04
音がした2階へ恐る恐る向かう。音がした部屋は多分、子供たちの部屋だ。
階段を登り切り一番近い彩葉の部屋から確認しようとした瞬間、突然3つの部屋の扉がひらかれる。
「っ!?」
「「「あっ」」」
「…………ええっ!?」
なんと、開かれた部屋から出てきたのは3ヶ月も帰ってきていなかったはずの、蓮・彩葉・瀬斗だった。
私の驚いた様子に子供達はどこか気まずそうな表情を見せる。
3ヶ月ぶりに見た子供達の姿は、特に痩せている訳でも傷があるわけでもなくいつも通りだった。ただ、少し違和感があるとすれば服装だ。蓮は大学生のはずなのに学生服っぽいのを着ているし、逆に彩葉は学生服のはずなのに白い修道院のような服を着ていた。そして瀬斗は、長いローブを身に纏っていた。子供達はいつの間にこんな服を買っていたのだろうか。
服装に疑問を持ちつつも、予想もしていなかった子供たちの登場に、私は思わず狼狽えてしまう。
「い、いつから?えっ、まさかずっと部屋にいたの……!?」
「は?……あー……いや……それは、何ていうか……」
「にぃ、何か隠してんの?……って、何でママそんなに焦ってるの?」
「お母さん、大丈夫?……にぃとねぇ、僕がいない間にお母さんのこといじめたの?」
「は、はぁ!?なんで俺がそんな事すんだよ!?俺だって家にいなかったっつーの!」
「にぃはともかく、私だって家にいたわけじゃないんだからするわけ無いじゃん。……てか、瀬斗。あんたのその格好何?」
「おい彩葉。何で俺はいじめてる前提なんだよ。お前じゃねぇのか?最近母さんに冷たい態度取ってるけど。てか、何その格好。最近流行りのコスプレか?」
「日頃の態度って知ってる?ったく、これだから低能なにぃと話したくないの。バカが移る」
「あぁ!?にぃちゃんに向かってなんっつた彩葉!」
「馬鹿だっていってんの!このバカにぃ!」
「…………お母さ〜ん、ただいま。僕がいなくなってから何日かたっちゃった?心配かけたよね、ごめんなさい」
いつの間にか蓮と彩葉が喧嘩を始めてしまう。瀬斗は「我関せず」と言わんばかりにそっと私の方へと近づき何か話始めるが、正直ついていけない。ちょっと待って欲しい。
つまり、あれか?私がずっと家にいないと思ってた子供たちは、自分たちの部屋で隠れていたということか?ご飯はどうしてたの?いやいや、掃除の時とか見かけなかったけど?え?
ぐるぐると考えをまとめていれば、瀬斗がずいっとこちらをのぞき込んでくる。
「お母さん?」
「えっ、あっおかえりなさい……?」
「うん、ただいま!」
私の言葉に瀬斗がへらりと笑う。
3ヶ月間見ることができなかったその笑顔に、先程まで考えていたことなんて忘れ思わず手が伸びてしまう。
「? どうしたの?」
私が瀬斗の両頬に手をおけば瀬斗は不思議そうな表情を見せてくる。
けれど、私は特に反応を示さずに、ただ瀬斗の頬をムニムニと揉む。
「んぇ〜なに〜?」
「……っ」
クスクスと擽ったそうに笑う瀬斗を見ると、自然と涙が浮かんでしまう。
「擽った……お、お母さんどうしたの!?な泣かないで!?」
瀬斗が慌てて私を慰めるように背中をさすると、私達そっちのけで喧嘩していた蓮と彩葉がこちらに話しかけてくる。
「めっずらしい~瀬斗が母さん泣かせるなんて」
「瀬斗、パパに絶対怒られるね。どんまい」
「な!?いや、えっ!?」
慌てる瀬斗を揶揄うように、蓮と彩葉がふざけ始める。
行方不明だと思っていた子供たちの元気な声と姿に私は思わず子供たちを抱きしめてしまう。
「んな!?」
「きゃ!」
「わっ」
「よかった……よかった……!!あなた達が無事で……!ママは……お母さんはっ……!」
存在を確かめるように強く抱きしめれば、どんどん涙が溢れてくる。本当は「おかえりなさい」って言いたかったのに、気がつけば早口に子供達に問いただしてしまう。
「っ、一体どこにいたの?なんで、連絡返してくれなかったの……!?お母さんがどれだけ心配していたか……!」
ズビっと鼻をすすっていれば、一番始めに蓮が口を開く。
「あー……信じられねぇかも知んねぇけど」
「……信じる、信じるから正直に言いなさい。どこに行っていたの?」
「えっと……い、異世界に行ってました……?」
「……は?」
信じると言った手前、何を言われても納得するつもりだった。だったのだが、蓮の口から出た言葉は何とも現実味のない言葉だった。「何言ってんだお前。反抗期でふざけてんのか?」と言わんばりの目で見るが、蓮は「嘘は言ってねぇ」と必死にアピールされる。
そして終いには、彩葉や瀬斗まで同じことを言い始める。
「にぃの話がホントかどうかは置いといて。私も異世界に行ってたの。だから……連絡、できなかった。ごめんなさい、ママ」
「……おい彩葉。何で俺は嘘ついてることになってんだよ」
「にぃとねぇとは異世界で会ってないから知らないけど、僕も異世界に行ってました。心配かけてごめんなさい」
「おい瀬斗お前まで……!てか、お前ら異世界って何だよ!嘘つくなよ!?」
「ちょっと瀬斗?なんで私まで嘘つき呼ばわりされなきゃいけないの!」
私が聞いていたはずなのに、気がつけば子供達が口喧嘩を始めた。
正直、「嘘をつくな」と言いたかったが、子供達は目線を一度も逸らすことなく言ってきたことから、本気で言っていることがわかった。
だからこそ、余計に混乱した。
「異世界に行った」なんてラノベとか2次元の話なのだから現実で起こるはずがないって、思ったからだ。
一度深呼吸をし、私は再度子供達に問う。
「……本気で言ってるの?”異世界”って」
「「「うん」」」
嘘偽りもなく頷く子供達に私はそれ以上何も答えられず「そ、そっか」としか言えなかった。