ろくに頭も使えないような貴様との婚約など破棄する!と言われた。どいつもこいつも頭使え頭使えってうるさいんだよ!そんなに使ってほしいなら使ってやるわおらぁぁぁーーー!!
家紋武範様主催『知略企画』参加作品です。
知略です。
知略ですとも。
はい、すいません。
「ジュリエッタ。
おまえはもう少し頭を使いなさい」
「ジュリエッタ様。
考えるのです。
もう少し頭を使っていかないと、貴族社会では生きていけませんよ」
「ジュリエッタ、頭を……」
「頭……」
「頭を使え……」
「ジュリエッタ!
ろくに頭も使えないような貴様との婚約など破棄する!」
「そ、そんな!
カイル王子!
どうして!」
「ふん!
私はいずれ王位を継ぐ者。
その婚約者ということは、いずれは王妃になるのだ。
王妃たるもの、最低限の教養は身に付けておかなければならん。
それなのに、貴様は勉学も出来ず、教養もない。
おまけに正直すぎて駆け引きも出来ない。
そんなことでは、貴族社会、しかも、王族としてなど生きられるものか!」
「ガーン!」
ジュリエッタは王太子であるカイルに婚約破棄を突き付けられ、その場に崩れ落ちる。
夜会の会場内は騒然となり、周囲の貴族たちは2人の行く末を見つめた。
他の国でも、夜会などの公衆の面前で王子が悪役令嬢などに婚約破棄を言い渡すのが流行っているらしく、うちのとこの王子も漏れなく流行りに乗ったのかと、楽しそうに見物する者もいた。
「ほら!
さっさと出ていけ!
ろくに頭も使えない貴様では、どこにも貰い手はいないだろうがな!」
床に崩れ落ち、落ち込むジュリエッタを、しっしっと手で払うカイル王子。
「ふふ、ふふふふふ……」
「なんだ、いきなり笑い出して。
気でも触れたか。
これだからバカは……」
「うるせー!」
「はがっ!」
突然、起き上がって、カイル王子にジャンピング頭突きをくらわせるジュリエッタ。
「どいつもこいつも頭使え頭使えって、お望み通り使ってやるわおらぁぁぁーーー!!」
そう叫んで、王子の顔面にヘッドバットをお見舞いするジュリエッタ。
「がはっ!
ち、ちがっ!
そういうことじゃ……」
「うっせー!
人がおとなしくしときゃ、調子にのりやがって!
おらおらおら!
頭使ってるぞ!
こんやろーがー!」
そして、王子の胸ぐらを掴んで、連続パッチギを決めるジュリエッタ。
「ジュ、ジュリエッタ嬢を止めろ!
王子を助けるんだ!」
「は、はっ!」
突然の事態にぽかんとしていた兵士たちが焦って止めに入る。
「なんだてめーら!
てめーらもあたしに頭使えって言うのか!
なめんなよこらぁ!
くらえ!
超パチキ!」
「「「ぐはぁっ!」」」
だが、兵士たちはジュリエッタの強力な頭突きで次々と倒れていく。
「ふっふっふ。
情けないな、おまえら」
「あっ!
警備隊長!」
「さあ、ジュリエッタ嬢。
お戯れはその辺で……」
「うっせえぼけー!」
「ぐはっ!」
「やれやれ、まさか俺たちが出ないといけないとはな」
「あっ!
王国最強の四天王!」
「誰だテメーら!
おらぁ!」
「「「「ぎゃぼふぅ!」」」」
「よ、4人同時に……」
これだけの人数を相手取ったにも関わらず、ジュリエッタは汗1つかいていなかった。
「はっ!
これがおまえらがバカにしてきた女の頭だ!
ナメんな!
だがな!
望み通り出てってやるよ!
どっか他の国で、この頭を使って天下取ってやんかんな!」
「ま、待て……」
そう言って立ち去ろうとするジュリエッタを、よろよろと立ち上がったカイルが呼び止めた。
「ああん?
まだ立てたのかよ?」
その王子を睨み付けるジュリエッタ。
「ジュリエッタ。
それが君の本当の姿だったのか……」
カイルがぼろぼろの体を引きずりながら、ジュリエッタに近付く。
「そーだよ!
王子の婚約者だからって、私なりに考えて、今までおとなしくしてやってたんだ!
でも、もう我慢しねえ!
あたしはあたしのやりたいようにやるのさ!」
「ああ、ジュリエッタ……」
胸を張るジュリエッタに、カイルはさらによろよろと近付こうとする。
「なんだぁ?
まだあたしの頭突きが足りないのか!
おらぁ!」
「ぐはぁっ!」
ジュリエッタに再び頭突きをお見舞いされ、吹き飛ぶカイル。
しかし、カイルはめげずにジュリエッタに近付こうとする。
「……いい」
「はっ?」
ぶつぶつと呟きながらジュリエッタに近付くカイル。
「ち、近寄んじゃねえ!」
「ぶわっほい!」
そして、笑顔で吹き飛ばされるカイル。
「も、もっとだ」
「な、なんだおまえ、気持ち悪いんだよ!
