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11.2~蓮の話~



「――っ、はい、俺の勝ち!お前の奢り~いぇ~い」

「っ、くそっ!」


 ニッっと嬉しそうに笑うのは祐二で、悔しそうに息を切らしているのは蓮。二人は今、馴染みのあるラーメン屋の前に着いていた。

 やはりスタートが肝心だったようで、競争の結果は――見事祐二が勝利した。しかし、そもそもスタートの差があったことから思わず蓮には祐二に反論する。


「つか、俺奢るなんて言ってねーし!」

「負け犬の遠吠えは結構でーす」


 祐二は軽やかに蓮の言葉を受け流すと一切の迷いなく店の引き戸に手をかける。

  

 ――ガラガラ。


「らっしゃせー」


 祐二が引き戸を引けば、店主は音に反応するかのように声を出す。祐二が「おら、早く」とせかしてくるため、蓮も渋々後に着いていく。

 店に入るが、馴染みのラーメン屋はいつもと変わらない。

 祐二は蓮も入ったことを確認すると、店主がこちらを向く前に声をかける。

 

「親父さん~いつもの二つ~!」


 夕飯にしては少し早い時間のせいか、店内の客は少ない。

 裕二がいつもと同じように気さくに注文すれば、店主がこちらを向き目が合う。

 店主は席に案内する前に注文をされたことに少し不思議なそうな表情をしていたが、二人と目が合うと嬉しそうに笑った。

 

「おぉ!祐二、それに蓮!いらっしゃい!蓮は久しぶりだな!っと、注文はいつものでいいんだな?……味玉は?」

「それもお願~い!俺は二つ!蓮は?」

「俺は一つでお願いします」

「はいよ、好きに座って待ってな」

「はーい。……あっ!親父さん!俺のやつ、チャーシュー追加で!」

「あいよ」


 祐二の気ままさに店主は苦笑いをしながら注文を受け取ると、裕二と蓮にお冷を出し厨房の中へと戻っていく。

 蓮たちが座った場所は、カウンターではなく小上がりの席。いつもは率先して祐二がカウンターへと進むのだが、今日は珍しく小上がりの方へと座った。

 蓮は「珍しいな」と思ったが口にはしなかった。特に聞く必要もなかったからだ。

 二人で向かい合うように座ると、祐二はお冷やを口にしながら蓮に問いかける。


「で?喧嘩の原因は?」

「……だから小上がり選んだのか」

「うん。え?親父さんも交えて話しちゃう?俺はいいけど……」

「いいわけないだろう」

「いてっ、たたく事無いだろ~!」


 ふざけた感じで言ってくる祐二の頭を、蓮は軽くはたいてしまう。

 たいして痛くも無いはずなのに痛がっている祐二の姿に、蓮の手がまたしても伸びかけていたのは内緒だ。

 

 頭をさする祐二と蓮の間には、しばらくの間、無言が生じる。

 どうやら祐二は蓮が喋るまでは喋らないでいるつもりらしい。じっと蓮のことを見つめていた。

 蓮はしばし無言を貫くことを考えたが、祐二の視線に耐えきれずに口を開く。


「…………海外、でやりたいことを見つけたから、ゆくゆくは永住したいって言ったら……喧嘩になった」

「海外!?え?!お前、英語出来ないのに!?」

 

 親と喧嘩したことを正直に話すとなると、色々とややこしくなると考えた蓮は、異世界を”海外”に置き換えて話す事にした。

 しかし、その話には流石の祐二も驚いた。なぜなら、蓮は英語力が無いのに”海外の移住を視野にしている”ことを知ったからだ。あまりにも唐突かつ、意外すぎて思わず「嘘か?」と言いたくなっていた祐二は疑いの目を向ける。

 祐二の視線に蓮慌てながらも、急いで言葉を続ける。

 

