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こんなタイミングで婚約破棄ってあり?


――――ここは、今はランゲルシアと名を改めた王国王都の大神殿。今まさに結婚式が執り行われようとしていた場に、響き渡った怒号。


「ロザリア・ヴェナトール!貴様との婚約は破棄させてもらおう!」


「……えっ」

私はウェディングドレスを着たまま、突然婚約破棄を告げられたのだ。


「どういう……こと、ですか」

私は震えながらも、夫となるはずだった金髪碧眼の青年を見やる。そしてその胸元に抱き付くのは、ハニーブロンドにチェリーピンクの瞳を持つ少女メアリィである。


「どうもこうも……メアリィ全て聞いたぞ!君は毎日のようにメアリィを使用人のように扱い虐待し、食事も与えず、ドレスや宝石まで奪ってきたそうじゃないか!そんな君がこのぼくと結婚するにふさわしいとでも!?」

いや、そんなこと知らないし。私はやってない。

それから使用人のようにとは……?その子は使用人なのだが。

「うぅ……ジルクぅ」

そしてその言葉に涙ぐみ、私の夫となるはずだった青年ジルクの胸元に顔を埋めながらも、私にだけ見えるようにニィと口角を吊り上げる。

全部……謀られていたと言うこと……!?しかもそれを、結婚式の直前にやらせるだなんて……っ。


「ぼくは君との婚約を破棄し、今日ここでメアリィと結婚する」

「ジルク!嬉しいわ!」

そしてメアリィは涙で全く濡れていない顔で、ジルクを見上げた。


「それに君はこんなにも、美しい」

ジルクがうっとりとしながらメアリィを見下ろす。どうせ私は……地味な令嬢よ。

お父さまはお母さまによく似た淡いライラックのような色の髪にレモンイエローの瞳を褒めてくれたけど。

だけど……一歩屋敷を出れば違う。王城で執務をさせられた時も、周りは貴族出身の侍女ばかり。地味なネクラだって、バカにされ続けた。


「当然君はヴェナトール公爵家から追放だ。そしてメアリィが公爵夫人になるのだ」


「メ……メアリィは……ヴェナトール公爵家の血を引かないので、公爵家の籍にすら……入っていません。その子は……使用人です」

虐待など断じてしていないが、ほかの使用人と同じ待遇を与えただけだ。食事もほかの使用人と同じ賄い食。それでも問題を起こすメアリィは、度々隔離されたが。

使用人の中でも一番立場の低かったメアリィがドレスや宝石を手に入れられるお金があるわけでもなく、時にはお母さまの遺品を盗もうとまでしたのだ。

それでも追い出されなかったのは、国王陛下から彼女を公爵家で面倒を見るようにと命じられたからにすぎない。メアリィは……聖女と呼ばれる特別な存在であったからだ。

だがしかし、亡きお父さまは賢明であった。国王陛下からは面倒を見るようにとしか言われていない。だからこそ平民出身の彼女にふさわしい仕事を与え、公爵家で面倒を見た。しかし彼女は度々使用人にあらざる態度を取った。


公爵令嬢である私と同じ待遇を要求し、暴れた。聖女であることを利用し、自分が公爵令嬢だと名乗った挙げ句、ドレスや宝石、ごちそうをねだったのだ。あまりにも横暴すぎる。

生前のお父さまは早くからメアリィの本性を見抜いていたのか、使用人以上の存在にはしなかった。


度々メアリィの異常性を国王陛下には訴えていたが、聖女だからと押し付けられるだけ。

恐らく王城では2人も手が付けられなかったからうちに来たのだろうか。

しかしそれならジルクは彼女の我が儘傲慢っぷりを見たことがないのか、それとも見た目だけは抜群の彼女にすっかり惚気ているのか……それとも彼女を含めてそれが彼にとって『普通』だと思っているのだとしたら恐ろしい。

しかしそれ以上第2王子であるはずのジルクは異様なほどメアリィに夢中すぎた。

でも……。ここはハッキリ告げなければ。


「……だからっ、私以外は公爵家を継げません……。あなたは……私と結婚しなければ……公爵位を継ぐことはできない……んです」

「そんなことはない!」

その怒声にビクンと怖じ気付いてしまう。


「父上も許可してくださった!」

こ……国王陛下が!?しかし……お父さまがどんだけメアリィの所業を訴えてもうちに丸投げするだけだった陛下だ。

ぶっちゃけ……それほど信頼に値するとも言い難い。


「そして、ぼくがヴェナトール公爵となり、カサンドラが公爵夫人となることもな!」

そんなバカな……。

しかし国王の言うことが絶対なこの国で、それを言われればうんと言うしかないのも事実。ヴェナトールの名だって……。

それを打破するには……国ごと取り戻すしかない。しかし今の私にはそれを成し得る力も、度胸もない。


「さぁ、貴様は今すぐここから出ていけ!あとそのドレスと宝石は脱いでいけ。メアリィのための花嫁衣装だからな!」

「そうよ、私のドレスと宝石を奪うだなんて、なんてひどい女なの!?早く返してよ!」

元々彼女のものでも何でもないのだが。しかし、聖女の言い付けだからだろうか、神殿の聖騎士たちが迫る。その中でもほかの聖騎士とは違う鎧を身に纏う4人の聖騎士は……聖女のための特別な神聖騎士だ。もう……逃れられない。


「せめて……控え室に案内して……」

こんな絶望的な状況で言い返す気力も失ってしまった。せめてお母さまの宝石だけでもと思ったが、聖騎士たちはそれすらも当たり前のように奪い取っていった。


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