捨 て る ? ― ナヴィドの誤解 ―
先に投稿した二話が総合ポイントが100ptを越え、週間ランキングにまで入っており大喜びしております。
御礼に三作目投稿させていただきます。また、お楽しみいただければ幸いです。
なお、作者は自分へのご褒美として総合ポイントに合わせて130円のチョコ二つ(ホワイトチョコとイチゴチョコ)買って小さな幸せをかみしめております。
冒険者ギルドにて、
「ナヴィド、お前パーティから抜けろ」
「え、やだ」
冒険者パーティ『剛腕』の自称リーダーの戦士ケヴィンが突然僕に追放を命じてきた。
が、なぜこんなこと言い出したのか理解できない。
「とりあえず、理由を説明してみたら? ナヴィドを含む他メンバーを納得させられるほどの理由はあるの?」
弓士のサラが僕のスノーウルフのエルを撫ぜながら聞いてきた。
「正直、理由なんてなさそうな気がしますけど」
回復術士のモニカが僕のアースタイガーのサニーに肉をあげながら呟く。
「獣共が邪魔なんだよ! 獣くせ~し、エサ代たけ~し、そこらに糞尿撒き散らすし迷惑なんだよ!」
「獣って、君のこと? 確かに常識知らず、かつ恥知らずな行動が多々見られるけど」
「「「ぶふぉっ」」」
魔術師のソアラが僕のスカイホークのマイクに水をやりながら正直なコメントを呟く。
見物客の皆さん。我慢せず笑いたいときには笑っていいんですよ?
「ちげ~よ! 犬やら猫やら鳥やらトカゲやら、お前がテイムしてんの他にもいるだろ!」
ええ、まぁ他にもいますが、ちゃんと種族も言えないんですかね? うちの子結構お怒りなんですけど。あぁ皆落ち着いてね。
「そんな獣と一緒に冒険なんてやってられっか! んなわけで、追放だ!」
「何言ってんだこいつ?」
剣士のマリーが僕のプチドラゴンのジュリーの喉を撫でながら本当に分からないと言った感じで顎に手を添え首をひねる。
僕がテイムしている子たちも一緒に首ひねっている。顎に手(一部翼)を添えるところまで合わせてきましたか……日に日に真似がうまくなってますね。
ああ、見物客のお嬢さんたち、歓声あげるのはOKだし宿のごはん分け与えてくれるのはありがたいが、スノーウルフのエルに玉ねぎ使った料理は止めて! この子には毒だから!
この携帯食なら食べさせていいから。一本三百Gね。はい、毎度!
「獣臭いって言うけど、君の体臭の方がよほど臭いよ。いつ水浴びした? 記憶では一週間以上水浴びしていないはずだよね?」
僕の発言にケヴィンの近くにいた冒険者は一斉に離れていきます。
「後、腋の下や股間とかちゃんと洗わないと匂いきつくなるって前も言ったよね? 特に君の場合、娼館でよく遊んでいるからちゃんと薬草浸した水できれいにしないと病気になっちゃうよ?」
他のパーティメンバーもうなずいてくれてるが、皆ケヴィンの下半身事情知ってるの? あ、バレバレですか、そうですか。
ああ、見物客のお兄さんたち、スカイホークのマイクにお酒与えようとしない!
この浄化水なら飲ませていいから。一本二百Gね。二本買ってくれるって? いや、これはどうも、今後ともご贔屓に。
「エサ代については、以前僕が全て持つって話になったでしょ? パーティの予算を僕のテイムした子たちのエサ代に使うことはないよ」
結構昔から自腹なんだけど、忘れちゃったのかな?
「それより君が別のパーティの……確かシンディちゃんだっけ? に奢った代金をなぜパーティの予算で払おうとするの? ついでにその後の連れ込み宿の代金も予算から出そうとするのはなぜ?」
周りの皆さん、笑うならちゃんと笑った方がいいよ。ものすごく肩揺れてるし。
パーティメンバーは……あ、既にご存知? なになに? ケヴィンが夜に長時間働けない(意味深)のでシンディちゃんにフラれた? あらあら。
ああ、店員のお嬢さん、アースタイガーのサニーに抱きついてクンカクンカしたい?
