11.9~蓮の話~
無理矢理繋いだ間があるので、読みづらいかもしれません。
すみません、速めに直します。
「なぁ……悩みなら相談に乗るぞ」
「……えっ」
裕二の言葉に、蓮は一拍置いてから返事をする。
なぜなら声音こそ気楽そうに言っていた祐二だったが、目が真剣だったからだ。
蓮はそんな祐二に少し固まってしまうが、祐二は気にせず言葉を続ける。
「お前、明後日には海外行くんだろ。……ホントは何で海外に行かなくちゃいけないのか、とか、なんで行方不明だったのか聞きてぇけど……多分言えないんだろ?」
「っ」
祐二の言葉に蓮は口を結ぶ。けれど、祐二はそれを咎めるわけでもなく笑って言う。
「言いたくねぇなら聞かねぇって。まぁだからって前が悩んだままで……上の空で残り少ない時間を一緒に過ごすなんてごめんだぜ。時間がもったいない」
「……」
「それに、夢にまで影響してるっつーことは、精神的にも色々きてんじゃねーの」
「ゆ、うじ……」
「……ぜってー悩み解決してやっから、こんな時ぐらい頼れよ」
祐二はそう言うと、恥ずかしいのか顔をふいっと背けてしまう。
一方蓮は、祐二の言葉に何か耐える様に唇を噛みしめたが、困った様に吹き出した。
「っ、はは。なんだよそれ」
「は~?人の好意を笑うとはなんだこのやろ~」
蓮が笑えば、祐二はほんの少しむっとした顔をするもののその声は楽しそうだ。そして蓮は祐二の目を見ると、少し申し訳なさそうに口を開く。
「……さっきの――行方不明だった理由とか、海外に行く理由は言いたくないんだけどさ……今悩んでること相談しても、いい?」
「もちろん」
「じゃあ……ちょっと気持ちの準備させて」
「気持ちの準備って……」
そう言って祐二は「まぁいいけどよ」と笑う。
蓮は自分のために力を貸してくれる祐二の存在に感謝しながらも、自分の悩みについてゆっくりと口を開く。
「……俺、親と喧嘩したっつったじゃん?」
「おう?」
「あれさ、どっちかつーと、親じゃなくて母さんと、何だよ」
「……」
「母さんに、俺が……海外に永住したいって伝えたら怒られてさ。なんで怒られたのかわからないんだよ」
蓮は先程シャワーで考えた事を祐二に話す。
「だって、やりたいことをやりたいって伝えただけなのに、反対して怒るなんてさ……俺はただ、応援してくれるだけでいいのにって思ってて」
「……」
蓮の言葉に祐二はほんの少し考えるそぶりを見せると、確かめるように聞き返す。
「……ってことはよ、お前はつまり……お母さんに応援してもらいたかったってこと?」
「え」
祐二の指摘に蓮は目を瞬かせる。
しばらく、目を瞬かせていた蓮だが自分の中で何かが腑に落ちたのかほんの少し明るい声音で答える。
「そう、かも。俺、母さんに認めてもらって……応援してもらいたかったのかも」
「ふぅん。じゃぁ、なんで怒られたのかもわかりそうだな」
「……それ、は……」
「これで問題は解決か……案外早かったな」なんて思った祐二だが、蓮が答えずらそうに視線を右往左往したため思わず突っ込んでしまう。
「……はっ?わかんないのかよ!?」
「……」
バツが悪そうに顔を背ける蓮に祐二はコツッと肩に拳を当てる。
「あんな~おまっ……はぁ、さっきも言ったけどよ、お前のお母さんは心配なんだと思うよ、お前が遠くに行くのが」
「……」
祐二の言葉を聞くと蓮はむっとした目を寄越す。その目はまるで「だからちげぇ」と言っている様だった。けれど、祐二はそんな目にも屈せずに言葉を続ける。
「あのな~?この際言うけどよ?……衣食住がどうにかなるとしても、海外に突然行くって言われたら誰だって心配になるだろ!それに、一ヶ月後とか半年後とか、旅行とかじゃなく、お前の場合は突然かつ永住したい、だろ?そんなの反対されるって!」
「……やけにお前言うじゃん」
「……そりゃあ、俺だって反対してぇもん」
「は?」
「あ?」
祐二の言葉に蓮は思わず声が漏れるが、蓮の声が喧嘩腰だと感じたのか祐二は喧嘩腰で反応する。
けれど、つかさず蓮は聞き返す。
「な、なんでお前まで反対すんだよ!」
