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しばらく頭の処理が追いつかず呆然と立ち尽くしてしまっていたが、私は一旦子供たちに声をかける。
「えぇと……と、とりあえずお父さんに連絡してくるから、あなた達はちょっと待ってなさい!」
未だに子供達が「異世界に行ってた」なんて言葉を鵜呑みにはできないが、ひとまず子供達の無事を零に伝えなくては。
急いでスマホを取りにリビングに戻ろうとするが、突然「待ってお母さん」と瀬斗に腕を掴まれる。
「な、何かあった?あ、一緒に下行く?」
「ううん、行かない。あの……ごめん、お母さん。僕もう行かないといけないんだ。ホントにごめん、次帰ってきた時しっかり話すから」
「えっ瀬斗!?」
「……あ、私も行かないと。荷物取りに戻ってきただけなんだよね。ごめんねママ。学校には適当に言っといて、いってきまーす」
「はあ!?ちょ、瀬斗彩葉!?待ちなさい!」
瀬斗と彩葉は私にそう伝えると各自、自分の部屋に戻って行ってしまう。慌てて後を追うように一番近い彩葉の部屋に入るが、そこに彩葉はいなかった。驚きつつも急いで瀬斗の部屋に向かうが、彩葉同様に部屋にはいなかった。
「ど、どこに行ったの……!?」
「……なぁ、母さん」
「ん……?はっ!?まさか蓮。あんたまでいなくなるとか言わないよね?!」
「……」
「目を逸らさないの!」
私の言葉に蓮は視線を逸らすが、肩を掴んで揺すっていれば観念したのか、申し訳なそうに口を開く。
「……ワリぃけど、俺ももう行く」
「っ、お母さんが行かせるとでも思ってる!?」
「これやる。売って家の足しにして。だから……ごめん」
「ちょ!?」
蓮は私に無理矢理何かを握らせると、私から距離を取り自分の部屋へと駆け込んでしまう。
慌てて追いかけ部屋に入るものの、蓮の姿はなかった。
「な、なんで……!?」
あれから子供たちの部屋を隅から隅まで探してみるが子供達の姿は全くもって見つからなかった。
思わず「ついに幻覚を見た……?」と立ち尽くしてしまうが、ふと、蓮から無理矢理握らされたモノが目に入る。
「宝石……かな?」
蓮から握らされたモノは五百円玉ぐらいの球体で、宝石のように見える。
しばらく眺めていれば、はっと思い出す。零にも子供達のことを伝えなければ、と。
急いでリビングに戻り零に電話を掛ければ、すぐに『もしもし』と声が聞こえる。
「あっもしもし?零、あのね――」
私が今起きたことを零に伝えれば訝しげに聞いてくる。
『……異世界?』
「そう、なの。信じられないと思うけど、本当に子供達が言っていたし、一瞬でいなくなっちゃったし……それに――」
『…………』
時折どもってしまうものの、私が懸命に話していれば零は沈黙の末ゆっくりと答える。
『うん、信じるよ』
「っ、ほ、ほんと?」
『もちろん。そもそもそんな嘘ついても意味ないしさ』
「嘘なんてついていないわ、蓮から宝石?見たいなものも貰ったのよ」
『……宝石?』
「うん。必要なら写真送ろうか?」
『いや……家に帰ってから見るよ。……ごめん、今忙しいからそろそろ仕事に戻るね』
「あ、うん。忙しいのにごめんなさい。お仕事頑張ってね」
『ありがとう、頑張るよ』
零の態度に少し疑問を持ったものの仕事の邪魔になってはいけないと思い通話を切る。
電話を終えた私の手元には蓮から貰った宝石がキラキラと輝いていた。
――――――――――――――――
とある会社での出来事。
二人の女性が会議室でなにやら話し込んでいる。社員証にはそれぞれ「大林」「小林」という名前が書かれている。
「ねぇーアレス~……じゃなかった、小林ぃー?なんで魔王サマはこんな回りくどいことをしてるの?まとめて殺しちゃったほうが早くない?」
「……私に聞かれても分かるわけないじゃない。あと、馴れ馴れしくしないで平社員風情が」
「なっ!?平社員って……!アンタが副社長に登れたのってジャンケンだったじゃない!偉そうにしないでよ!」
「大林。偉そうじゃなくて、貴女より偉いの。わかる?」
「は、はぁ!?なに、アンタやる気?」
「……」
「ちょ、コップ投げないでよ!当たったらどうすんの!」
きゃんきゃん吠える大林にコップを投げた小林だが、実は小林も魔王のやり方には疑問を持っていた。元々すべての世界を壊すため影響が最も高い”こちらの世界”に来たというのに、魔王はなぜか世界を壊すのを先延ばしにしている。正直、魔王がその気にさえなれば今すぐにでも壊せるはずなのに気がつけば30年以上が経過してしまった。
(……一体、何をお考えなのでしょうか。つい最近の命令だって……)
小林は最近の命令を思い出す。小林は魔王から直接「ある人物たちを指定した世界に飛ばせ」という命令もらっていた。小林はその命令に「ついに壊す気になったのか」と感激し、滞りなく進めたつもりだったのだが、なぜか最近になって「一度帰らせろ」という命令が下ってしまった。
その命令には流石の小林も疑問を持ち一度魔王に直談判しに向かったのだが、結局ははぐらかされてしまい望む回答を得られなかった。
(……やはり、なにか……!)
小林が考え込んでいると突然、バシャリと水をかけられる。
一瞬何が起きたのかわかっていなかった小林だが、ゆっくりと水を掛けた人物に視線をやると、犯人はニマニマと笑っていた。
「あはっ!さっきの仕返しでぇ〜す」
「……クソガキ」
「クソガキで結構です♡」
その言葉に小林はギロリと睨むが、大林は怯むどころか小馬鹿にするように笑っているだけだった。
先程まで熟考していた小林だが、物理的に頭を冷やされたため一度深く呼吸し考えることをやめた。
(余計なことは考えない。私がするべき事は魔王様のサポート。そして、世界を壊すこと)
小林は自分の目的を再確認すると一人頷いた後、大林に一度蹴りを入れる。
「いたっ!」
「……」
小林は大林の反応に満足そうな表情を見せ会議室を出て行くのだった。
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