構いませんよ。ああ、他の人も? 一人一回三分までとします。喧嘩しないで順番守ってね。モニカ、時間チェックよろしく。
「そこらに糞尿撒き散らす? 確か、十日ほど前に泥酔した後、宿屋のケヴィンの部屋で『そ~れ、トリプルアクセル~』とか言いながら床や壁にばらまいて、そこの宿屋から追い出されたでしょ? 後で僕たちであの宿屋に謝罪してきたけど、君出入り禁止になったじゃん」
周りのお客さんもドン引きしてるし。
パーティメンバーは……ああ、気持ちはわかる。なんでこいつのやらかしに我々が頭下げなければならないんだ、でしょ? でも、パーティ自体の悪名としてはいけないということは皆で納得したよね?
あれ、ギルドマスターさん、事前に伝えたでしょ? こいつに酒飲ますなって。普段はまあトイレの場所わかってるはずだけど、酔うと……ね?
ああ、そんな悲しまないで。飲ませなければたぶん大丈夫なはずだから。
ほら、プチドラゴンのジュリー撫ぜていいですから。すまんジュリー、ちょっと激しく撫ぜられてくれ。後でドラゴン用のお菓子、普段の倍あげるから。
「う、うるせ~んだよ! リーダーたる俺が決めたんだ、ナヴィドは追放だ!」
「はぁ……なら、それでもいいけど、明日ね」
「は? 今追放するって言ったろ? なに馬鹿な『馬鹿はどっちだ』……なに?」
……こいつ、本当に馬鹿すぎ。
「まず、冒険者ギルドの受付は六時から十八時だ。今の時間は?」
「……二十時」
「そう、既に時間外なの。だからいくら騒いでもギルドはパーティ変更は受け付けていません。なので、明日って言ってるの。理解した?」
「あ、はい」
「んじゃ、明日六時に集合ね。エル、マイク、サニー、ジュリー、帰るよ」
「わふっ」「……(ばさっ)」「ぐるぅ」「あぎゃ」
まだ飲むつもりみたいだけど、あいつ来れるのかねぇ。
明けて次の日六時。
「まぁ、予想通りではあるけどねぇ……」
「きゅ~ん」
ケヴィン以外の皆が集合しているんだけどねぇ。
「サラ、モニカ、ソアラ、マリー、食事でもしない?」
「ああ、そうだな。ジュリーたちも腹減るだろうし……」
「あぎゃぁ」
それから待つこと五時間。
「おぅ、ちょっと遅れちまっ……た……な……すまん」
メンバーとうちの子たちが一緒になって絶対零度の視線で見てやったら、流石に悪いと思ったのか謝罪をしてきた。
「まあ、期待してないし……んじゃ、さっさとパーティ変更しますか」
「ああ、やっておけ」
「は?」
ケヴィンから受付さんへの依頼を押し付けられてしまった。
……お前リーダー言うんだったら、受付とのやりとりくらい自分でやれよ。
「すいません受付さん、パーティメンバー変更したいのですが」
「あら、やっと? じゃ、こちらに記入お願いします。左側に追加・残留、右側に離脱のメンバー名を記入してください。基本自筆でお願いしてますが、代筆必要な方おられます?」
「あ~、ケヴィンの分だけ代筆お願いできますか?」
「かしこまりました。では、ケヴィンさんは左右どちらに?」
その後、僕、サラ、モニカ、ソアラ、マリーの順で記載していく。当然僕は右側に記載した。
「はい、皆さん記入完了してますね。では、ただいまを持ってパーティ名『剛腕』のメンバー変更を受理致します。ナヴィドさん、サラさん、モニカさん、ソアラさん、マリーさん今までお疲れさまでした。ちなみに、皆さんこれからどうされますか?」
……えっ?
「ああ、このメンバーで新規パーティを作るつもりなんだ。作成用紙だけ貰えるかな? パーティ名決めてないんでちょっと考えてから提出するよ」
なんか、マリーが仕切り始めたよ?
「ほら、ナヴィド、さっさと来る」
サラ、えっと、僕もそっち?
「え、むしろどうなさるおつもりだったのですか?」
モニカ、追放ならソロになろうかと。
「諦める。私たちがマイクたちと離れると思ってないでしょ?」
ソアラ、まあ、皆うちの子たちに堕ちてるのは知ってたけど。
「と言うわけで、パーティ名どうするか……」
マリー、真面目な話するのならジュリー撫でるの後で。
「ちょっと待て!」
ケヴィンうるさい。
「いや、何でナヴィド以外もパーティ抜けてるんだよ!」
え、推測もできないの?
