どなた様も、お忘れ物なくご降車下さい
神を名乗る黒猫とちゃぶ台を挟んで向かい合わせで座る。
せめてその上には湯呑みに入ったお茶だとかお茶受けだとか、それは無くともカゴに入った駄菓子や饅頭、みかんなんかがあって然りじゃなかろうか。
だがそのちゃぶ台の上には何も無かった。
が、
黒猫神が「これがオレの世界にゃんやけど……」と言った瞬間に、そのちゃぶ台の上には箱庭のように一つの世界が出来上がっていた。
「は? この世界?」
「うーんにゃ、
地球が丸い球体だから地球とは良く言ったもんやよにゃあ」
「いやいや、意味わかんないし」
「正確には海球じゃね? 七割が海だし」
「えっと、
何が言いたい、黒猫さん」
「黒猫さんと来たかwww」
うわぁこいつ、会話が噛み合わないタイプかぁ。
「何から聞きましょうか。
たぶん僕から質問した方が良いと思うんですが」
「んま、お願いがあるのはこっちにゃからにゃあ」
相変わらず後ろ足で首下をかいたりとか、まったく猫にしか見えない。
「なんで猫なんですか?」
「それって必要な質問かにゃあ?
まぁ端的に言うとね、神様って概念じゃん? 姿形はにゃいわけにゃよね。一般的に。
でも不便じゃん? 姿が無いのって。
だから具現化するんだけど、見たものは真似、模倣出来るんにゃけどね? どーも生前の記憶に強かったのは飼ってた黒猫だから、その姿を拝借したらそれがしっくりきたから黒猫でいるわけ」
「ん? 生前って」
「あー、言ってなかったかにゃ?
君と同郷にゃよ」
ますますわからん。
「んま、いわゆるオレらが居た世界、地球から独立してオレも神様になったんにゃけどね。ゆうても新人にゃから出来ることが限られてるわけにゃ。
んでにゃ、この目の前のが作った世界にゃんやけど、どう? 地平線な世界って憧れるにゃん?」
「いや、意味わかんないす」
「ロマンが無いにゃー」
ヤバいな、本気で意味がわからん。
たぶん本質からズレ始めてる気がする。このままだと無駄に時間が経過するな。
「えっと、この作った世界で困ったことがあるというわけですか?」
「そうにゃ!
作るに当たってはにゃ? 色々と他の世界の先輩神様にお力添えを頂いたんにゃけどにゃ? うーんと、色々と課題が山積みにゃんやけどにゃ?
過干渉ににゃるのもにゃーって思うと、なかなか手が進まないにゃ!」
「にゃーにゃーうっさいにゃ!」
「神様に対する冒頭にゃ!」
マジでなんにゃんだ。
あー、にゃーにゃーうつるな、これ。
「……なんとなくはわかりましたけど、
なんで僕なんだよ」
「まぁ同郷ってのもあるから、移籍が楽なのもあるにはあるんにゃけど」
黒猫神が一瞬、ニヤリとした気がする。
猫だから表情はわからないわけだけど、今ニャニャリとしただろ、こいつ。
「生きたいっていう本質的な素養、生存本能というかそういう前に進む感じが大きいにゃ」
「そうか? 自殺してんじゃん、僕は」
僕はそれで死んだわけじゃん。
「それは事故だって自分で言ったじゃん」
「まぁそうだけど」
「だからね、試験させてもらったわけにゃんよ」
「ラストはクリア出来てないだろ。
つか、その為に七人殺しがあったのかよ」
「そういうわけでもにゃいんにゃけどね。
元世界の自殺他殺含めて下請けしてるにゃーよ、ジャッジを。んま閻魔大王の代行かにゃ? 地球は多い方だからねー」
最初に言われたことは、あながち嘘ではないということか。でも僕がクリア出来た? それは僕だけの力じゃない。
「さて、そろそろ本題に入るにゃ。
この世界には人間族の他、犬族、熊族、爬虫類族、そして猫族が居るにゃ。つまりは多種族世界なんにゃけど、それはまぁ人種の違いみたいなものだから問題ではにゃいにゃ」
「はぁ……」
「オレの場合は、ゼロベースから知能を持った種族を作るには力が足りなかったにゃ」
「ん? つまりは他の世界からの移籍ですか、さっき言ってた」
「そうにゃ」
いやそれにしたって「種族」と名乗る以上、少なくとも何千人かは必要だろう。一人二人なら「死んで異世界転生w」とかはあるかもだが……
「みなまで聞かずとも、疑問に感じているのはわかるにゃ。その通り、小国レベルで移籍したにゃーよ。
種族によって違うけど、一国丸ごとだったり幾つかの一族だったりにゃ」
「そんなレベルでですか? そんな簡単に?」
「そこが簡単じゃないから問題にゃん!」
「にゃんと?」
黒猫神が香箱座りで目を閉じる。
うーん、話の内容、言葉の割には緊迫感に欠ける姿。仕様なのだろうか……。
「移籍と引き換えに、元世界の神達から大きな課題を課せられてしまったにゃ。
例えばオレらの元世界は『絶滅させるなよ!』ってことと、さっき言ったけど諸々の下請にゃ」
「あー、そりゃ貰っといて絶滅は無いですねぇ」
「他の種族に関してはまちまち、色々あるにゃ」
「……えっと、それで?」
黒猫神がカッと目を開く。
「オレの代わりに世界を救う(課題を解決する)にゃ!」
はぁ?
やっぱりこの猫、何言ってんのかわかんねぇぞ?




