一発の銃弾は何を語るのか
ターーーーーーーーーッン
静かだった夜の教室に乾いた音が響く。
スローモーションのように弾け倒れゆく『猫乃木まどろみ』
倒れ、いくつかの椅子と机が巻き込まれて響かせる。ガタガタという音で俺は我に返った。現実を認識した。死というものを理解した。
「スナキヨ、お前ぇ……」
「やる気になってくれた? シュンちゃん?」
『スナキヨ』から目を離せずにいた。
その視界の端でピクンピクンと小さく動く『猫乃木まどろみ』を見止める。
「……お前は本当に、
スナキヨなんだよな」
「それは半分正解で、半分は間違いかな?
こういうのって、上手く説明できないけど」
俺の知ってる『スナキヨ』はこんな奴じゃない。
物静かで穏やかで。「虫も殺さぬ」というような奴だった。
だが、
奴の言う通り。俺が知ってるのは半分なのかもしれない。表のスナキヨ、裏のスナキヨ。
半分正解で半分は不正解なのかもしれない。俺は『スナキヨ』の全てなんて知らない。全てを理解してるわけじゃない。それこそ、大人になった『スナキヨ』のことは知らない。
どんな人生を歩み、どんな苦悩があったのか知らない。
「お前の目的、目標はわかった」
「うん、ありがとう」
「……。
つまりはだ、殺生与奪が俺の手にあるというなら、それまでの時間の使い方も俺次第ってことだよな?」
「う~ん、まぁそういうことになるけど。
でもさシュンちゃん、そういう決断を遅らせるっていう遅延行為は良くないと思うよ?
だってさほら、僕らはいつだって決断を迫られてると思うんだ。
そういう意味ではさ、決断をしないっていうのも「決断」の一つになっちゃうと思わない? 結局のところ自分の思考速度と世の流れ。どっちが早いかってことだけどさ。いつだって世の流れの方が早いよ」
『スナキヨ』が拳銃の残りの弾を無表情に、転がった『猫乃木まどろみ』にタン、タタタンと撃ちこむ。
乾いた銃声。
全弾撃ち尽くした後、持っていた拳銃、リボルバーの薬莢をカラカラと床に捨てた。その一連の動作はまるで「ドアを開けて、通って閉める」みたいな、特に感情を必要としてない動きだった。
「あくまで個人的見解だけど。
時間が解決するってさ、言い訳じゃないかな?
僕にとって、それで解決したことは一つもないよ」
ゴトリ
撃ち終え、弾の入ってない拳銃を『スナキヨ』が机に置く。鈍い音が響く。
静かに、まるでこれから授業が始まるかのように、『スナキヨ』が椅子に座った。
遅延行為。
確かにそうだ。時間が解決するんじゃなく、決断に時間をかけてるだけだ。
決断は早い方がいいのは確か。早さも一つのの武器だ。
だが同時に短絡的な決断は駄目だ。より多くの情報を得て、より多くの選択肢を見つける。そしてその中から最良を選ぶ。ベターじゃなくベストを探す。
俺には情報が少ない。
この世界を恐らく『スナキヨ』ほど知らない。だったらまずその情報を聞き出すことが必要じゃないか? それも一つの決断と言えなくはないか?
今『スナキヨ』を殺すことはベストな決断とは思えない。たとえ『スナキヨ』が望んでいようとも。
椅子を引き寄せ、机を挟んで『スナキヨ』の前に座る。
「うん、シュンちゃん。
その思考に頭を巡らせてるときの表情。僕は好きだよ」
「バカ……」
「ねぇシュンちゃん。
卒業文集ってさ、まだ持ってる?」
「あぁ、たぶんな。ずっと見てないけど」
「先生から一人一人に宛てた一言があったじゃん。そしてさ、卒業文集を手渡しながら先生がそれを読んだの、覚えてない?」
「……、俺は記憶力が悪ぃんだよ」
くすくすと、本当におかしそうに中学生姿の『スナキヨ』が笑う。
「シュンちゃんはさ、先生に「ゲームの達人」って言われたんだよ」
「覚えてねぇつうの」
「でさ、クラスのゲーマーな人たちからさ、結構ジト目で睨まれてたんだけど。
覚えてないの? シュンちゃん」
「……、別に「ゲームの達人」になったつもりねぇけどな」
「そぉ? シュンちゃんてさぁ、クラスでやった「室内ゲーム」もそうだし修学旅行の時にやった「カードゲーム」もそうだし、ゲームに一番熱くなるタイプだったと思うけど?
そしてさ、今みたいにね、思考に頭を巡らせてクールに勝ち筋を真剣に探すわけ」
確かにそうなのかもしれない。俺は子供の時からそうだ。
勝負事が好きだった。勝つためのことだけを思考するのが好きだった。
「クラス会のリベートの時が一番ひどいよね。
シュンちゃん必ず少数派の方に付いてたでしょ? しかも少数派がシュンちゃんの発言で多数派になったのに、その途端に今度は相手側に寝返るしさ」
「……わかんねぇけどなんだ、その、
パパっと決まるのが嫌なんだよ」
「そして挙句にラストに第三案をぶち込んでくるというね」
『スナキヨ』が本当におかしそうに声をあげて笑う。
「折衷案を出してまとめてるだけじゃんかよ」
「いや違うね。
リベートもシュンちゃんにとってはゲームだったんだよ。
だってさ、最終的にどの案になってもクラス会が終わったらケロッとしてさ、むしろ率先して取り組む方だったじゃん。シュンちゃんは結局さ、リベートもゲームとして楽しんでたんだよ」
そうだな、確かにそうだ。
俺は優しさや良かれとかじゃなく、ただ自分の達成感のために「ゲーム」をしていた。
楽しむとかそういうことよりも、橋の欄干の上を歩くようなスリルを求めていた。
「ねぇシュンちゃん。
色々と聞きたいことがあるんでしょ? じゃあ僕とゲームをしようよ」
そう言いながら『スナキヨ』は一つの銃弾を机にコトリと置いた。