「多分だけど、君といるのはもうこりごりと言うだけでは?」
「何でだよ!」
「そりゃあ、君のトリプルアクセル放尿の尻拭いなんて誰がしたがると?」
ブフォ!! ゲホッゲホッ!!
……受付さんたち大丈夫?お茶飲む直前で助かったね。唾液交じりの霧吹いたら喜んで浴びる人出てくるし、ほらそこのオジサンとか。
「まぁ当然だな」
「あんな馬鹿げた行動しでかしてよく偉そうなこと言えたもんだ」
「ほら、羞恥心とかお母さんのお腹の中に置き忘れてきただけかもしれませんし」
「この後『剛腕』に入る気がある人がいるとは思えないけどね。ケヴィンの放尿プレイの後始末が加入条件なんて皆嫌でしょ」
上からマリー、サラ、モニカ、ソアラ。って、モニカとソアラ結構辛辣ですね。
「う、うるさい!」
君がうるさいんだよ、ケヴィン。
「もういい! 犬猫共にほだされてまともな判断力もないお前たちなんか捨ててやる! 追放だ!」
「「「「ほぉ……」」」」
うぁ、終わったこいつ。ああ、うちの子も怒ってるし。
「お前はゴブリン退治の時、皆でエルの嗅覚を使って不意打ち対応すると決め、全員水浴びして臭いを落とすと決めたのを覚えているか?」
「あ、あぁ」
「にも関わらず、水浴びもせず異臭を放ちながら退治に赴き、エルの嗅覚の利点潰すはゴブリンの斥候役に即刻バレるしで無駄な戦闘する羽目になったな?」
「がるるるぅ」
サラの発言にケヴィンは慌て、周囲の冒険者たちは『冗談だろ?』と戸惑う。
エルの反応を見て真実と理解した人もいるみたい。
「あなたは三パーティ合同でのカミル村の熊退治で、熊三匹に出会った時、怯えから逃げ出しましたよね?」
「いや、あの時は」
「あの時あなたの抜けた穴をサニーが全身傷だらけになって熊の前に出て守ってくれました。サニーがいなければわたくしも熊の爪にやられて死んでいたかもしれません」
「いや、その」
「それを逃げたあなたは、さも自分が熊三匹を倒したかのような話を村人に嘯き、他パーティからも白い目で見られたのも忘れたのでしょうか?」
「ぐるぅ」
モニカの発言にケヴィンはうろたえ、他の二パーティの面々は頷き、知らなかった者たちは唖然としている。
ケヴィンが熊三匹倒したと思ってたんだろうから騙されたとしか思えないよね。
サニーが睨み付けてるのでどちらが真実か分かったようだけど。
「君は受付のベティさんからの依頼で娘さんが帰ってこないので探してくれと頼まれたとき、マイクがいち早く空から見つけてくれたのに、信じられないとか言い出して一人で別行動したよね?」
「そりゃ、鳥なんて信じられねぇよ!」
「こっちは川の中州で泣いていた娘さん確保してベティさんに引き渡した後、今度は君を探しに行かなければならなくて門番さんにも同情されちゃったし、君を連れて戻ってきたとき、門番さんに叱られたでしょ? 忘れちゃった?」
「クルゥ~」
ソアラの発言にケヴィンは顔を真っ赤にし、他冒険者の半分はケヴィンを睨み付けている。
なお、他の半分は僕たちに同情の視線を送ってきた。
マイクは『馬鹿は嫌い』とばかりにそっぽ向いている。
「貴様は下位から中位の冒険者に定期的に割り当てられてる下水道の鼠駆除、あれはこの街の冒険者の義務だが、我々が臭い思いをしている間、貴様は毎回さぼって娼館でお楽しみのようだな」
「いや、それは……」
「ああ、貴様がいなくてもジュリーが鼠だろうと蜘蛛だろうとブレスで燃やし尽くしてくれるので正直貴様は不要だ。それと、毎回さぼっているのはギルド側も知っている。我々の評価と貴様の評価は別物として扱ってくれているので、今回のパーティ分割で貴様の評価がどうなるか非常に楽しみだよ」
「あぎゃ!」
マリーの発言にケヴィンは顔を青くして、他冒険者はケヴィンを軽蔑したようだ。
ギルドの職員さんたちはサムズアップしてる。まあ、義務を果たさない冒険者は嫌われて当然だな。
あぁジュリー、怒っているのはわかるけど、ここで火を噴くのは止めて。鎮火させるの大変だから。
4人が一斉に立ち上がり、ケヴィンに一歩一歩近づく。
ざっ
「さて、悪臭撒き散らかし、仕事の邪魔しかせず」
おやケヴィン、何でサラに睨まれて怯えてるんだ?
