「爆発物取締罰則」といふ法律があつた気がする
光に目が馴れ、ゆっくりと眼を開く。
相変わらずの石畳。相変わらずの濃い霧。そして天移門。
つまるところのスタート地点。『7人殺し』というゲームは続く。
『ベネッツ』そして『メガドラゴン』。
ゲームなのかファンタジーなのか。妄想か虚構か。
肉体的なものよりも精神的なものがゴッソリと削られた気がする。
事実、相当な怪我を負ったはずだが肉体的な損傷は無い。服すら濡れてない。
スタート地点=リセット。いやこの場合は「フラット」と言った方が合う気がする。
「本多くぅ~ん!
そんなにあたしのパンツが欲しかったんですか?
も~! 変態さんですね!」
「いらねぇよ」
精神的なダメージは肉体にも影響するのだろうか。気怠さを感じながら緩慢に立ち上がる。
なんとなしに額をぬぐう。
「でもでも~、あたしのパンツ、握りしめてるじゃないですかぁ」
「はぁ??」
咄嗟に手を見る。いつの間にか握りしめ、額をぬぐったそれ。
瞬殺すべく床へと叩き付ける。
「持たせてんじゃねぇよ! クソが!!」
「えへへへ~」
舞うようにクルクルと踊りだす『猫乃木まどろみ』
「そ~~~ですよね~~~♪」
ピタッと止まり満面の笑み、決めポーズ。
「その手には武器が持たれてないと、ですね!」
「……。
持ちたいとかどうとか。
これは意志じゃない。余地なんて無えだろ」
無数の武器棚が現れる。
無数の武器の中を俺は、興味なくただの道のように歩いた。
「一つ聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
棚の向こう隣を同じように歩く『猫乃木まどろみ』が応える。
「このゲームの設定、難易度はどうやって決まってる」
「はて?」
胡麻化してるのか、こいつは本当にバカなのか。
まぁいい。道化であることには変わりはない。
「ベネッツもメガドラゴンも俺の妄想、記憶だ。
そしてこの武器。
武器をチョイスした段階で難易度や相手が決まるんじゃねえのか?」
「どー--ですかねぇ?」
会話になってない。
期待する方が無理だったか。でもまぁいい。独り言のようなものだ。
最初に選んだ「万能包丁」と『ベネッツ』が釣り合うとは思えない。だが『メガドラゴン』とショートソードは世界観が同じだ。仮に包丁がサバイバルナイフと同等と捉えるならば、あながち間違った推測じゃない気がする。武器の性能と相手は同等か?
ふと棚を見るといくつものベストがぶら下がっていた。
そのベストには手榴弾が装着されている。立ち止まり手に取る。
正直な話、よく戦場映画などでこういうベストを付けている兵士を見るが、これって撃たれたら誤爆するんじゃないだろうか? 装備してる者が死ぬのならまだしも、周りにいる仲間も危険じゃないか?
「手榴弾とか銃とか。
これって弾数制限はあるのか? 無限か?」
「そんなわけないじゃないですかぁ~~
やだなぁ本多君。ゲームじゃないんですから、そんな非現実的なことあるわけないじゃないですかぁ~」
非現実的な『猫乃木まどろみ』に言われてちょっとイラっとする。
ここら辺りは「爆弾コーナー」といったところか。
長い筒に導火線が付いたダイナマイトのようなもの、四角いプラスチック爆弾?みたいなやつまで…… 「各種取り揃えております」といった様相。あのボーリング玉みたいなアニメでしか見たことがない、爆弾らしきものは一つしか持ち歩けない気がする。弾数は一回限りじゃん。
向かいの棚に、金属プレートのようなものが付けられたごついベストを発見する。重厚で装備すると重そうだが、これは防弾だろうか。武器ばかりだと思っていたが、いや確かに。防具などもあっていいのでは?
「防具もあるのか」
「ないですよ?」
即問即答で答える『猫乃木まどろみ』
「だって、防具で人を殺せないじゃないですかぁ♪
んま、使い方によっては何でも凶器にはなりますけどね!
一応あっちの方にレンガだとかロープだとか、そういうマニアックな人向けのもありますけど~。でもそこに殺意が無いとね~♪」
口を滑らせやがったなこいつ。
それも意図的なのかもしれないが、俺が「これでやろう!」と思うものは武器認定ってことじゃねぇか。
「じゃあこれは何なんだよ」
「あ、それ。
あまりお勧めしませんよ?」
『猫乃木まどろみ』が頬に人差し指を当て、小首を傾げながら言う。
「自爆テロ用の爆弾なんで、使ったらドローなんですけど負け認定なんで。
てへっ!」
「くそが」
手に持っていた「自爆テロ用ベスト」を放り投げる。どうせここでは爆発なんかしない。通路へと落ち滑っていくのを見送り、俺は目をつぶった。
一度大きく深呼吸し、ゆっくりと目を開ける。
膨大な武器、膨大な「殺す」という目的の品。
俺が「望んだ」ものがその場に現れる。そういう仕様だってことだろ。
「……。」
無言で目の前にある拳銃を手に取る。
主に護身用に使われるコンパクトガン。一般的なハンドガンよりも威力は落ちるかもしれないが、素人同然の俺が扱えるのはこれぐらいのものだ。
ゲームと現実は違う。確実性を求めて拳銃を選んでいなかったが、実際のところ「飛距離がある」というのは有利だ。それを先ほどまでの二戦で痛感した。
扱いやすさと飛距離で言えばボウガンのようなものも候補に挙がるが、取り回しのしやすさや携帯性で考えるなら銃の方が上だろう。
ついでに銃の隣にあった充填済みのマガジンを二つ取り、ポケットへとねじ込む。弾数制限があるとわかった以上、予備は持ってて損は無い。
今までの演出と異なり、突如の暗転。からのドラム音。
パッと付いた明かりに目がくらむ。
ワンッ!
背後からの犬の鳴き声に反射的に振り向いた。
「ふざ…… けるなよ……」




