満に思い、祖父に抜け道を教えていたとしたら。

まさかとは思うがあの公爵領の防衛も……祖父が……?いつか意趣返しをするために玉座の間に仕掛けをしていたとしたら……割りととんでもない祖父だったのかも。

いや……全ては隣国アソーモスの王妃のせいとも言えるけれど。


因みにその隣国アソーモスが、辺境伯領が睨みを効かせている相手であり、正統な跡取りだった祖父を追いやった怨みも抱えている。


むしろこの国の貴族たちのほとんどは、隣国アソーモスから無理やりやって来た元王女の血筋の現王よりも、祖父を推していたのではなかろうか。


「くそ……くそ……っ!何でこんなことに……!裏切り者おおぉっ!」

縮こまりつつも国王はそう叫びながら、私と目が合う。


「あ……アイツの娘……!前宰相の娘がっ!くそ……っ、せっかく目ざわりなアイツを消したのに、お前もかぁっ!」

やはり、この国王が全ての元凶。やることが曾祖母にそっくりね。

どうしてこうもあっさりと吐くのか。いや、死ぬか生きるかの瀬戸際だからだろう。


そして次は形だけの現宰相が、気持ちの悪い笑みを浮かべてくる。


「この小娘がぁっ!裏切り者めぇっ!目にもの見せてくれようかぁっ!」

私は昔……同じように迫られた。普通ではない異様な雰囲気を醸し出したこの気持ちの悪い男の眼差し、怒鳴り声、圧迫感。

お父さまが慌てて駆け付けてくれなかったらと考えると、今でも身の毛がよだつ。――――が。


もう、怖じけづいたりしない。

恐れるな。

もう、恐れない。


「あなたに言われる筋合いなんて、この世界の何処にもないわよ!!」

私が初めて反抗したことで、宰相は意表を突かれたようにビタリと止まる。

所詮は恐怖で物言えぬ少女を威圧することでしか、そのハリボテの権威を振りかざすことができない、愚かな男なのだろう。

そして私の隣に立つフィーロが口を開く。


「さて、なるべく流れる血は少なくしたいんだがな。しかしお前らには相応の責任ってもんを取ってもらうぞ」

そして剣を抜きはらえば、途端に彼らが助命を乞い出す。

「た、助けてくれええぇっ!わしは……わしは悪くない!」

全ての元凶である国王が、何を言うか。メアリィを押し付け、お父さまを殺し、さらにはジルクがメアリィと結婚し、公爵家を与えることを是とした。


メアリィを無理矢理うちの養女にしなかったことだけが幸いだが……それはさすがに貴族たちの反発を恐れてなのだろうか。まるで何か見えないもので決められているように、そうはならなかった。


しかし、貴族たちが認めた私とジルクの婚約、それはジルクが公爵家を継ぐと言うこと。継いでしまえばメアリィを妻にしようが、私を追い出せればいいと思ったのだろうか。

そしてそちらはメアリィの養子縁組とは違い、何かの流れに乗るようにすっぽりと収まってしまった。


だがしかし、こいつらがどこまでも愚かなことには変わない。

お父さまの公爵家に寄生虫のようなメアリィを夫人として寄越し、直系の私を追いやったことは、貴族たちに一種の決意を与えたはずだ。

この王を……見限ると。たとえ帝国のものになったとしても、この国の本当の名を取り戻したいとみな願ったのだ。

――――さらには。


「私は関係ない!離婚するから許してぇっ!」

それで許されるほど、王妃と言う立場は甘くない。むしろメアリィを王城で飼育しなかったのには、この王妃の影響もあるのではないだろうか。他人の物を欲しがり、都合の悪いことは他人に押し付け、金銀財宝、ご馳走を求め贅沢の限りを尽くす。既にその境地にいる王妃と、それが欲しいメアリィは多分……相性が悪すぎる。

国王は手に負えず、王妃は同じ穴の狢を嫌がった。

さらには……。


「私はこの国の後継者だぞ!?殺せば貴族の反発に遭う!」

そう、王太子が叫ぶ。

貴族が支持しているのは、王太子のあなたではなくお父さまの娘の私なのに、理解していないと言うか、自分が支持されていると言う絶対の自信があるのね。どこからそんなものが湧いてくるのやら。皇太子殿下は朗らかな一面を見せつつも、どこか策士の一面を見せ隠れさせる。皇太子殿下とは後継者としての資質も心構えも、何もかもが違うわね。


近衛騎士たちもさすがに良心の欠片があったのか剣を降ろして投降し、国王たちが『役立たず』だと吐き捨てる。そのようなことを言うものたちだ。彼らもその前に投降できて何よりね。

さらに……。

「わ、わしは……っ」

そして宰相が汚い口を開けようとしたその時だった。


「悪いが貴様は一番に調査を済ませている。散れ」

フィーロのひと太刀が容赦なく宰相のでっぷりとした身体を斜めに引き裂き、宰相が断末魔の叫びの元、絶命する。しかし……どうして宰相を一番に調査を済ませているのだろうか……?無難なところからってことかしら……?


そしてその様子を見たほかの面々が恐怖で逃げ出そうとするが……。


「逃がすかよ……!」

ニィッと笑んだエレミアスが、王太子の腹をかっ裂き、続いて王妃や高官たちを仕留めていく。


「んで?国王どおしよ~」

エレミアスが告げた瞬間、国王が口を開く。


「わ、わざとじゃないんだ……!ただ、馬車に細工しただけで……偶然馬車が事故に遭って前宰相が死んだだけで……だからわしだけは……た、助け……っ」

偶然ではなく、確実に故意である。

やはり人と言うのは命の危機を迎えるとなりふり構わなくなるらしい。


「じゃぁお前も偶然死にな」

そうフィーロが冷たく告げれば次の瞬間、フィーロが払った切っ先が偶然のように当たり、国王の喉を貫き……国王は絶命した。





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