「は~!?お前が帰ってきたら、お前がいなかった分まで色々遊んだり、一緒に単発バイトしたりとか……俺だって色々と考えてたのに、俺のことなんかフル無視で色々と決めてるからだよ!」
「っ!」
祐二の言葉に蓮は言葉をつまらせ、そして、なぜか地に足がつかなくなったような感覚に落ちる。
それもそのはず。蓮は自分のことしか考えておらず、祐二の事や両親のことを、一度も考えていなかった。否、そこまで先のことを考えていなかったのだ。だからこそ、祐二の言葉は蓮に刺さった。
けれど、祐二は蓮方を見ずに言葉を続ける。
「――っんだよ。そうなる前に一言ぐらい言ってくれたって良かったじゃんって思うに決まってんじゃん!俺って、お前にとってそんなにどうでもいいやつだった?…………ん?いや、待て、今の無し!無し無し!なんか、面倒くさいメンヘラ彼女みたいだから無し!」
「……」
バタバタと自分の発言を撤回する祐二だが、蓮には届いていなかった。
それどころか、蓮は自分一人で考え込んでしまう。
(……俺は、周りを見れてなかった……?やらなきゃいけないことしか考えてなくて、周りのことなんか考えていなくて……俺が、自分本位だったから……でも、俺は人助けのために)
グルグルと蓮は思考を巡らせる。それはまるで自分を正当化するかのように。
けれど、祐二は蓮が思考を巡らせているなどとも知らずに、先程の言葉を誤魔化すように口を開く。
「ゴホンっ。だからですね、つまり俺が言いたいのは――」
「……」
「……蓮?聞いてんの?」
「……」
「おいおい……」
しかし、チラリと蓮の方を見た祐二は蓮が反応を示していないことに気がつき、あきれ果てる。
祐二は一人、自分の世界へと入っている蓮の耳元に手を近づけると「パンっ!」と手を叩く。
「っ!?」
「やっと気がつきましたかー?」
「あ……悪い。何か言ってたか?」
「……本気で聞いてなかったのかよ」
いわゆる猫だましを喰らった蓮は弾かれるように祐二の方を向くが、祐二はふて腐れたような表情だった。
けれど、祐二は特に話しをぶり返すのではなく、話が先に進むように言葉を続ける。
「で?俺の話を聞いていないで蓮はどんな考えに至ったんだよ」
「……」
「だんまりじゃわかりませんー」
「うまく、言語化できねぇ……んだけどよ」
「おう?」
祐二はなんとか言葉を紡ごうとしている蓮に耳を傾ける。
蓮は「だから、つまり、俺が……」「……違う、そうじゃなくて――」と言っては言い直すということを繰り返す。
流石の祐二も何度もそれをやられると、姿勢を崩し助け船を出す。
「……別に丁寧に言わんくてもいーよ」
「でも」
「あー!ホントいいから!話が進みませんー」
「……」
祐二にそこまで言われれば蓮もおずおずと話し出す。
「いや、俺はさ。別に”自分だけ”のために異世――じゃなかった、海外に行きたい訳じゃないんだよ」
「? でも、お前ラーメン屋ではやりたいことがあるからって言って無かったけ?」
「そう、だけど……でも、それは結局俺が……俺がやらないといけないこと、だから」
「? 意味分かんねぇけど、お前が海外に行かないと誰か困るってこと?代えが効かない、的な?」
「そうそう。そんな感じ……?」
「おー、おー?お前も分かってないんじゃ俺も何も言えん……?え、でも一人でなんかやるわけではないんだろ?」
「そりゃぁ、まあ」
「結構人いるの?」
「そこそこ?」
「おー……?」
二人はそこまで話すと互いに不思議そうな表情を浮かべてしまう。
けれど、先に問題を解決しようと動いたのは祐二だった。
「……んまぁ、お前以外に代えが効かないとしてもよ……それってやばくね?」
「……何が?」
「いや、だってよ。よく言うじゃん?バイトとか会社とかでさ、”たかが一人いなくなっただけで仕事が出来なくなるのは……”ってやつ」
「あー……」
祐二の話に、蓮はなんとなく理解を示す。要は、”蓮がいないと実行できない事なんて可笑しくないか”と言いたいのだろう。
(でも、会社と人助けはベクトルが――ちょっと違う?いや、でも、もしかして変わらない……?)
