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この電車は04時23分『日本発・異世界行』快特列車です

 大丈夫なんだろうか、このアホ猫、

けふんけふん、この黒猫神の世界は……


「神様なんだから好きなようにやったらいいんじゃないですか、自分で作った世界なんだし」

「RPGとかのゲームってさぁ、適度な難易度が必要じゃん?」

「はぁ、まぁ」

「難易度ってさぁ、ようは『ままならない』ってことにゃん?」

「う~ん、まぁ」

「ある程度の『障害』があるから成長するんにゃよ、人間も世界も」


 それは確かな気がする。するが、僕はそれを乗り越えられずに挫けた。

生前は。

順風満帆な人生。神様によってレールに敷かれた「世界を機能」させるための人生。

それは確かに味っ気が無いし、誰でもいいじゃんとはなるが。

だが‥‥‥、どうしたって躊躇はする。

また障害がある人生なのかと。


「過干渉を嫌うのはほとんどの神様の共通認識にゃ」

「‥‥‥、でもそれで人類が失敗したら元も子もない、とは思いますけど」

「大局的に見れば、それも成長の糧にゃ」

「大局的に、ね」


 それはつまり、僕が挫けても、

ってことなんじゃなかろうか。


 それこそそれは、その役目は「誰でもいい」んじゃないのか?



「君の前にはチャンスがあるにゃ」

「天移門をくぐって、神様の要望に応えるっていうね」

「むしろもう君は既に選択したし、選ばないという余地はにゃいにゃ~よ」


 もうすでに一度挫けたわけだから‥‥‥

いまさら断るあれもないのは確かではあるが。僕である必要は?


「行くのはいいですけど、それはそれとして。

 今一度、僕である必要があるのか知りたいです」

「知って何か変わるのかにゃ?」

「う~ん、覚悟?」


 黒猫神が立ち上がり伸びをする。

そして僕を見据えて言った。


「君は君の人生の岐路で大きな()()をした。

 事故とは言え、自身の手によって自身の命を失った。

 それをとても後悔してるし、二度と自分の命をないがしろにはしないと誓った。

 それは君の大切な人々の命を、想いをないがしろにすることだと知った」


 何も言えない。


「だからオレは、君ならオレの世界を導けると確信した」

「‥‥‥、買いかぶりすぎでしょ」

「オレが求めているものは、『生きる』という本質にゃ~よ。

 失敗した人間は成長するチャンスを手に入れてるにゃ。

 生かさなきゃ罰が当たるにゃ(笑」

「罰ね(笑」

「そういう世界を作りたいにゃw」


 もう乗っかるしかないわけだ、この黒猫神の世界に。



「わかりましたよ。では最後に。」


 深く深く、深呼吸する。


「行った世界で僕は何をすべきかと。

 そしてその前に色々と条件がありそうですね。

 それを教えてもらえるんですよね?」


 あ、チートな能力とか貰えたりとかあるのだろうか?


「そうにゃぁ。

 まず、天移門をくぐった後にゃんやけど、転生じゃなく転移してもらうにゃ」

「つまりこのままの姿で?」

「ペナルティとして()()()()()()にゃ」


 左腕の肘から下が喪失した。


「まじか‥‥‥」

「罪と罰とまでは言わないにゃけどにゃ、

 ま、戒めにゃ」


 これは‥‥‥、あぁ。

受け入れるしかないか。いやむしろ僕にとっては確かに『戒め』になるのかもしれない。


「代わりに神獣をサポートで付けるにゃ。

 まさに「君の左腕」にゃはは!

 んま、ゆうてもナビ程度にゃけどにゃ、君のやるべきことは示すにゃ。

 あとはまぁ、何かしら役に立つから重宝するにゃ~よ」


 僕の左側に神獣? 立派な大鷲が慇懃に顕れる。


「そうはゆうても監視でもあるわけですよね?」

「当たり前にゃ」


 この先の世界でやるべきこと、『課題』とやらは現地で都度知って解決しろということか。


「その役目が終わったら、達成したら?」

「もう達成出来るつもりかにゃ?」

「やるからにはそのつもりでやりますよ。

 いや、報酬とまでは言わないですけど、やって「はいサヨウナラ」ではないですよね? 一応は先が心配になりますよ」

「ま、

 全てが終わったら元の世界に転生させられなくもないにゃけど、転移は無いかにゃ。死んでるしwww」

「はっきり言うなぁ」

「それに、」


 導く様に『天移門』まで黒猫神が進む。

僕も立ち上がり、その後ろに従った。


「きっと、この世界が気に入ると思うにゃ~よ」



 天移門が黄金に輝き、ゆっくりと開かれていく。

その先はまばゆい光に包まれて見えない。


 神獣の大鷲が先導するように、大きく羽ばたき光の中へと飛んで行った。


「あ、ちなみににゃ」


 振り返ると、黒猫神が手を挙げながら付け足すように最後のセリフを言った。




「君の眷属が先に転生して待ってるにゃ~よ」




 は? それ最後に言うか?

もう絶対に失敗できないし、帰れないってことじゃん!!



 こうして僕は転ぶように天移門をくぐった。

僕の異世界への旅立ちが、スタートする前から一筋縄ではいかない感じで始まり、そしてそれはその先でも続くのだった。

『眷属』

 本編の主人公『本多俊輔』に縁のあった人達。

 「前世の記憶」を持ちながら異世界転生している。

 彼らと物語は‥‥‥

 いつか語られるかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さきにあるのはままにゃらない…。 おっと間違えた、ままならない世界。 それでも進んでいけるのは、あの人達が先で待ってくれている(いや、待ち構えているだったりして)からですね。 あとがきを読…
[一言] 完結おめでとうございます! 人は誰しもが主人公なのだということを、改めて実感できました( ˘ω˘ ) 名作をありがとうございました!
[一言] 堪能させていただきました。リセットボタンは簡単には押せないけど、そこにやり直せる明日があるなら。 まどろみさんとアダムとイブになるのかと思った(いやそれはもみじさんかスナキヨコいるしw)。そ…
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