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07

遅くなりました。すみません。


 あれから数十分後。零に『蓮が帰ってきた』と連絡し、お菓子とお茶の用意が出来たタイミングで丁度、蓮たちが階段を降りてくる音が聞こえる。ナイスタイミングだ。

 蓮はリビングに入ってくると、「ココに座らせて良い?」と視線で聞いてくる。

 その視線に私がそっと頷けば、蓮はミラ達をリビングの席へと連れて行く。蓮が席に案内している隙に、私は紅茶とお菓子をテーブルに運ぶ。

 

 テーブルに向かえば、蓮、ミラ、レオの順番で席についていた。なんとなくバランスを取るためにも私はミラと向かい合う形で座る。

 

「よろしければどうぞ。お口に合うか分からないのだけど……」

「まぁ!わざわざありがとうございます。いただきます」

「姫様。このような者の飲み物などお飲みにならないほうが……!」


 ニコっと笑うミラに対して、レオは用意した紅茶を受け取るどころかとんでもないことを言いだし私のことを睨み付けてくる。

 こいつはさっきからなんなのだろうか。

 思わず何か言い返したくなるが、言ったらいったで面倒くさいことになると予想ができてしまい口を閉じてしまう。

 すると、今まで静観していた蓮が口を開く。


「……母さんが毒なんて入れるわけねーだろ」

「そうですよ。勇者様のお母様がそんなことする訳ありませんわ」

「蓮……!」


 反抗期のせいでいつも冷たかった蓮から、まさか私のために誰かを窘めるような言葉が聞けるとは思わず感動してしまう。

 私は蓮の方に視線をやるが、蓮は断固として私と目を合わせようとしない。傍から見れば冷たい態度に思えるかもしれないが、蓮のこの行動は恥ずかしがる時や照れている時に良くやる癖だ。

 感謝の気持ちを込め思いっきり頭でも撫でようか、と考えているとミラが口を開く。


「では、お母様。そろそろ本題に入りましょう。お母様も色々と知りたいことがあると思いますし」

「あっ、は、はい。是非お願いします」


 私が座った状態でお辞儀をすればミラは微笑み「ではまず……勇者様と出会った所からお話いたしましょう」と答える。


「私と勇者様は、我が国で行われた”勇者の召喚”で出会いました」

「勇者の召喚?」

「はい、勇者の召喚です。簡単に説明すれば、”魔王”を倒してもらうため異世界から勇者の素質がある方をお招きする儀式のことです。そして、この度我が世界で召喚されたのがハス様だったのです。しかも、ハス様は本当に素晴しい方で!召喚されて早々に魔王を倒してしまったのですよ!」

「は、はぁ……?」


 ミラはどこか興奮した様子で話してくるが、私は反応に困ってしまう。

 だって冷静に考えて欲しい。知らない人が突然行方知らずの息子と家に現れ、「お宅の息子にぃ~魔王と戦ってほしくてぇ~なんと!異世界召喚しちゃいました~!そんでもって魔王も倒せちゃいました~」なんて言われて「なるほど~そうなんですね~」なんてなるわけがない、断じてならない。というか、そもそも勇者の召喚ってどういう原理で働いているのだろうか。


 突然の話に思考があちらこちらと動いてしまうが、今度は蓮がゆっくりと口を開く。


「嘘かと思うかもしれないけど俺、本当に異世界に行ってたんだ。だから、連絡もできなくて……ごめん」

「蓮……」


 そう言って謝ってくる蓮の姿は、嘘をついているようには見えなかった。

 きっと怒られると思っているのだろう。俯く蓮の姿に、私は思わずため息をついてしまう。

 

「はぁ……異世界に召喚されたんじゃ仕方ないわね」

「!」

「嘘、ついてないんでしょ?」


 私がそう言えば、蓮はぱっと顔を明るくさせ頷く。

 流石に3日前の言葉だけでは信じられなかったが、実際に異世界からきたミラとレオの姿をみて、信じざるをおえなかった。それに、今まで話していて一度も嘘をつく時の癖を出していないのだから本当なのだろう。後で魔王を倒した時の感想でも聞かせてもらおう。

 ひとまずは、蓮が無事に帰ってきたことを喜ぶべきだ。

 和やかな空気が流れ初め、話はこれで終わりだろう――なんて思っているとミラが飛んでもないことを口にする。

 

「つきましては、ハス様とは今後とも深くお付き合いしていきたいと考えており、お母様の許可をいただければと思い会いに来た次第です」

「……へ?」

「許可、していただけますよね?」

「……えっ、えっ!?」


 唐突な話に私は驚いてしまう。

 

 え、『深くお付き合い』ってつまり……そういうこと!?

 

 慌てて蓮を見れば特に慌てた様子はなく、「んだよ?」なんて呑気な表情をしている。チラリとレオの方に視線をやるが、特に反応もなく腕を黙って組んでいた。

 こう言ったときなんて答えるのが正解なのか分からないが、とりあえず無言のままではいけない。零がいないけれど、ここは母親である私がしっかりしなければ。


 私は一つ咳払いをしてミラの問いにしっかりと答える。


「んんっ! ……ええ、はい。ミラさんのお気持ちはよく分かりました。息子の蓮は色々と気難しい所もあると思います。ですが、ミラさんのような素敵な方と「はっ!?ちょ、違う!まて!母さんっ!」……何よ」


 ドンっと机を叩き私の言葉を遮ってきた蓮を思わず睨み付けてしまう。ミラもレオも蓮が私の話を遮ったのには驚いたのだろう。二人は「ハス、どうした?」「ハス様何かございましたか?」と気遣う様子を見せる。しかし、蓮はその言葉に特に返事はせず真っ赤な顔でこちらを睨んでくる。

 

 一体何なのだろうか。


 私はムスッとした態度を一切隠しもせずに負けじと蓮を睨む。

 すると、蓮は根負けしたのか片手で顔を覆い小さな声で呟く。


「そうじゃねぇんだよぉ……!」

「? 何が?」


 その言葉に私は首をかしげるが、蓮はただ「だから、ちげぇって!」「これは……!」などと繰り返し言ってくるだけだった。

誤字脱字があれば教えてください。

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