01
新しく登場する人物の紹介
長男:蓮
長女:彩葉
次男:瀬斗
遡ること3ヶ月前。
子どもたちがいなくるとを知らなかった私は、いつも通りの日常を過ごしていた。
「蓮ー!彩葉ー!そろそろ起きなさーい!」
私がリビングから声をかければ、ドタバタと2階から音がする。
多分、これは彩葉が起きた音だ。
彩葉は我が家の長女。今年17歳になる高校2年生。最近私に対して当たりが強い気もするが、多分反抗期なのだろう。お母さん的には寂しくも感じるが、それでも高校生活は楽しく過ごしているみたいだから、特に不満はない。
しばらくすれば、彩葉が走るような勢いで階段を降りてくる。
「彩葉おはよう。ここに弁当置いておくからね」
「……ん」
朝の挨拶はしてくれなかったものの、弁当は受け取るのだから可愛いものだ。
「ところで彩葉。蓮は?起きた?」
「……にぃならまだ寝てるっぽいよ」
「また遅刻ギリギリに行くつもりかしら」
念のため彩葉に蓮が起きてるか聞くが、どうやらまだ起きていないようだ。
「仕方ない……」
ふぅ、と息をついて階段の方へと向かい、2階に届くように思いっきり叫ぶ。
「蓮ー!いい加減起きないと遅刻するわよ!」
すると、ドンっと何か落ちる音がした。きっとベットから蓮が落ちたのだろう。
蓮は我が家の長男であり、今年21歳になる大学2年生。明るく気さくな子だが、遅めの反抗期に突入したのか、最近私に対して冷たい。大学生だし色々と自分でやらすべきなのだが、大学が1時限目からあるため、ウザがられても声を掛ける。
すると、キィっとドアの開く音が聞こえる。
やっと蓮が起きたか、と思い安心してると、ひょこりと顔を覗かせたのは、蓮ではなかった。
「お母さん、おはよう。蓮にぃまだ起きてないの?」
「瀬斗、おはよう。ごめんね、うるさかったでしょ。瀬斗は今日休みなのに」
瀬斗は我が家の次男。通信高校に通う16歳の高校1年生。瀬斗はまだ反抗期が来てないのか、いつも通り緩い雰囲気で階段を降りてくる。
「いいよぉ〜どーせ、にぃとねぇが悪いんでしょ〜?」
「……なんであたしまで悪者扱いなのよ」
「心当たりないの?ねぇは相変わらずお気楽だねぇ」
「あ?今何つった?」
瀬斗は下に降りると、リビングで朝食を食べている彩葉に突っかかる。
「こら、瀬斗も彩葉もやめなさい」
「はぁ〜い」
「……」
私の言葉に瀬斗は素直に頷くが、彩葉腑に落ちない様子だったが、「ごちそうさま」そう言うと足早に玄関へと向かう。
「行ってらっしゃい、彩葉。弁当は持った?忘れ物は?」
「ない」
彩葉はそう答えると、振り向きもせずに学校へと向かう。
……いってきますの声がなくて、寂しいと思ったのは内緒だ。
すると、彩葉と変わるように今度は蓮が2階から降りてくる。
「あー!?もう時間ねぇじゃん!!」
「蓮おはよう。ご飯はそこに「……あっ、もしもし裕二?ちょっとセンセーに『蓮は今道に迷ってます』って伝えといてくんない?……え?んでだよぉー!頼むって!」……あっ」
友人に電話しているからか、蓮はこちらに目もくれず、すぐさま大学へと向かってしまった。
反抗期とわかっていても、挨拶がないのは、少し寂しい。
「……」
「おかあーさん」
「!」
ポンっと、肩を叩かれ後ろを振り向けば、瀬斗が不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「お母さん、大丈夫?にぃとねぇにいじめられた?」
「……ううん、そんなんじゃないよ。大丈夫」
慌てて「今、瀬斗のご飯用意するね」と言えば、瀬斗はコクリと頷く。
テーブルの上に瀬斗の朝食を用意していれば、瀬斗は寝間着から着替えていた。
「瀬斗が休みなのにこんな時間に着替えるなんて珍しい。どこか行くの?」
「うん。ちょっと図書館に行こうかなぁ〜って」
「そう。気をつけてね」
「はーい」と言いながら瀬斗は朝食を食べ始める。
