5.正体不明のモヤモヤ
スマホを握りしめて待つのは……。
あの日から私は毎日スマホを握りしめて過ごしていた。通知音が鳴るとすぐにメッセージを確認した。まるで学生時代に戻ったような気分だった。
丸山先生と戸田っちには感じない何かを、一之瀬くんには確かに感じていた。でもそれはただ単に、自分と感覚の似た貴重な存在だからだと、自分に言い聞かせていた。
ピロリン♪
私はすぐメッセージを確認する。
『次の週末、日本の鉱石展行かない?』
戸田っちからだった。日本の鉱石展……戸田っちぽいなぁ。特に断る理由も無かったので、
『いいよー』
と返信した。一之瀬くんからじゃなかったなぁ、と少し残念に思っていたことに自分でびっくりしていた。なぜなら、いつも戸田っちから連絡が来ると、ちょっとニヤけてしまうくらい嬉しいと感じていたからだ。
ピロリン♪
戸田っちからの返信かな、とスマホを手に取る。
「!!!!」
メッセージを見て私は声にならない声を上げてしまった。心臓がドキドキうるさい。もう一度ゆっくりメッセージを確認する。
『一之瀬です。来週から公開のこの映画気になってるんですけど、見に行きませんか?』
メッセージと一緒に予告ムービーのURLが貼られていた。
私はメッセージを一文字一文字噛み締めるように何度も読んで、予告ムービーも何度も見た。すぐに返信しそうになったけど、あんまり返信が早かったらすごい待ち構えてたみたいで気持ち悪いって思われるかもしれない……と思って、グッと堪えた。
こんなに文章一つ、絵文字一つに悩みながらメッセージを打ったのはいつぶりだろう。私はどうにかメッセージを完成させて、15分置いて、そしてやっと送信した。
そして週末。今日は戸田っちと鉱石展に行く日だ。一応人とお出かけだし、ちゃんとメイクして、ちゃんと髪の毛をセットして、待ち合わせ場所に向かった。
「よっ」
すでに戸田っちは待ち合わせ場所に到着していた。
「ごめん、待った……??」
「んーん、さっき来たとこ」
「良かったぁ」
心の中で「なんか付き合ってるみたい」って思った。はたから見たらカップルに見えるかもな、なんて考えたけど、そんなに心は踊らなかった。
「ねぇ河本、その服初めて見た」
「最近買ったやつなの」
「ダボっと感がいいね、似合ってる」
「あ、ありがとう……」
さすがにキュンとしてしまった。戸田っちに片想いしていた大学の頃の私が聞いたら倒れるレベルだ。
戸田っちは数少ない心開いた人間には、かなり距離が近くなる。そして優しくなる。これが本来の戸田っちなのだ。やっぱり戸田っちは猫だ、と私は思った。
鉱石展の会場に向かっていると、すごく雰囲気の良いカフェが目に入った。今度行ってみようかな、と考えていると、窓際の席に座っていた人とバチっと目が合った。
世界が一瞬止まったように感じた。目が合ったのは一之瀬くんだった。そして隣の席には可愛らしい女の子が座っていた。
「どうした?」
道のど真ん中でフリーズしていた私に戸田っちが声をかけた。私の様子がおかしいと思ったのか、
「おーい」
と言いながら、顔を覗き込まれた。
「あっ、ごめん」
「大丈夫?」
「うん、ごめんね」
「じゃあ行くぞー」
私は歩き始めた戸田っちに急いで付いて行った。最後にもう一度一之瀬くんの方を見たら、少し苦しそうな表情をしていた。たぶん今私も同じような表情しているなぁ、と思った。一之瀬くんが女の子といたことにかなりショックを受けていた。
そのあとの鉱石展がどうだったか、戸田っちと何を話したか、正直何も覚えていない。気がつけば家に帰ってきていた。
なんとなく一之瀬くんとの今までのメッセージのやり取りを見返す。何度見返したか分からないメッセージは、ただの文字の羅列に見え、頭の中は昼間見た光景でいっぱいになっていた。
なんでこんなにモヤモヤしているのか自分でも分からない。それがさらにモヤモヤを加速させた。
一之瀬くんを見かけた日以降、一之瀬くんからメッセージが送られてくることはなかった。もちろん私からも送っていない。
やり取りはしていなかったけれど、縁を切ろうとかそういうのではなかった。映画を見に行く日もすでに決めていたので、見に行く前日にはもちろんメッセージを送るつもりだった。
でも、このモヤモヤの正体がはっきりしないことには、気軽にメッセージを送れなかった。
こんなときは仕事に打ち込むのが一番だ。塾長には授業増やしてくださいって頼んだので、いつも以上に忙しく過ごしていた。
「あっそうだ、河本先生」
塾長に声をかけられた。
「はい、なんでしょう」
「新しく河本先生に担当してほしい生徒がいて、覚えていますかね、前に……」
ガチャ
「おっ、噂をしてたら……こんにちは」
塾長は私の方を見て改めて彼を紹介する。
「今日から河本先生に担当していただく一之瀬くんです。お母様からなるべく早く入塾したいと昨日ご連絡があって、今日面談してからすぐ授業受け持ってもらいます。よろしくお願いしますね」
こうして気持ちの整理ができていないまま、一之瀬くんが正式に私の生徒となった。
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