一度は違うと考えたものの、果たして本当に違うのか考え混んでしまう。
「うーん……それにさ、お前のお母さんもこのことに疑問を持って否定して怒ったんじゃねぇの?」
「え?」
「いや。俺もバイトとかで、なんか抜けづらい時とか、人手がいなくて辞めづらい時とかあるけどさぁ。でもさ、それって結局店側が俺に押しつけてんじゃねぇかって」
「押しつけ……?」
「うん。いや、だからって申し訳なさがないわけじゃねぇよ!?それに雇ってもらってる身だしな。悪いなーとか、やっぱ助けるべきだよなーっとは思うし、結局ずるずる辞めなかったり、抜けないって選択肢をとるんだけど……」
「うん?」
「けどさ、それって俺の選択肢をあっちが狭めてんじゃね?って」
祐二はそこまでいうと頭をかきながら「……うまくは言えねぇんだけど」と言いながら更に言葉を続ける。
「自分で決めなきゃいけない選択肢があった時ってさ、誰かが困っていたとしても自分のためのちゃんとした選択肢を選ぶなら、一度離れないと、”俺がやらないと”って思考回路になっちゃて、あんまよくない選択肢を選ぶ羽目になりやすいよ、なぁって、経験上思って……しまって?」
「……」
「あー……まぁ、あれだ。お前がなんで行方不明になってたのか知らんし、いきなり海外に永住することになったのかもわかんねぇどさ――もう少し、視野を広く考えたら良いんじゃねぇのかなぁ~って思うぜ?」
「視野を、広く……」
蓮は祐二の言葉を聞くと、オウム返しのように繰り返し――そして考える。
(……母さんは、あの時…………選択肢、視野を広く)
蓮は母との喧嘩を思い出しながらも、祐二の言葉を心でも繰り返せば自分の心の靄が晴れるような感覚になる。けれど、それは完全に晴れる訳ではなかった。それでも、ほんの少しのきっかけで変わったことから、蓮は顔を上げて祐二に答える。
「……ありがと」
「へっ?」
唐突に感謝を伝えれば、祐二は驚いたように蓮を見る。
「……ちょとは――いや、かなり問題解決してきたかも」
「え、まじ!?」
「まじで。この答えのおかげでほとんどの解決出来てる」
「まじかよ……」
「俺って……問題解決の才能ある感じ?」なんてふざける祐二だが「でも、まだ問題あるなら聞くぜ?」と身を乗りだして聞いてくる。
けれど、蓮は笑って首を横に振る。
「ううん。多分これは――俺が一人で解決しないといけないから」
「……ふーん?そっか、ならわかったよ」
「ありがとな、まじで」
「どーいたしまいて」
祐二はそう答えると「報酬は先程買ったプリンでいいですので」とお茶めに笑う。これには思わず蓮は「報酬とんのかよ」と笑ってしまう。
「当たり前だろー?」
「タダじゃねぇのかよ」
「はー?ほとんど解決出来たんだからいいだろ~?」
祐二はそう言いながら、蓮がシャワーに入っている間に冷蔵庫で冷やしておいたプリンを二つ持ってくる。
「んじゃ、早速食おうぜ~」
「はいはい」
「あ!っつーことは、もう上の空になったりしねぇ?」
「あー……うん、なんねぇわ」
「おっ、じゃーさテレビゲームのやつで、二人で出来るさ――」
「……へぇ?面白そうじゃん、やろうやろう」
「良いねぇ~!乗り気じゃーん」
二人はプリンを食べながら、これからの時間をどう使うか話を始める。
あぁでもない、こうでもない、と楽しそうに。
二人が一緒に入れる時間は少ないが、それでも一秒も無駄にすることはなく、最後の時間を楽しむのであった。
蓮の話は一旦終わりで次からみふゆのターンになります。




