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買い物に行った私達は必要な食材を買い終えて家に帰ってきた。
車から降りてトランクから荷物を取ろうとするが、私よりも先に零が荷物を取り玄関に運んでくれる。
ありがたいと思う反面、今回はかなり色々と食材を買ってしまい大きなエコバックが二つになってしまっているため、私は慌てて追いかける。
「わ~ごめん、私も持つよ」
パタパタ走り荷物を半分受け取ろうと手を伸ばすが、零は一向に荷物を離す気配がない。
軽く荷物を引っ張りながらも私は遠慮がちに問いかける。
「えぇと、零?せめて片方だけでも……」
「ううん、僕が運ぶから大丈夫だよ。今日のは重いから」
「……そう?なら先に家に入って早速準備するね」
引く気がないことが分かった私は、零の言葉に甘えて先に家へと入る。手を洗い、料理が直ぐにできるように準備に取りかかる。
後から入ってきた零が「今日買った食材、冷蔵庫に入れちゃうね」と言ってくれるので「はーい」と答える。
さて、何から作ろう。一応蓮が好きな食べ物である、エビチリ、ハンバーグ、カレーにきんぴらなど、色々作れるように食材は買った。
けれど、そこでふと思う。これらを今作っていいのか、と。それに、蓮の好物を作るとなると料理の和洋中混合もいいところだ、流石に組み合わせが悪いなと思い、手を止めて考えてしまう。すると、食材を冷蔵庫に入れていた零が手を止めた私を見て不思議そうに「どうしたの?」と聞いてくる。零の言葉に私は首をかしげながら答える。
「うーん、いや、あのね。蓮の好物を作ろーってまではよかったんだけど、今作ってもいいもんなのかなって。特にエビチリなんて……」
「あーそうだね」
零は私の答えを聞くと軽く頷いて答える。
「エビチリは明日の方がいいかもね」
「やっぱり?」
「うん。えーっと……買ったものから考えられるのは――ハンバーグとカレー、かな?そう言えばゴボウもあったけど何に使うの?」
「あっ、ゴボウはねきんぴらにしようと思って」
「なるほど」
私がそう答えれば「じゃあ……」と言いながら零は先程しまっていた食材のうち――ニンジンや肉、たまねぎにジャガイモを取り出す。
「僕がカレー用の食材を切るっておくから、みふゆはきんぴらを作ったらどうかな?」
「えっ、手伝ってくれるの?」
「うん?――あぁ、もしかして一人で作りたかった?」
「いや、そういう訳じゃないけど……大丈夫?疲れない?」
私がそう聞けば零は不思議そうな顔をするが、仕事から帰ってきて早々に休む暇なく動いてもらっている気がして、私は少し心配になってしまう。しかし、零は私の心配をよそに「大丈夫だよ」と優しく笑うと「先にちょっと着替えてくるね」と言って二階に行ってしまう。
私はそんな零の背中を見送るしか出来なかったが、零だって心配していた息子が帰ってきてくれたのが嬉しいのだと思い、これ以上口出すことはやめておいた。
気を取り直し、私は私できんぴらを作り始める。私が作るきんぴらはどうしても一日置かないと味が染みないし。
ボウルを取り出し、先程買ったゴボウと野菜室にあったニンジンを取り出す。
買ったゴボウの方には土がついていたため、使う分だけ取り、残りを新聞紙で包んで野菜室の方へ入れる。
そして使う分のゴボウを軽く洗い、皮を剥いていく。皮を剥き終えたらささがきになるように切っていき、ボウルに水を張り、切ったゴボウを水にさらす。さらしている間に、今度はニンジンに手をつける。軽く水で洗い、同じように皮を剥き、細切りにする。
一度包丁を置き、次は小さめのフライパンにゴマ油を引き。先程切ったニンジンとゴボウを炒める。
ゴボウがしんなりするほんの少し前に、醤油やみりん、顆粒だしを入れる。汁気がなくなるまで炒めていれば、きんぴらの完成だ。
味見を称して一口食べれば、ゴマ油とゴボウの風味が口に広がる。「うん、いい感じ」と思うが、きっとこの状態で子供達にだしても少し微妙な顔をされることが目に浮かび、ため息をもらしてしまう。
すると、着替え終えた零がこちらにやってくる。
「ごめん、会社から電話があって遅くなった。……きんぴらの味見してたの?」
「……はい、あーん」
「っん」
別に、味見で一口食べていただけだから後ろめたいことはしていない。していないはずだが、私は何となく悪いことをしてしまった気持ちになり、特に零の言葉に答えず問答無用で零の口にきんぴらを運ぶ。
零は突然言われたのにもかかわらず、素直に口を開いてきんぴらを食べると「うん、美味しい」と感想を伝えてくれる。けれど、そんな零に私はふてくされたように聞く。
「……でも、味薄いんでしょ?」
「…………ちょっとだけだよ」
「はぁ、なんで薄いんだろ……」
そう、私のきんぴらはレシピ通りにやっているのにどうしても出来たての状態だと味が少し薄くなってしまう。正直、私はこのぐらいの味付けが好きだから問題はないのだが、子供達や零にとっては薄く感じるため、作る時は速めに作っておくか、カンを信じて調味料の量を増やして作っている。たまに良い感じに子供達好みに作れることはあるが、まぁ大抵は今回のように「味が薄い」と言われてしまう。
今回も出来たての味が薄かったことに肩を落とすが、「でもホントに美味しいよ」と零が言ってくれるのでよしとしよう。
明日には味が染みているだろうし。
とにもかくにも、作り終えたきんぴらを今度はタッパの方にうつし、少し常温で冷まして置いておく。
「よし。きんぴらできたから、カレー一緒に作ろう」
私がそう言えば、零がふんわり笑って「うん」と答える。
けれどその瞬間、零が何かを思い出したかのように「そういえば」と口を開く。
「今日の夕飯は何にするつもりなんだい?」
「……あ」
「え」
零の言葉に私ははっとする。しまった、蓮の好物しか考えていなくて、今日の夕飯のことはすっかりと忘れていた。
慌てて「え、あっカレーにする?」と答える。
「うーん……そうなると夕飯20時近いけど大丈夫?」
「えっ」
零の言葉に時計を見れば時刻は18時45分。
今から食材を切ったり、煮込んだりするならそれぐらいの時間はかかると思ったほうがいいだろう。
別に時間が掛かっても構わなかったりするのだが、その時間から食べるとなると――太るだろう。
お腹は減っているので夕飯を抜くという選択肢はないが、太る可能性が高くなるなら少々悩む。時短ですぐ作れそうな料理はあっただろうか。
私が悩むそぶりを見せれば、零はズボンのポケットに入れていたスマホを取り出す。
「今から作るよりかは、何か頼む?……あ、結構早く届く店もあるよ」
「夕飯時なのにあるの?」
「うん。どうする?」
零は私に選択権を委ねる。正直、カレーを作って食べてもいいのだが、あわよくば作ったカレーは蓮と一緒に食べたい。
私は少し悩んだ後、「……何か頼むのでもいい?」と聞けば「うん、もちろん」と返答される。
「じゃあ、今日の夕飯は宅配サービスので!夕飯食べたら、カレー作ろう」
「了解。それじゃあ何食べる?」
零はスマホを私に見せながら「ここはどう?こっちも美味しそうだよ」と言ってくるため、色々目移りしてしまう。
悩みに悩んだ末、二人で食べたい料理と届く時間を吟味しながら、私達は夕飯を決めるのだった。




