僕の決断が爆風を呼ぶ
自分が持ち込んだものだ。それが何なのか見なくてもわかった。
手榴弾の安全ピンに付いている引き抜くためのリング。通されたそれから今すぐにでも指を離したかった。でも出来なかった。
ふと、
『もみじさん』を抱きしめたままそのピンを抜いたら……などという考えが頭をよぎった。このまま終われたら、などと思ってしまった。
だが出来るはずがない。出来るわけがない。
僕には何もできない。
人は生きている以上、無作為に、無意識に周囲に迷惑をかけて生きている。「それは迷惑じゃないよ?」と人は言うかもしれない。「それは人を頼るということだよ。」「頼っていいんだよ。」と言ってくれるかもしれない。
でも僕は……、僕は人に迷惑をかける生き方は出来なかった。無作為にやっていることを自覚すればするほど、その想い、優しさに「恩返し」が出来ないことに苦悩した。
いや
そもそも
そもそもからして、ここは
『終わった』世界だ
終わった世界にあって、僕の世界が終わった後なのに
『このまま終われたら』なんて
出来る だとか 出来ないだとか
『僕には何もできない』だとか
そんなこと そんな
些末なこと
矮小で 醜く くだらない
あぁ 僕は
未だに この世界に
誰かに‥‥‥
いや『僕自身』に
救いを求めてる
生きていることを 手放したのに
「ねぇ、待って?」
僕はここに来て初めて顔を上げた気がする。
その言葉に僕は、いや初めて『もみじさん』と目を合わせたのかもしれない。
僕の中に入ってくるその心。
僕が入り込むその瞳の中に。
「手放しちゃダメ。」
手榴弾のリングに引っかかるようにして掛けられた僕の指。その指が力無く離れようとしているのを『もみじさん』は上から優しく、優しく握り込む。
「もう自ら、生きることを手放さないって。
ねぇ、決めたんでしょ?」
どうなのだろう。どうなんだ。
僕は大切な思い出を、大切な人々を失ったのに。己の命も失ったのに。
「君はまだ失ってないよ。終わってない。あの頃から失ってない。
変わってないよ?
強くありたい、強く生きたいという信念。
そうであれないことへの悔しさ、慟哭。
前へ前へ、先へ先へ。
そうやって傷ついて来たんでしょ?」
傷だらけになった僕の左腕を、これ以上なく傷ついた左腕が、
優しく、優しく撫でられる。
「その心は失ってなんかいない。
たとえ何度倒れても、失敗しても。無くなってなんかいない。
ただ姿が、うん。見え方が変わっただけ。本質は揺らいでなんかいない。
燻ってる情念。それを奥底にしまおうとしているだけ。
その心を、その使い方を見つけられないでいるだけ」
涙で滲んでいく『もみじさん』
裁ち切ると同時に受け入れ、受け入れると同時に別れを理解する。
強く目を瞑り、涙を裁ち切る。
「乗り越えなきゃ
いけない……、ですか?」
『もみじさん』が優しく頷くのが目を瞑ってても伝わる。
『ベネッツ』は僕に何を伝えたかったのだろう。
僕が忘れてた「戦う」ということだろうか。
それとも、得たからこそ失う「喪失感」だろうか。
それでもなお「走り続けろ」ということだろうか。
『メガドラゴン』は僕に何を伝えたかったのだろう。
そもそも知能なんかあるのか、奴には。
でもなんだろう。奴と戦って「忘れてはいけない」ことを思い出した気がする。
僕を構成する人々を忘れてはいけない。そう言われた気がする。
『小梅』は僕に何を伝えたかったのだろう。
なりふり構わず、闘争本能のままに。まるで僕を忘れた野犬のように。
でもそこまでして、命をとしてまでして僕に「生きろ!」と言った気がする。
複雑に考えることなく。
ただ「生きたい」から「生きろ」と、精一杯に生きろと。
『スナキヨ』は「次の世界で待ってる」と言った。
ここは「終わり」じゃない。通過点でしかない。
そして……
あぁ、そういうことなのだろうか。
みんな「僕が死んだ」から手を差し伸べに来たということなのだろうか。
死が怖いのは「忘れられる」想いがそこにあるからなのだろうか。
僕が生きている限り、みんな僕の中で生きているということなのだろうか。
そのためにも。その想いは忘れちゃいけないということなのだろうのか。
『親父』は……
僕に「抗え」と言った。再び立ち上がり「前へ進め」と伝えてきた。
最後の最後で。死したこの地で。
僕の反抗期を受け止めたのだろうか。
全身全霊で受けてやると。そういうことなのだろうか。
目を開く。
『もみじさん』が優しく微笑む。
その瞳に写る僕は‥‥‥
決断できたのだろうか。
「だから君は……
俊くん。ちゃんと君自身を愛してあげて。
私は、
ねぇ俊くん。大好きだったんだよ」
リングを引き抜く。
閃光、爆音、そして僕は吹き飛ぶ。
優しい眼差しの『もみじさん』の表情が僕に焼き付く。
『進藤もみじ』
主人公が高校時代の副担任。学校の先生に成りたてほやほや。
初恋の人だった。もちろんそんなことなど先生は知らない。




