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 あの後、私達はお互いに食べたいものを決め、宅配サービスで夕飯を済ませた。

 

「美味しかったねー」

「そうだね」


 お互いに感想を言い合いながら、私は食べたモノの容器の後始末。零はカレー用の食材を切っていた。

 お腹がいっぱいで少し眠たくなってきたが、今動かねばやらなくなってしまう。

 ゆったりと容器を片付ける私とは反対に、零は手慣れた様子で食材を切っていく。カレーを作ると言い出したのは私だが、このままならカレー作りに私の出る幕はなだろう。

 容器の後始末が終われば私は手持ち無沙汰になり、気がつけばぼんやりと零の手元を見いた。

 すると、零が控えめに口を開く。


「みふゆ、先にお風呂入っておいで」

「……えっ」


 突然の零の言葉に私は驚く。

 いつもは私が見ていてもそんなこと言わないのに、一体どうしたというのだ。

 思わずポカンとした表情でいれば、食材を切り終えた零は、手を洗い言葉を続ける。


「だってみふゆ、かなり疲れているでしょ」

「え!?い、いや、別に」

「こら、嘘つかない」


 私が「疲れていない」と言おうとした瞬間、濡れ手でコツンっと頭を小突かれる。

 

「いたっ」

「そんなに強く小突いてないよ」


 私は少し大げさに頭を抑えるが零に突っ込まれてしまう。

 

「……私疲れてないのに、零が先に手ぇだしてきた」

「手ぇだしてきたって」

 

 私の言葉に零は苦笑をこぼすと「みふゆがぼんやりし始めるのは、大抵疲れているか眠たい時だからね」と言われ、ビクっと肩を震わしてしまう。隠していた訳ではないが、指摘されればなんだか悪いことをした気分になる。


「……わかりやすかった?」

「そんなことはないけど?」

「えー……じゃあなんで分かったの」


 私が少しふて腐れたように聞けば、零はふわりと笑う。


「だって、もう何十年もみふゆといるからね」

「……ふーん」


 零の言葉に、嬉しいような恥ずかしいような何とも言えないむず痒い気持ちになり、私はそそくさとキッチンから離れる。


「照れてる?」

「照れてません」

「ふぅん?」


 目を細めて笑ってくる零に「もういい!私先にお風呂入る!カレーは頼んだよ!」と逃げるように言い放てば「お風呂で寝ないでね」と言われてしまう。

 思わず、「私は子どもじゃないからお風呂で寝落ちなんてしません!」と言い返したくなったがぐっと耐えて浴室へと向う。


 脱衣所に入り、私は上がったあとの下着と寝間着を棚から用意する。

 服を脱ぎ、浴室の扉を開ければ、すぐさまシャワーからお湯を出す。浴室はそもそも湯気で見たされていたため、特に寒さも感じることはなかった。いつも通り髪も身体も洗い終えれば、丁度いい温度でお湯を張った浴槽へと身体を沈める。広々とした浴槽だから足も伸ばせてしまう。

 

 ゆっくりと肩まで身体を温めることが出来れば、私は身体もそうだが心もリラックスし始める。

 そしてリラックスし始めれば、私は今日一日の事が思い出される。

 

 蓮が帰ってきたこと。喧嘩したこと。家出されたこと。本当に今日だけで色々あった。


(もしも、蓮が帰ってきた時、喧嘩なんてしなかったら――)


 ――今も家にいて、一緒の時間を過ごすことが出来たのではないか。


 と、そんな考えが浮かんで来た。

 けれど、いまさら『もしも』の話をしたって仕方がない。

 起ってしまったものは取り消せないのだから、今自分が後悔しないよう動くしかない。


 ぐーっと浴槽で身体を伸ばし、私は浴槽から出て浴室を後にする。

 

 上がってタオルで身体を拭き、寝間着を着る。そして髪をタオルで拭きながら、零がいるであろうリビングへと向かう。

 すると案の定、零はまだリビングのキッチンでカレーを作っていた。


「出来た?」

「うん。味見する?」

「いらない」

「……そう言わずに」


 お風呂でさっぱりした後だったからか、私はカレーを味見する気にはなれず断る。しかし、零はずいっと私にカレーの入った小皿を渡してくる。


「はい」

「……」


 渋々渡された小皿に口をつければ、いつもと変わらないカレーの味が口に広がる。


「うん、美味しいよ」

「そう?……でも、みふゆとちょっと味が違うような気がするんだよね」

「? 変わんないよ?」


 零の言葉に私は首をかしげる。ルーをスパイスから拘って作り上げたものならば、確かに味は変わるかもしれない。けれど、残念ながら我が家のカレーは市販のルーを使用しているため、そうそう変わらないだろう。


 私は不思議そうにルーを味見している零に「本当に変わんないって、美味しいよ?」と言い、小皿をシンクに置く。


「さ、零もお風呂入っておいでよ」

「……そうだね。僕も入ってくるね」


 零は若干私の言葉に納得がいっていなかったのかしばらくカレーのルーを見つめていた。けれど、考えても仕方がないと結論付けたのだろう、私がお風呂に入るよう進めれば素直に入っていく。


 零がお風呂へ向かえば、私は小皿を洗う。時計をちらりと見れば時刻は21時過ぎ。

 少し考えた末に、私は米を研ぐことにした。蓮の分はもちろんだが、彩葉や瀬斗が帰ってくる可能性だって十分にある。少し多めに研いでおこう。


 シャコシャコ――と米を研ぎ終え、炊飯器に入れて、時間を設定すれば終わりだ。

 

 零もいないため、静かなリビングに私は一人。何となく、静けさを壊すためテレビをつければ、ニュース番組が始まっていた。

 ほっこりする内容のものもあれば、政治の話や、事故の話。今日一日で起きた出来事をニュースを通して私は知る。


 しばらく見ていれば、零が上がってきたのだろう。「髪乾かさないと風邪引くよ」と言われてしまう。

 私は「はーい」と答え、髪を乾かしに洗面所に行く。

 棚からドライヤーを取り出し、髪を乾かし終えれば、私は床に落ちた髪をコロコロで取る。上手に取らないと、床に粘着シートがひっついてしまうので要注意だ。

 床に髪の毛がなくなったのを確認した私は、「ふわぁ」とあくびが出て、そのまま流れ作業の様に歯磨きへと移る。


 どうやら、私はもう眠たいみたいだ。

 しょぼしょぼとする目で、シャカシャカと歯を磨き口をゆすいでいれば、零もやってくる。


「もう寝る準備してたんだ」

「うん」


 水で濡れた口を拭き、零に「それじゃあ先に寝るね。おやすみなさい」と伝えれば零はも「おやすみ」と答えてくれる。


 階段を上り、自室の布団で横になれば、思ったよりも瞼が重くなってしまう。

 少し前までは、子ども達のことが心配であまり寝付けないこともあったのに。それに、今だってまだ蓮との問題はまだまだあるし、彩葉と瀬斗のことも気がかりだ。

 うとうとと心配ごとが色々と頭に浮かぶ。

 それでも、蓮が帰ってきてくれた、という安心感からかいつもより安心して私は目を閉じるのであった。



後日訂正が入ると思います。

まとめて直そうと思っているので、他の話の訂正ももう少々お待ちください。

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