これは強制的に帰省させられたのか
「おめでと~ございますぅ~~!
おめ・DE・とぅ~~~! to・とぅ・トゥ~ユゥ~!!
御座い、GO THE ございますぅ~~♪」
「……、うっざ」
俺はこの、うざったい『猫乃木まどろみ』の無駄にハイテンションな言葉を聞き流す。
『ベネッツ』が役割を終え、細かなピクセルになって昇華していく。
勝てたのは情報戦。こちらが欲しい情報を得ていたからに過ぎない。正攻法ではない。フェアじゃない。均一に与えられた情報の中から取捨して得たならフェアだと思う。
だがそうじゃない。俺は『ベネッツ』を知り、己を知り……
「敵を知り、己を知らば~」かよ。
なんにせよ、おれが勝てたのは『ベネッツ』を、そのゲームシステムを知っていたからに他ならない。勝てたのは実力ではない。
フィールドを構成していたものが音を立てずに地面へと消えていく。元の、何もない石畳の霧の世界に戻っていく。あぁ、最初からここにあったのだろうか。巨大な門扉だけは残っていた。
その消えていく様に、何かしらと一緒に消えていく、俺の中の何かが失われていくのを感じる。
「さ~て! 次は何を持っていきますかぁ?」
いつの間にか持っていた「万能包丁」が消え、ホームセンターよろしく武器のオンパレードの棚が入れ替わるように地面から湧出した。
ははは、なんだ。余韻に浸る間もなしに次のステージかよ。
「次はもっと盛大に! 勢いよく殺してやりましょうよ!」
「うっせ」
武器が陳列された巨大な棚の間を歩く。
次もFPSだろうか。いやなんだかそれはない気がする。それならただ俺にゲームをさせているだけに過ぎない。「殺せ」というのはどういうことだ。殺すキャラクターは誰だ……
「で、次の相手は誰だよ」
「えへへ、それはですねぇ~、あたしにもわっかりませ~ん!」
「役に立たねぇな」
本当にこいつは知らないのだろうか? いやそんなはずはない。
絶対に言わないだけだ。そもそも楽しんでやっているようにしか思えない。言わないことで楽しんでいるとしか思えない。エンターテイナー気取りだ。
相手や世界観が分からない状況で武器を選ぶ。それはあまりにも不利益じゃないか?
確かにローマのコロッセオのように、「殺し合い」という闘技場であれば利益も不利益もない。ただ純粋に自分の得意な武器を選ぶだろう。選んだ武器を扱えるのも「実力」の一つとしてカウントされるだろう。
だがそれでも世界観は同じだ。同じだからフェアだ。現代兵器をもってならローマ帝国だって壊滅できる。現代兵器を扱える前提でいえばだが。
「んま、本多くんにとっては懐かしい人だと思いますよぉ~!」
内股でくねくね、モジモジするその姿。『猫乃木まどろみ』の恥じらう定番ポーズ。アニメとして見ていた時は確かにそれに萌えた。だがどうだろう。今のこの状況では苛立ちしか覚えない。
懐かしい人。懐かしい?
ゲームだとなんだ。ハマっていたゲームキャラか。パズルゲームのキャラ、リズムゲームのキャラは戦う対象にチョイスされるとは考えにくい。RPG、格ゲー。この辺りなら来そうな気がする。
「次は、これをもっていく」
「あはーッ! 男の子ですねぇ、本多くぅん!」
俺は細身のショートソードを手に取った。両刃でその細さから刺突にも使えそうだ。リーチが長すぎると振り回せないだろうし、それにその分重くなる。このサイズ、この重量なら扱えるだろう。何より包丁よりは戦える。
どんな奴が出てきても、こういう普通の武器の方が柔軟に対応できるはずだ。
軽く振り回してみる。振った勢いで体がもっていかれそうになるが使って慣れるしかない。
「では張り切っていってみましょ~!」
「お前は張り切らなくていい」
俺も張り切らないが。
棚が消え、構造物が姿を現す。
「はぁ?」
そこに現れたのは……、
実家だ。実家の俺の部屋だ。そしてそれだけじゃない、驚くのはそれだけじゃない。
サイズ感がおかしい。実家の俺の部屋なんて子供の時以来、中学卒業後にすでに一人暮らし(高校時代は下宿)だったから「自分の身体を子供サイズにされた」というならまだわかる。だがそれをはるかに下回っていた。すべてが巨大。傍らに転がっていた鉛筆が俺の身長と同じぐらいだ。
頭がくらくらする。
これは俺が小さいのか、部屋が巨大なのか。いや結果としては同じ事か。
眩暈に手を額に当てようかとしたところで、視界にあった風景が遮られる。なにかの影が差し、俺は再び目を見開く。驚きはそれだけでは終わらなかった。
「えっ?」
目の前に出現した白く巨大なもの。それを俺は見上げる。
ギャーーーオスッ!!
白一色の巨大怪獣、いやなんだろう。ドラゴン?
それが俺の前に立ち塞がり、咆哮を上げ威嚇していた。