ルールを制する者がゲームを制する
「ゲーム?」
「うん、ゲーム。
それならシュンちゃんも乗ってくれるでしょ?」
再び『スナキヨ』が拳銃を手に取る。小型で女性や中学生の手の大きさでも扱えそうな大きさ。弾倉を開いて先ほどの1発の銃弾を込め、再び閉じた。小型なだけに装弾数は5発か。
映画なんかでやるようにシリンダーをカララララと回す『スナキヨ』
「シュンちゃんは僕に質問する。
その度に僕は撃つ」
そう言い切り『スナキヨ』が躊躇なく自身のこめかみに銃口をあてて弾く。
「バカッ!」
制する間もない、一瞬の出来事。
カツン
空振りした撃鉄の音が静かに響く。
「残念、ハズレだったね。
じゃあシュンちゃん、質問をどうぞ?」
「ゲームになってねぇよ。まずルールがおかしいだろ。
まず俺が質問してからじゃねぇと、今ので終わってたらゲームじゃねぇし。
ただの運任せだ。それに……」
お前はなんでそんな簡単に死ねるんだ? という言葉を飲み込む。
これで質問1カウントと計上されてはたまらない。そもそも『スナキヨ』が死にたい、いやここを出て次の世界へ早く行きたいことはすでに聞いている。
「早くいきたい」? どういうことだ?
ここに居る『スナキヨ』が本物だったとしたらそのことは理にかなっている。だが俺が「本物か?」だとか「幻想じゃないのか?」と聞く度に明言を避けていた。なぜだ?
正体を明かさないという裏ルールがあるのか?
仮に本物じゃないのだとしたら。
「早くいきたい」は方便で、本当の目的は俺に殺されることだ。目的と目標が一致している。
偽物が俺に殺されるために現れる。
ここまでの会話は、ほぼ『スナキヨ』にリードされてきた。
だが今、質問をする権利を俺は与えられている。『スナキヨ』が死ぬまでというリミット付きで。
まず「質問の内容」は如何に有益な情報を引き出すかだ。
その死に方。
リボルバーのシリンダーを毎回まわすのだろうか。その場合は常に確率は5分の1。あくまで確立論だが、運が良ければ永遠に続く。回さない場合は最大5回のチャンス。毎回リセットされる場合と連続で行う場合は、誤解されがちだが当たる確率が違う。
毎回まわさせるようにルールを改めるのが、少なくとも有利だ。
そもそも「本物じゃない」と仮定した場合、こいつは死ぬ必要があるのか?
殺されることが目的……
それはおかしいだろ。俺が殺すわけじゃない、このゲームは。
それとも「俺が質問をする」=「引き金を引かせる」という図式で、間接的に俺が殺すことになるのか? 元々の「七人殺し」のルールの範疇なのか?
「ゲームってのはルールが明確じゃないと成立しねぇ。
一つ目のルールだ。俺の質問が先、これでいいな?」
「それは質問?
ふふふ、冗談だよ、シュンちゃん。
わかった、それでいいよ」
「二つ目のルールは今のだ。質問は俺が「質問」と宣言したもののみとする。
だからそれ以外はカウント無しだ。もし仮に俺が宣言なしに言った場合は無視してかまわない」
「うん。」
俺は一度深呼吸する。
「三つ目のルール。
リボルバーは毎回まわせ。いや俺が回す」
「毎回まわすのはいいけど、シュンちゃんに渡すのは嫌だなぁ。
だってズルしそうじゃん」
「わかった。スナキヨが回していい」
上手く誘導に引っかかったな。
気が付かれる前にさっさと始めよう。
「じゃあ最初の質問。
あぁ、その前に確認だが、さっきのと次ので二回連続で質問するぞ?」
「あー、そういうことになるね。
うん、それでいいよ」
机の上で指を組み、前傾になりながら話しを聞く体勢になる。中学生姿の『スナキヨ』と大人のままな俺。視線の高さを合わせる。
「スナキヨ、
お前が死んでからここに来るまで、来てから俺に会うまでの事を聞かせてくれないか。それが最初の質問だ」
「シュンちゃん、それはズルいなぁ。
全部話せって言ってるようなもんじゃん」
クスクスと、他愛もない冗談話の最中かのように『スナキヨ』が口元を押さえて笑う。
「ねぇシュンちゃん。
シュンちゃんは僕のここまでの経緯を聞いて色々と探りたいんだと思うけど、知りたいのはそこじゃないでしょ?」
「あぁ確かにそうだな。
だが要点だけを質問したとして、誰もが真実を語ってくれるとは限らない。
スナキヨ、お前を信用していないとかじゃない。でも相手を思い遣るからつく嘘もあるし、そもそもスナキヨ自身が気が付いてないだけで「真実」ってやつを知ってる場合もある。そう思わないか?」
そもそも見た目は中学生だが、中身は大人の『スナキヨ』だ。これは大人同士の会話だ。素直な会話運びになるはずがない。
「ねぇシュンちゃん。簡単に話すね?
死んだらここに来てた。
神様っぽい人から、天移門を抜けて自分の世界に来ないかって誘われたんだ。神様からスカウトって、なんか漫画みたいだよねぇ」
ニコニコと話す『スナキヨ』。その表情は子供のようだったが、その「神様とやら」に騙されている感じには見えない。簡単に話してるだけで、実際は色々とあったのだろう。
「利点は次の世界で「女性としての身体」が与えられること。
そして唯一の条件は、」
『スナキヨ』があの日、あの時のように。
優しく俺の組んだ手の上手を重ねる。柔らかく愛情を込めて。
「君に会うこと。
君とここで再会して、君に殺されることだよ」
俺はあの日のように手を引っ込めない。
ゆっくり頷き『スナキヨ』の、話の続きを待った。




