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1.優しくて穏やかで物足りない彼氏

かっこかわいい男の子が好きで、始めました!

これからよろしくお願いいたします!

 「この人しかいない」と思えるほど盲目的な恋をしたのは一体何年前になるんだろう。そんなことをぼーっと考えていた。


「……先生? 河本先生??」

「え……?」

「問題解き終わりました! 先生が上の空なんて珍しいですねー」

「あぁ、ごめんね。今から採点するね」


 完全に今、国語の授業中であることを忘れていた……。私は頭を切り替えて、ひたすら赤ペンを走らせる。


 今、私が採点している課題は、夏目漱石の『こゝろ』。親友を裏切って自分の恋を成就させた男が出てくる物語。裏切られた親友は自殺してしまい、この男はその罪悪感に苦しみ、自身も最後は自殺をしてしまう。


 正直、そこまで恋に一生懸命になれるのは少し羨ましい。でも、私は恋に振り回されて人生めちゃくちゃになるなんてまっぴらごめんだ。

 「この恋のためなら全てを犠牲にできる……!」なんて、今年25歳を迎える私にはとてもじゃないけど思えない。安定した平穏な毎日。それが一番。言い換えると、退屈で刺激のない毎日とも言えるけど……それがどうした、全然オッケー。


「すごい! 全問正解だよ! これなら来週のテストもバッチリだね」

「良かったぁ……来週のテストで10位以内に入れたら、丸山先生がご褒美くれるって言うから頑張っちゃった!」

「この調子なら10位以内も狙えると思うよ」

「本当!? どうせしょうもないご褒美だと思うけど頑張るよー。あ、丸山先生の話してたのは、みんなには内緒にして!」

「はいはい」


 今話に出てきた丸山先生っていうのは、私の2つ年上の先輩、丸山悠真さん。私の働く個別指導塾の先輩で生徒たちからそこそこ人気のある先生だ。


「河本先生、ちょっといいですか?」

「あ、丸山先生! すぐ行きます」


 噂をすれば……と思いながら丸山先生の元に小走りで向かう。


「前のコマで授業だった田中くんの生徒ファイルで書き漏れがありまして。ここなんですが……」

「あ!! すみません、すぐ書きます」

「あと……今日も授業後、俺の家に来ますか?」

「えっと……今日は先約が……」

「あ! そうでしたね。今日は大学時代の同期とご飯に行くって仰ってましたね」

「明日の授業後は伺わせていただきますね。生徒ファイル書き加えましたので、よろしくお願いします。ご指摘ありがとうございました」

「それでは明日お待ちしてますね」


 丸山先生と私は一年ほど前から付き合っている。塾長はじめ同僚である先生方は知っているのだが、生徒たちは知らない。わざわざ話すようなことでもないからだ。

 丸山先生は、私にはもったいないくらい温厚で包容力のある素敵な彼氏だ。新卒でこの塾に講師として入った私に優しく指導してくれたのが丸山先生だった。距離が縮まるのにそう時間はかからなかった。

 入社して半年経ったある日。授業後、誰も居なくなった教室で丸山先生と二人きりになり、告白された。


「河本先生、好きです。結婚を前提にお付き合いして下さい」


 結婚を前提に、というのには驚いたけど、丸山先生らしいと思ったし、それに驚きより嬉しい気持ちの方が大きかった。丸山先生は気になる存在であり、憧れの先輩でもあったけど……正直「恋焦がれるほど好きか」と聞かれるとNOだった。でも、漠然と「この人といたら幸せになれる」と思い、私たちは交際をスタートさせた。


 そんな丸山先生との交際は順調で、毎日楽しくて幸せで、物足りなかった。付き合う相手としては物足りないのかもしれないけど、結婚相手としては最高だと思い、その辺は考えないようにしていた。それに、一緒にいてこんなに安心できる相手はそうそういないと思っていたので、「別れる」っていう選択肢は私の中にはなかった。


 そんなことをぼんやり考えながら次の授業の準備をしていると、塾長が入口の近くから私に呼びかけてきた。


「河本先生ー! 今日授業をお願いしていた体験の子が来ましたよー!」

「ありがとうございます、すぐ行きます」


 授業の始まる15分前に来るなんてしっかりした子だな、と思いながら私は入口へ向かった。そこに立っていた男の子を見て、私は息を呑んだ。サラサラの髪の毛にクリっとした大きな瞳の色白の美少年だった。思わず見惚れてしまった。


「体験で来た一之瀬です。よろしくお願いします」


 私はハッとしてすぐ挨拶を返す。


「こんにちは。今日授業を担当させてもらう河本です。よろしくね」


 なぜだか分からないけど、胸が騒いだ。そしてこれもなぜだか分からないけど、私の平穏な日々が崩れる予感がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

次回もよろしくお願いいたします!

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