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本音でいえばそれを選択したお前を否定したい

 俺は目をつぶり、ゆっくりと深呼吸した。

腹は決まった。一方的に殺されるわけじゃない。前に進む機会は与えられている。

それがたとえ「七人殺せ」ということであったとしても。

失敗したならば、殺されたなら変わらない。無になるべくしてなるだけだ。


 この行為に何の意味があるのか、大義があるのかはわからない。わからないが例えばだ。これから殺さなければならない相手が元殺人者だったなら? 一方的に断罪することが俺の義務、贖罪としての役割だとしたならば? それは理にかなっている。

このシステム、()()()()()()()()()()贖罪を成す無駄のないシステム。

そのための()というメカニズム。



「んなッ!」


 目を開けながら「じゃあ、さっさと始めろ!」と啖呵を切ろうとしたところで息をのんだ。俺はいつの間にか巨大な棚に囲まれていた。まるで映画に出てくるような、アメリカのホームセンターのようだ。ただその棚にあるのは、おびただしい数の武器。古今東西のありとあらゆる武器。


「ではでは~! 早速、武器選びからいきましょ~!

 本多くぅ~ん! 選び放題、お好きなだけ持って行っていいですよぉ~!」


 『猫乃木まどろみ』が、まるでおもちゃ売り場ではしゃぐ子供のように振舞う。

おい、お前ってそんなキャラ設定だったか? 純情さの欠片もないな。


 刀剣類には日本刀らしき鞘に収まったものから青龍刀のような幅広のもの、漫画でしか見たことが無いような巨大な剣。それ以外にも槍やら斧やらがずらりとあった。だがとても扱える気がしない。実物は想像以上に大きかった。

ふと目についた俺好みのサブマシンガンを手に取る。ずっしりと重い。ゲームでは容易に扱っていたが、サブマシンはおろか拳銃だって現実世界で撃ったことなどない。選んだところで当てるどころか撃てるかすら危うい。


 俺の仮定が正しいとして。

相手が元殺人者だったなら無抵抗なはずだ。殺されるためにいる奴が、精神崩壊するほど蹂躙されようとするやつが抵抗などするだろうか? よしんば抵抗したとして、こちらへと危害を加えられるのか?

ありえない。ただ黙々と俺はそいつを殺せばいいのではないか?


 『猫乃木まどろみ』は死ぬかもしれないこと、俺が仕損じる可能性を示唆はしたが、それは転んで自分が怪我しただとか、その結果として死に至ったということなのではないのか?



「……、これにする」

「いいの? それで? それだけで??」


 俺が選んだのは、何の変哲もない万能包丁だった。

だが包丁なら普段の料理でも使っている。扱えないわけじゃない。

それに人を殺すなんてことには……、これで十分だろ。


「本多くんは謙虚だなぁ~

 でもでもぉ~、あたしは好きですよっ! そういうところ!」

「うっせぇ、……さっさと出せよ、1人目」

「せっかちだなぁ。

 そんなに慌てなくても、ちゃんと始まりますよん!」


 一々体をくねらすな。



 だが確かにこいつの宣言通りに舞台が動き出した。

音もなく見渡す限りあった棚が地面へと降り消えていく。それと入れ替わるように古代遺跡のような、廃墟と化したような石造りの柱やら壁がせり上がってくる。

なんだこれは。なんだこの既視感は。


「ではでは~ッ! 最初に殺していただく相手はぁ~~~!

 こちらの方です!!」


 言うや否や聞こえた一発の銃声。

弾丸だったであろうものが頬を掠める。続いて感じる傷口から流れる血の温かみと濡れ流れていく感触。追ってやってくる鋭い痛み。

その痛みに急速覚醒した脳が危険信号を全身に伝える。「このままここに立っていたらヤバい!」と。条件反射のように地面を転がり、近くにあった崩れた石柱に身を隠した。


「おいッ! ふざけるな!

 なんなんだよここは! 誰だよ相手は!!」


 大声で叫んではいけないのはわかっていた。それは相手に自分の位置を教えているようなものだ。だが叫ばずにはいられなかった。

そのままその場に留まらず、無駄かもしれないと思いながらも後退しながらもランダムに左右へと移動する。



「えへへ! 今回だけですよぉう? 隊長!」


 ある程度は安全圏に到達したであろうと、幅広にあった壁を背に俺は身を沈め、呼吸を整えたていた。

いつの間にいたのか『猫乃木まどろみ』が寄り添うように、身を寄せるようにくっつきながら写真を懐から取り出す。ご丁寧にも戦場に身を置く一兵卒の軍服に身を包みながら。


 戦争映画だとこれは、恋人や故郷に残してきた婚約者の写真を見せるシーンか。

おいおい、それってお前の死亡フラグじゃねぇの?

もっともこいつが死ぬとは思えないが。


 その古び折りたたまれていた写真の人物を見て、俺は思わずつぶやいた。


「おい……、相手はベネッツ、かよ……」


 その写真に写っていたのは、俺の大好きだったロックバンドのボーカルだった。

大好きを通り越して、俺が心酔していた男だ。




 『ベネッツ』




 生きて生きて生き抜いて、生き急いで生涯を閉じた男。

彼の死が俺の心に大きな穴をあけたのは確かだ。だがそれ以上に俺を鼓舞し、戦うことを、抗うことを教えてくれたのもまた、彼だった。

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