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11.7~蓮の話~



 泊まりに必要なモノを買い終え、アイスを食べながら他愛のない話に花を咲かせていれば、やがて祐二の家へとたどり着く。

 祐二はポシェットから鍵を取り出し、家の鍵を開ける。そのまま玄関の扉を開けるが、祐二は先に入るのではなく蓮が先に入れるようにと扉を押さえる。

 

「はい、どうぞ。上がって上がって~」

「ありがと、お邪魔します」

「ん~リビングに適当に荷物置いて~んで、手ぇ洗ってね」


 先に家へと入れてもらった蓮は祐二の言葉通り、リビングに荷物を置きに行く。

 壁側に荷物を置いた蓮は早速洗面所に向かおうとするが、ふと玄関の方に今日祐二買がっていた荷物達が置いてあるのが見えるが祐二の姿は見えない。

 そんな光景に蓮は気がつけば声を出していた。


「祐二、玄関の荷物運んどこうか?」

「まじ?悪い、お願いするわー」


 すると、洗面所の方から祐二の声が聞こえる。どうやら祐二は荷物よりも先に手を洗いに行ったようだ。

 蓮は祐二の返事を聞くと手を洗いに行くのを一度やめ、玄関にある荷物をリビングに運ぶ。すると、手を洗い終えた祐二がやってくる。

 「悪い、ありがとなー」と言ってきた祐二だが、蓮を見ると何か思いついたように口を開く。


「そうだ蓮。先に風呂入る?……つっても、シャワーだけど。え?風呂の方がいい?」

「いや、シャワーでいい。先に入って良いのか?」

「おうよ。タオル用意するわ」

「お願いしまーす」


 祐二の言葉に蓮はそう答えると、先程買った下着を持ちながら洗面所に向かい手を洗いに行く。

 手を洗い終え、タオルで拭いていれば祐二が「バスタオルここに置いとくわー」とやってくる。


「サンキュー……あ、悪いんだけどなんか寝間着貸してくんね?」


 バスタオルを持ってきてくれた祐二に感謝を伝えた蓮だが、ふと寝間着についてすっかり忘れていたことを思い出し祐二に問いかける。

 祐二は一瞬きょとんっとした表情を見せたが、言葉の意味を理解したのかニッと笑い答える。

 

「おーいいよ。お前が風呂入ってる間に置いとくな!」

「何から何まで悪いな、ありがと」


 色々と祐二に迷惑をかけていると感じた蓮は、少し申し訳なさそうに眉を下げるが「いいってば、俺とお前の中だろー?んじゃ、ごゆくっりー」と祐二は言い、リビングの方へと行ってしまう。


 一人残された蓮は申し訳なさがあったものの、洗面所の扉が閉まると手慣れた様子で仕切りを作り始める。

 

 祐二の家は脱衣所と洗面所が繫がっている構造だ。蓮自身は気にならないのだが、祐二が「なんか嫌じゃね?」と言っており、風呂に入る時は仕切りをしてくれと頼まれている。

 初めは「面倒だな」と思っていた蓮だが、何度か作れば苦にはならない。

 

 仕切りを作り終えれば、着ていた衣服を床に置き浴室へと入る。

 早速シャワーからお湯を出せば、シャワーの音以外何も聞こえない空間になる。

 すると、余計な情報がほとんど無い状態になるためか、蓮の頭には母との喧嘩が思い出される。

 喧嘩の出来事を思い出すと思わず苛立ってしまう蓮だが、最後に母から言われた言葉がフラッシュバックすると、心の中で愚痴ってしまう。


(あんなに……言わなくたって良いじゃん)


 と。

 どうやら、喧嘩の時に言われた母の言葉が蓮の心に深く刺さっているようだ。

 母と衝突することは多々あった。それこそ、今回よりも酷い喧嘩なんて何度もしたこがある。それでも、母から『姿を見せんな』と拒絶されるようなことはいままで言われたことはなかった。

 そのせいもあってか、「あそこまで言わせてしまうことを自分は言ったのだろうか」と蓮は自問自答を繰り返してしまう。


 けれど、いくら繰り返しても問題が解決するわけではない。

 身体を綺麗にした蓮はシャワーを止めて一度考えることを放棄するが、心にわだかまりが出来てしまう。


 気にしないようにするためにも、浴室からでてタオルで髪と身体を拭き、祐二が用意してくれたであろう寝間着を着れば、蓮は首にタオルを掛けて早々に祐二がいるであろうリビングに向かう。

 リビングに行けば案の定、祐二がソファの上で仰向けになってスマホをいじっていた。蓮は祐二を目で捉えると、その姿に言葉を投げかける。


「上がった、次いつでもどーぞ」

「はーい……あ。そういえば、洗濯物はどうすんだ?」

「……ごめん、なんか袋ちょうだい」

「ほーいよ」


 祐二はそう答えると、ソファから身体を起こし、袋を適当に見繕うと祐二の方に渡す。


「ありがと」

「いーえー……って、なんか落ち込んでんじゃん。何、シャンプー合わなかった?」

「はっ!?」


 普段通りに言ったつもりだった蓮だが、祐二の言葉にびくりと肩を揺らす。――そこまで自分の態度はわかりやすいのか、と。

 一瞬だけたじろいだ蓮だが、顔を背けて慌てて何事もないように取り繕う。


「別に落ち込んでねぇよ」

「え~?ホント?」

 

 けれど、蓮の可笑しな態度を見た祐二はなおのこと気になるのか、ニヤニヤとした様子で蓮に話し続ける。


「隠さないで祐二様に何でも話してみろよ~」

「やめろってば。隠すも何も落ち込んでねぇって!」

「はいはい~言いたくなったらいつでもどーぞ?」


 ニヤニヤと軽くあしらわれてしまうことに、蓮はほんの少しだけ苛立ったが、祐二は気にする様子もなくそのまま言葉を続ける。


「んじゃ、俺もシャワー入るわ」

「……ん」

「冷蔵庫は好きに開けて良いし、テレビもゲームも好きにしてて~」


 祐二はそう言い残すと、リビングから出て行く。

 リビングに一人残った蓮は、特にすることもないのでソファに座ってテレビをつける。

 たまたまついた番組は音楽番組。蓮は、特にこれと言った好きなアーティストはいない。見る必要性も特になが、他に見たい番組もないので、黙ってそのまま見る。

 司会者に言われるがまま、アーティストが自分の曲を歌い、次のアーティストへとバトンタッチされる。

 あまり興味が惹かれるような曲が流れず、蓮は少しずつ瞼が重くなる。すると、まるでタイミングを見計らったように、落ち着いた曲が流れ始めてしまう。

 

(あー……うん、祐二が戻るまで)


 その曲を聞いた蓮は、そう決めるとゆっくりと目を瞑り意識を手放すのであった。



 

時間がある時に直させていただきます

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