「そ、それは今どうでもいいだろ?!それに、行きたいところ英語圏じゃねぇし!」

「はぁ!?共通言語も出来ねぇやつが何を言ってるんだよ!?」

「あー!もう、言語はいいの!どうにかすっから!」

「どうにかって……まぁ、いいけどさ?」


 あまりにも計画性がない話に祐二は「そりゃあ、ご両親も反対するでしょーよ」と思ったが、それを口に出せば話さなくなってしまうと考え、それ以上突っ込まず次の質問へと移る。


「つっても、まだ先の話なんだろ?もう少し話し合えば?」

「いや、それが……明後日から、行こうかなって」

「あーはいはい。明後日……明後日!?えっ!?」


 まるで、「明日出かけてくるわ」みたいに言ってくる蓮に一度は聞き流そうとした祐二だったが、流石に聞き流すことが出来ない単語が出てきて祐二は思わず大きな声で聞き返してしまった。

 しかし、今はラーメン屋。お客が少ないとはいえ、祐二の大きな声に店内にいる人達がこちらに視線をやる。

 それには流石の蓮も慌てて祐二の口を手で塞ぐ。


「おまっ、お客さん少ないからってそんなに大きな声で喋るなよ!迷惑だろ!……すいません」


 蓮は祐二を軽く叱りながらも、店内にいる人達に向かって軽く回頭を下げていた。

 有り難いことに、うるさくした蓮たちを叱る人は居なかったようで、皆興味を失ったのか蓮たちから視線を外した。


「ぷはっ、悪い悪い」

「…………まじで気をつけろよな、ったく」


 祐二の口元から手を離せば申し訳なさそうに謝れ、蓮は渋々許す形となる。本来ならもう少し小言を言ったりするのだが、それをやってしまうと、また祐二の声でうるさくしてしまう可能性があったため蓮は何も言わなかった。


 祐二は気を取り直して「ゴホン」っと咳を一つすると、首をかしげる。


「でもよ。いくらなんでも急すぎねぇ?パスポート……は来ないだ俺と行ったときに作ってたからいいとして……海外に家とかあんの?」

「……住むところ、なら」

「まじかよ!?……え、ホームステイ的な?」

「……そんな感じ?」

「……ふーん?」


 何だか煮え切らない蓮の態度に、段々と祐二は疑いの目を向けてくる。

 蓮の発言の信憑性を調べるために祐二が再び口を開こうとした瞬間――。


「はいよ、お待ち!」

「「!」」


 二人の前にドンっと、ラーメンが置かれる。

 どうやら、ラーメンが出来上がったようだ。

 蓮も祐二もラーメンを運んできてくれた店主に話を一度やめ、それぞれ「ありがとうございまーす」「ありがとうございます」と口にすれば、今度は店主が口を開く。


「はいはい。流石に食ってる間は静かにしろよ?特に祐二」

「あはは……すいません」

「……すみません」


 先程の声は店主にまでも聞こえたようで、二人はうなだれる。

 店主はそんな素直な反応を見せる二人を見て小さく笑うと、「ちょっと待ってろ」と言って厨房の方へと戻っていく。

 蓮と祐二はお互いに顔を見合わせるが、しばらくすると店主が半炒飯(はんちゃーはん)を持ってきた。


「はい、これは俺から。蓮が久しぶりに顔を見せてくれたオマケ」

「良いんですか親父さん!あざーっす!」

「っ、ありがとうございます!」

「どーいたしまして」


 素直に喜ぶ二人を見て店主は笑うと、伝票を机の上に置いて厨房へと戻っていた。


「やった、親父さんの炒飯うめぇから嬉しー!」

「わかる。めっちゃうまいよな」

「な」


 二人はそう言うと何か言うまでもなくお互い箸に手を伸ばし、頷き合う。


「「いただきます」」

 

 どうやら話よりも先にラーメンと炒飯を食べることにしたらしい――。

 

 

添削が甘い気がするので、後ほど直す可能性があります。

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