11.5
今回はみふゆ達のお話の続きです。
(今回の少数点は全部蓮の話にしようと思いましたが、時系列的にはこうなので……)
零と一緒にリビングに向かった私は、すぐさま冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の中には食材が入っていないわけではないが、蓮の好きな料理を作るための材料がない。
私は少し悩んだ末、零に問いかける。
「零、車出してもらえたりする……?」
「もちろんいいよ」
「! ありがとう!」
断られる可能性も考慮したが、零は快く引き受けてくれる。
早速鞄の中に財布を入れたりと外に出られる準備をするが、ふと疑問に思ったことを口に出す。
「……そういえば、蓮は外出したみたいだけど、いつ帰ってくるの?家の鍵は持っていった?」
「あー……家の鍵は持ってってないかも。それと、今日は友達のところに泊まるって言ってたから明日帰ってくるよ」
「へー……えっ」
「えっ?何か、問題あった?」
一瞬聞き流すところだったが、私は零の言葉を理解すると思わず鞄を落としてしまう。
私が鞄を落とすと、零は不思議そうな顔で「みふゆ?大丈夫?」と聞きながらも落とした鞄を拾ってくれる。
けれど、私はそれどころではない。
――だって話合いも終わってないのに友達の家にって……そんなわけないよね。ましてや、残された時間も少ないって言っているのに……ね?
そう思った私は零から「ありがとう」と鞄を受け取りながら、自分の聞き間違えかもしれなかった言葉を今一度聞き返す。
「……今、蓮は友達のところに泊まりに行ったって……言った?」
「うん」
「えっ」
「えっ、何かまずかった?」
「……まずくは、なくもなくもない……?」
「どっちさ」
私の答えに零は苦笑するが私は肩を落としてしまう。
(せめて話合いが終わってから友達の家に行ってよ……)
私は一つため息をつき、蓮に「明日何時に帰ってくるの」と確認するため、スマホを取り出す。メッセージだけでもいいかと思ったが、もしかしたら喧嘩したことでメッセージを見ない可能性を考慮し蓮の番号に電話をかける。
すると――。
――~♪~♫
「……」
「二階から音が鳴ってるね」
うっすらとテンポの良い音楽がどこからか聞こえたと思えば、零が音の鳴っている所を教えてくれる。
私は零が教えてくれた二階へと急いで上がる。二階まであがれば、先程よりも大きく蓮のスマホの着信音が聞こえる。
音のする方へ向かえば、そこは蓮の部屋。そっと部屋を開ければ、買った覚えがなければ見たことのない鞄がぽつんと置いてある。不思議に思いながらもその鞄を持ち上げれば、蓮のスマホの着信音が近くなる。勝手に開けるのは気が引けたが、確かめるためにも鞄を開けるとそこには――。
「……嘘でしょ。スマホ置いてったの…?」
蓮のスマホがしっかりと入ってあった。
私がそう言うと、後ろからついてきてた零が驚いた様に反応する。
「蓮、スマホも持ってってないんだ」
「零……って、財布もあるじゃん!?え、あの子どうやって行ったの!?」
零に「どうしよう~」と言おうと思ったが、鞄をよく見ればスマホの他に、財布とよく分からないガラス玉みたいもの、それと分厚い本が入ってあった。
ガラス玉みたいなのと分厚い本についてはひとまず置いとくとして、財布がココにあるということは、スマホも財布も持たずに蓮は手ぶらで外に出たということになる。その事実には流石の私は驚いてしまう。
スマホも財布もなく外にいるのはいくら喧嘩したとは言え可哀想に思えてしまい慌ててしまうが、零がそんな私を落ち着かせるように口を開く。
「蓮には僕からお金渡しといたから安心して」
「あっ、そうなの……よかった」
零の言葉に私は安堵する。
とは言え、蓮がお金を持って外出したのはいいが、スマホを持っていないということはこちらから連絡を取るのは不可能ということだ。
いつ帰ってくるのか完全にわからない。その事実に、またしても肩を落としてしまう。
そして、沈んだ気持ちのせいか、残されたスマホと財布を見て思わず私はこう考えた。
(……もしかして、明日も帰ってこないつもりじゃ……)
最悪なことが頭をよぎり、思わず頭が痛くなる。
スマホは現代っ子の蓮にとっては友人と連絡を取る上で必需品。それなのにも関わらず、置いていったということは、私からの連絡を嫌がっているという意志表示かつ、明後日の異世界に行くギリギリまで家に帰らないという蓮なりの表現なのではないかと思ったからだ。
流石にそこまではないだろう、と思いたいところだが、絶対にないとは言い切れずどうしようもない不安に襲われる。
「……どうしよう」
思わず私がぽつりとそう呟くと、零がぽんっと肩に手を置く。
「っ!」
「みふゆ、何か変なこと考えてない?大丈夫だよ、蓮は明日帰ってくるよ」
「……ほんと?」
私の考えていることがお見通しなのか、零は私の不安を拭うように答える。
「うん。蓮が家を出るときにちゃんと聞いたから。大丈夫だよ」
「……そっか」
零の言葉に私は頷くが、不安が拭えず視線を落としてしまう。
そんな私の様子に零は困ったようなため息をつくと、私の頬を掴み顔を上げさせる。すると、自然と零と目が合う。
「そんなしょげないで。ほら、これから蓮のために料理作ろうと思ってたんでしょ?今日は食べてもらえないけど、明日はきっと食べてくるんだから、早く食材を買いに行こう。ね?」
真っ直ぐ私を見つめてくる零の目を離さずに見つめていれば、むぎゅっと痛くない強さで頬をつままれれば私は「ふぁい」と返事をする。そして、自分の中で気持ちを整理する。
(……そうだよなぁ……今しょげてても仕方ないよね。とりあえず、明日帰ってくるであろう蓮のために、料理を作っておこう。それに――)
――彩葉も瀬斗も、明日には帰ってくるかもしれない。
そう気持ちを整理した私は頬にある零の手を取り、「よし、行こう!」と張り切るのであった。
次からは少数点が終わるまでは蓮の話です。