瀬斗が食べている間に、私は洗濯物を回し、彩葉の食べ終えた食器を洗う。
「ごちそうさまでしたー」
「はーい」
瀬斗は食器をシンクまで持ってきてくれると「じゃ、そろそろ行ってくるね」と言い、玄関へと向かってしまう。
「まって、瀬斗」
「ん?なぁに〜?」
ゆったりとした雰囲気で瀬斗は靴を履きながら答える。
「何時頃に帰ってくるの?お昼はいる?」
「ん〜……お昼はどこかで食べてこようかなぁ。もし家で食べることになったら連絡するね!一応、夕飯前に帰ってくる予定~」
「ん、わかった。気をつけてね」
「はぁい!いってきまーす!」
瀬斗はニコニコと笑いながら家を出る。
瀬斗を見送り「朝ごはんでも食べようか」と思った私はリビングへと向かう。リビングに入り、自分の朝食を用意をしようとした瞬間、携帯の着信音が鳴り響く。
「携帯携帯……あれ?携帯ない!?」
テーブルの上に私の携帯があると思っていたが、どうやらテーブルには置いていなかったらしい。
気を取り直して音の方へと進み辺りを見渡してみるが携帯は見つからない。
どこだ何処だと探しているうちに、着信音が消えてしまう。
「あれ……まってほんとにどこに置いたっ……あっ、あった!!」
クッションをどかせば、ソファの間に挟まった私の携帯が見つかる。
折り返すためにも携帯へと手を伸ばすが、私がつかむ前に、またもや連絡が入る。
「待って待って!」
着信相手も見ずに、私は慌てて出る。
「はい、もしも『っ、みふゆ!?大丈夫!?』あれ、零?どうしたの?」
電話の相手はわたしの旦那である零だ。
零は先週から出張で家にいない。零は出張で忙しいのにも関わらず、毎日欠かさず電話をしてくる。
電話の時間帯はまちまちで、子供達が行く前に電話をくれる時もあれば、夕方にくれる時もある。
今日は子供達が起きる前に連絡がなかったため、きっと夕方だろうなって思っていたが、予期せぬ時間帯に来たため、驚いてしまう。それに、あまりにも焦った声に、こちらまで焦ってしまう。
「どうしたの?何か、あった?大丈夫?」
『どうしたって……!こっちの台詞だよ。みふゆ、大丈夫?全然電話出てくれなかったけど……』
「えっ?」
零の言葉に、電話をスピーカーにして履歴を見ると、どうやら私が子供たちを見送っている間に13件もの連絡をくれていた。
「わっ、ごめん!子供たちを見送ってたの、無視してたわけじゃないの」
『あぁ、そっか。そんな時間だったか……。こっちこそごめんね。全然出てくれないから何かあったかと思って……』
電話越しで零が酷く落ち込むのが分かる。
確かに、私も朝は忙しくから配慮はして欲しいものの、心配してもらうのは悪い気はしない。
「ううん、大丈夫。心配掛けてごめんね。零は大丈夫?」
『ん、僕は大丈夫だよ。……でも、早く家に帰りたくて憂鬱かも』
「出張して一週間だもんね〜そろそろ零も休みたいよね」
はぁ、とため息をつく零に励ますように声をかけるが、零はどこか不貞腐れたようにボソリと呟く。
『そうだけど、そうじゃない……』
「? なに?もう一回言って?」
『……なんでもないよ』
「そ、そう?」
どこか呆れたように言う零に、それ以上言えなかった。
『それじゃあ、僕もそろそろ仕事の準備するね』
「うん。今日も一日頑張ってね」
『ありがとう。みふゆも何かあったらすぐ僕に連絡してね』
「はいはい、ありがとう。それじゃあ」
電話を切れば、しんっとした空間に1人取り残される。
いつも通りのはずなのに、今日は何故か寂しさが残った。
「…………朝ごはん、食べよう」
そんな思いをかき消すように、私は蓮が手を付けなかった朝食を食べるために冷めたおかずを温める。
――けれど、その時の私は知る由もなかった。私が朝ご飯を食べている間に、子供たちがとんでもないことに巻き込まれているなんて――。
後々訂正等入るかも知れません。