いつも詰めが甘いことはわかっているもののそれは後の祭りってやつ
俺の手に重ねられた『スナキヨ』の手のぬくもり。
と同時に感じる心の揺れ。それは視線、呼吸からも感じられる。
俺は逸らさずに『スナキヨ』の目を見る。その心を読み取ろうと『スナキヨ』を見る。
『スナキヨ』が死んでから数年経っている。多分、俺は大きな誤解をしていた。「常識」にとらわれていた。目の前に居る『スナキヨ』が本物だった場合を仮定すると、そもそも時間軸に縛られた世界じゃない、ここは。それは大いにあり得る。
見た目の変化は、補正の一つとして捉えることも可能だろう。高齢で亡くなった者が高齢のまま、あるいは病気に罹患したままでは生き返っても大変なだけだ。
ただそう仮定したとしても、不可解なことがある。
『ベネッツ』と『メガドラゴン』だ。こいつらは架空の存在、『メガドラゴン』は確かに作ったが生物じゃない。ではこいつらに生命を吹き込んだのは何のために?
『小梅』もだ。『スナキヨ』が言うように何かしらの「権利」を得るために「義務」が課された(この場合は俺に殺されることだ)として、生き返った『小梅』が本能むき出しで俺を襲うことなどあり得るのだろうか。
読み込んだ感触では『スナキヨ』は嘘を付いていない。
おそらく『スナキヨ』の言葉、「君に会うこと。君とここで再会して、君に殺されることだよ。」、この中に共通した目的がある。
『スナキヨ』自身はわかっていないかもしれない。それは『スナキヨ』の目標ではなく、先ほど示唆した「神なる者」の目的だからだ。
だが、「本物ではない」可能性も捨てきれない。
「たぶん、シュンちゃんが気が付いたそれであってると思うよ?」
「……。
だがまだ腑に落ちない」
「じゃあ次の質問だね、シュンちゃん」
葛藤する。
『スナキヨ』が、そして『小梅』が本物なのか知りたい。本物だった場合に残る疑問以上に、殺さねばならないこの現状に俺の心が揺れる。
質問すれば確率が5分の1だとは言え、『スナキヨ』はまた撃つ。
「わかった。次の質問だ。
スナキヨ。お前を殺さない、死なせない方法はないのか」
質問の回答を得られれば『スナキヨ』は撃つ。
これでは本末転倒だ。だがそれ以上の解決方法が思い浮かばない。
「単刀直入に言うとね、ないよ」
優しく微笑み、『スナキヨ』がきっぱりと言う。
「はぁ~、シュンちゃんはやっぱり優しいね。
殺すこと、死ぬことに抵抗があるんだと思うけどさ、僕らはすでに死んでるんだよ?
さっきも言ったけど、それは通過点でしかないんだよ。次の世界に行くための」
俺の手からゆっくりと『スナキヨ』が手を離し、視線を落とす。
「今の質問はシュンちゃんらしくないなぁ」
そしてもう一方の手に持っていた拳銃のシリンダーを開けた。
「らしくない?
……、スナキヨ。親友が死んでほしいわけないだろ」
「だからね、シュンちゃん。
僕らはすでに死んでるんだって」
クスクスと笑いながら『スナキヨ』がもう一発の弾を込めた。
「おい! ちょっと待て!!
なにしてやが……」
「シュンちゃん、詰めが甘いよ。
四つ目のルールかな? 次のステージに移る時にはもう1発足す」
『スナキヨ』が二発入ったシリンダーを閉め、カララララと回す。
「クソッ!!」
机を思いっきり叩く。
確かに『スナキヨ』のいう通りだ。明らかに俺のミスだ、詰めが甘かった。「毎回リセットさせ、毎回5分の1の確立にする」ことが最善だと考えていた。そのルールに新たなルールを入れ込める余地があった。
毎回リセットすれば5分の1の確率。リセットしてない場合の二回目は4分の1の確率だった。だがリセットしたとしてもこの場合の確率は5分の2。明らかに当たる確率が上がっている。
リセットした場合もリセットしていない場合でも、このパターンは倍か倍近くに確率が上がる。
『スナキヨ』が俺に拳銃を渡さないというのを許したことが、そもそもこの詰めの甘さを招いた。
「でもま、シュンちゃん。
一つオマケしておこうかな」
微笑みを絶やさず、そう言いながら『スナキヨ』はその拳銃をこめかみにあてる。
「追加で、いや今更さ、
新しいルールを公開しちゃったからね」
今度こそ制止しようと、咄嗟に手を伸ばす。
その手を制止するように『スナキヨ』が空いている方の手を伸ばし、俺の指を絡める。
「優しさってさ、幾つかのパターンがあると思うんだ。
本当に相手のことを想っての優しさ。
でも実は押し付けなだけの優しさ。
結局は自分がどう思われたいか、他者からの評価を気にした優しさ。
本能だとか咄嗟な、生来の優しさ。
そう言う意味ではだよ?」
『スナキヨ』が微笑みと共に目を細める。
「自己犠牲な優しさってさ、自己満足が根源にある場合もあるじゃない?
肉体的な、現実的な犠牲。対価を払っての優しさの内にある精神的に得られるもの。
「無償の愛」なんて言葉がるけどさ、無償なんてことはこの世には無いよ」
絡められた指に力が入るのが伝わる。
「僕はたくさん見て来た。たくさん貰った。人々の優しさをさ」
「でも君を犠牲にする優しさなんて、僕には有難迷惑だよ。
僕は君が不幸になってまで幸せになりたいとは思わない。
理解してもらいたいとは思わない」
拳銃の引き金を引く音が、その動きがゆっくりと俺に迫る。




