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15


 家に帰ってきた蓮が手を洗ってリビングに来てから10分が経った。

 蓮は特に言葉を発しない。しかし、何か言いたいことがあるのか、時折私のいるキッチンへ視線を寄越す。けれど目が合うと露骨に逸らされてしまう。先に私から話しかけようと思いつつも、話すよりも先に意地が勝ってしまい話すことができない。先程意気込んだのにもかかわらず。自分の意志の弱さにため息をついてしまう。しかし、いつまでもこのまま、というのはいけない。

 私はなんとかこの状況を打破しようと考える。

 すると、私達の反応を見かねた零が口を開き「そういえば、蓮はお昼食べたのかい?」と蓮に優しく問いかけた。


「……まだ」

「そっか。父さん達もこれから朝ご飯兼お昼ご飯にするところなんだ。ね、みふゆ」

「う、うん」


 零がこちらにも話を振ってくれたため、私は慌てて肯定する。すると、蓮はおずおずと「……何、食べんの?」と控えめに聞いてくる。


「……カレー?」

「!」

 

 パンがあるから適当にハムでも焼こうかと考えたが、そういえばご飯も炊けたし、カレーもあることを思い出し私はそう答えた。蓮は私の答えにパッと視線をこちらに寄越すと、いそいそとソファから立ち上がる。

 普段ご飯を食べる方で座っている零の隣にでも座るのかな、なんて思っていたが、スタスタと私の方までやってくる。

 蓮は私のそばまで来ると、視線を外しながら小さく口を開く。

 

「……手伝う」

「!?」


 蓮の言葉に思わず驚くが、「……皿これ?」とカレーを食べる時に使うお皿を出してくれるため、私は「う、ん。お皿そこにおいて。あ、先にコップと飲み物持っていって」と答える。蓮は私の言葉に頷くと、お皿を台所の上に三枚置き、コップと飲み物を運んでくれる。

 私はあまりの珍しい蓮の行動に、少し呆気にとられてしまったがなんとか身体を動かして、炊飯器からご飯を皿によそう。そして、ご飯を入れたお皿にカレーを入れていく。すると、カレーをテーブルに運ぼうとしに戻ってきた蓮が控えめに聞いてくる。


「母さん」

「ん?」

「チーズ入れて良い?」

「うん。あ、お母さんも入れる」


 ご飯とカレーがセットになったお皿を渡しながら、遠回しに私の分のチーズも出せと伝える。

 蓮はそれをきちんと理解していてくれたようで、冷蔵庫からスライスチーズを2枚取り出し、私と蓮の皿に1枚ずつ入れてくる。


「父さんは?」

「そのままで大丈夫」


 蓮は零にそう言われれば、零の皿だけ運ぶ。

 残された二つのお皿を今度は私が電子レンジに入れて温める。流石に二つ同時にはできないのでまずは蓮のから。


 適当に温めを押せば、電気によって温められる。チーズがぐつぐつとなれば電子レンジを止めて、蓮に渡す。

 蓮は受け取ると「ありがと」と言って席に着く。私は座っている二人に「先に食べてて」と言いながら、自分のお皿を電子レンジに入れる。

 

「待ってるよ」

「温かいうちに食べなよ」

「そんなかからないでしょ。蓮だって待つだろ?」


 零が蓮に同意を求めるように聞けば、蓮は口には出さなかったがコクりと頷いた。


 私は「気にしなくて良いのに」と言いながらも、ぐつぐつと温まったチーズを確認して電子レンジを止める。お皿を取り出し少し急ぎ足で二人が待つテーブルへと向かう。


 いつも通り零の隣に座り、三人でテーブルを囲えば「それじゃあ、いただきます」と零が言うため、私と蓮もそれに習うように「「いただきます」」と声を合わせて言う。


 スプーンでカレーを掬い、一口食べればたちまち食欲が湧いてくる。カレーって、そういうとこあるよね。

 「おいしいね」なんて、思わず声が出てしまえば零も「うん」と答えてくれる。そして、蓮もぎこちなく頷くが少し間を置いてから「……何か変えた?」と首を少し傾けて聞いてくる。


「あ、わかる? 何か違うよね」

「うん」


 蓮の言葉に零は強く頷いて見せる。「実はさ、これ父さんが作ったんだ」と零が言えば蓮は「へぇ」と少し目を見開いて感嘆した。


「母さんは同じだって言うけど、全然違うよね。蓮はわかってくれるか」

「うん。あ、だからって美味しくわけじゃない。ただ……母さんのとはちょっと違う気がする」

「だよね」


 零は同意を得られて嬉しそうに何度もうんうんと頷く。そして「ほら、違うって言ってるしょ?」と零になぜか誇らしげに言われてしまう。二人の意見が一致していることから、もしや、私の舌に問題があるのかと思い、今度の一口は味わうように口へと運ぶ。

 

 お店で食べるようなカレーとは違い、万人受けしそうなカレーの味に舌鼓する。私が作ろうと零が作ろうと大差ない気がする。しかし、わずかに違うと言えばとろみ感だろうか。思わず特に考えもせずに「もしかしたら……」なんてぽつりと言葉を漏らせば零がつかさず「なに、どこが違うの?」と聞いてくる。


「え」

「もったいぶらずに教えてよ」

「えっと、多分ジャガイモをよく煮たか、煮てないかかな?私ジャガイモ苦手だからわりと溶けてしまえ!って思いながら作るから……」


 私がわずかに違うと思った点を素直に言えば零は「……確かに。昨日は別にそんなこと考えて無かったしジャガイモはどちらかと言えば食感はあるかも」と真剣な表情で答えた。「いや、別にそれでそこまで変わるわけでも……」と言いかけたが「へぇ……ジャガイモでこんなに変わるんだ」と蓮が非常に納得した表情で言ったため私の言葉はかき消された。

 

 私は言いかけた言葉を飲み込むように口にカレーを運ぶが、本当に味は変わらない気がする。けれど、なぜかここ三ヶ月で食べた料理の中でいつもより美味しい気がする。それはきっと、零が作ってくれたという認識と、零と――蓮と一緒に食べることができたからだろう。


 私はカレーの味で話の花を咲かせている二人を見ながら静かにそう考えるのであった。

 


今年中に蓮の出番と直しを終わらせたい……!

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