おらぁぁぁーーー!!」
「ぐわっほい!」
そして、今度は吹き飛ばされることなく、その場に留まるカイル。
「もっとくれ!
もっとド突いてくれ!
なじってくれ!
蔑んでくれー!」
「うわぁー!
近付くな、気色悪~い!
おらおらおら!
おらぁぁぁーーー!!」
「ぐふ、ぐふ、ぐふ。
ありがとうございま~す!」
そして、笑顔で吹き飛んでいくカイル。
どうやら、彼の中で新たな扉が開いてしまったようだ。
「ふふふ、もっと、もっとだ。
君の頭突きは素晴らしい!
婚約破棄の話はなしだ!
ぜひとも、私の妃に!」
「あ、あたしの超パチキをくらって、まだ動けるだと!?」
ずりずりと地べたを這いずりながら寄ってくるホラーなカイルに、さすがのジュリエッタも疲労を感じ始めていた。
「く、来るな、やめろ!
あたしは、怒られはしても、褒められるのには慣れてないんだよ!
わかった!
私の負けだよ!
おとなしくあんたの婚約者に戻るから!」
「ぐふ、ぐふふふふ。
ジュリエッタぁ~!」
「いやぁ~!!」
そうして、ジュリエッタは無事に婚約者に返り咲いた。
その後、カイルは王位を継ぎ、ジュリエッタは王妃となった。
そして、カイル王の治世が始まって数年。
「いやー、夜会であんな醜態を晒したカイル王子が王になって、一時はどうなるかと思ったが、ジュリエッタ様がお側についてからは凄かったな」
「ああ、カイル王は人が変わったように素晴らしい治世を行っておられる」
街で2人の男が話している。
「お~!
おまえら!
元気にやってるかぁ!」
「「あ!ジュリエッタ王妃!」」
そこに、ジュリエッタがラフな格好でふらりと現れる。
「今日はどちらに?」
男が尋ねると、ジュリエッタは先にある屋敷を顎でくいっと指し示す。
「あそこのクソ伯爵がよ~。
国の金を懐に入れてるらしいからよ、ちょっとシメに行くんだわ」
そう言うジュリエッタの顔は般若の形相をしていた。
「そ、それは、恐れ知らずな輩がいるんですな」
「ジュリエッタ王妃。
こ、殺してはダメですよ」
そんなジュリエッタを見た男たちは怯えた顔をしていた。
「おう、当然だ。
きっちり生かすから心配すんな!
じゃあな!」
そう言って、ジュリエッタは颯爽と屋敷に消えていった。
「……あそこの伯爵、終わったな」
「ああ、この国で不正なんてするもんじゃないぜ」
男たちは遠い目でジュリエッタを見送っていた。
「おらぁ!
伯爵はいるかぁ!」
「なっ!
お、王妃様っ!?」
突然、執務室のドアを蹴破って現れたジュリエッタに怯える、ぽっちゃりとした伯爵。
「てめえ!
国の金を着服してんだろ!
ネタはあがってんだよ!」
「ひっ!
い、いや、あの……」
「言い訳すんのか!
おらぁっ!」
「ぐはぁっ!」
そして、ジュリエッタの頭突きで崩れ落ちる伯爵。
「だ、大地も割る王妃様の頭突きを……」
様子を見ていたメイドたちが痛そうな顔をする。
「てめえ、良い度胸してんなぁ、ああ!?」
「も、申し訳……」
胸ぐらを掴まれた伯爵は何とか謝罪の言葉を絞り出そうとしていた。
「いいか。
あたしの目の黒いうちは、国と王を害することは許さねえ。
これからは心を入れ替えて真面目に働け。
じゃねえと、あたしがまた来るからな。
いいな!」
「は、はいぃぃぃ!」
「おめえらもだぞ!」
「「「「「はい!!!」」」」」
ジュリエッタに言われ、精一杯返事を返す伯爵と使用人たちだった。
「ジュリエッタぁ~!
また私以外の男に頭突きをしたのか~!
ずるいぞ~!」
城に戻ったジュリエッタの懐にごろにゃんと転がり込むカイル王。
「はっ!
あんなん、頭突きのうちに入りゃしない!
あ、あたしの本気の超パチキを受けられるのはあんたぐらいだよ!」
そして、顔を赤くして、そっぽを向くジュリエッタ。
「ツンもいいが、デレもいい~!」
「気持ち悪いんだよ!
おらぁっ!」
「ありがとうございま~す!!」
のちに、彼らは歴史に名を残すことになる。
平和な国の礎を築いた名君。
『変態ドM王と、超パチキ王妃』
として。
ジュリエッタ(ひだまりのねこ様作)