ざっ
(たゆゆん)
「パーティメンバーの命を軽視し、評価だけは奪い取り」
おやケヴィン、何でモニカに睨まれて顔青くしているんだ?
ざっ
(たゆん)
「無駄な単独行動して、パーティメンバーの仕事を増やし」
おやケヴィン、何でソアラに睨まれてガクガク震えているんだ?
ざっ
「冒険者ギルドの義務を怠り、パーティの金で娼館に行く。そんな貴様が、我々に迷惑しかかけてない貴様が! 我々を……」
おやケヴィン、何でマリーに睨まれて腰抜かしているんだ?
だん×4!
(たゆん)
(たゆゆん)
「「「「 捨 て る ? 」」」」
おやケヴィン、何で四人に睨まれて漏らしているんだ?
これくらい怒られるの覚悟してなかったの?
「馬鹿なことを抜かすな! 貴様が我々を捨てるんじゃない。我々が貴様を捨てるんだ!」
「ふ、ふざけるな! じゃあなぜナヴィドはいいんだ!」
え、分からないの?
「ケヴィン。君は仕事をせず、僕はうちの子たちとパーティの為に働いた。そりゃ彼女たちの評価は違うのは当然だよ」
ケヴィン、なぜそんな驚く?
「それに、僕は君と違って、パーティの金をちょろまかしたり、悪臭まき散らしたり、トリプルアクセル放尿したりしないしね」
「「「「「 ぶ ふ ぉ っ ! 」」」」」
冒険者の皆さん、反応し過ぎ。気持ちはわかるけど。
「ちなみに、君のやらかした結果、君は宿に泊まれないの気づいてる?」
「えっ?」
あれ、知らないの?
「トリプルアクセル放尿の結果、宿屋ギルドでケヴィンを宿泊禁止にしたそうだよ。あぁ、借家も無理だと思うよ。貸した家を小便まみれにしたくないのはどこの大家さんも同じだし」
「う、嘘だ!」
「信じるかはそっちで判断したら? でも宿屋の方は既に張り紙あったし、街中でかなり広まってるみたいだよ。もしかすると近隣の街や村でも情報流れてるかもね」
がっくりしてるけど、この街では暮らせないこと理解しているかな?
路上生活をお望みなら構わないけど。
「ちなみに、君はなぜさっさと『剛腕』から抜けようとしなかったんだい?」
ソアラが聞いてくるが、大きな理由はないんだよなぁ。尻拭いは嫌だし。
強いて言えば『皆がうちの子たちとの別れを嫌がるのが分かっているから』かな。
「あ~」
ソアラが天を仰ぎ、
「これは、わたくしたちの判断ミスですわね……」
モニカも難しい顔してるが、何のこと?
「つまり、お前を引き連れて『剛腕』から抜けるのがベストだったってことだな」
??? ごめんサラ。どういうこと? マリーわかる?
「我々は確かにお前の子たちが大好きだ。離れたくない。だからと言って『剛腕』にいるのが楽しいわけではない。むしろ苦痛だ」
まあ、当然ですね。
「うむ。ただ、ここで二つの選択肢があった。一つ目はナヴィドを攫って別パーティを立ち上げる。二つ目はナヴィドが動かない以上『剛腕』に留まる」
……つまり、僕がどこにいるかで皆の居場所も変わるってこと?
「その通り。そして、ナヴィドがケヴィンと離れようとしなかったので、二つ目を選んだ。ただ、我々とナヴィドとの認識を合わしておけば、さっさと一つ目を実行できたということだな」
つまり、互いに相手の事を考えた挙句、ケヴィンにだけ利がある状態になっていたということ?
「ああ、ナヴィドが我々のことを気にするという考えが抜け落ちていた。自分の意志で、喜んで『剛腕』にいると誤解したのがここまで解散が遅れた原因だな」
それは……僕も考えが足りなかったな。
「ちなみに、冒険者ギルド側は我々が『剛腕』から抜けて別パーティを組みたがっているのを知っている。メンバー変更の時に、『あら、やっと?』なんて言われたろ? あれは離脱方法について色々相談に乗ってもらったからだ」
あぁ、僕たちはギルド側にも色々手間かけさせてしまったんだね。
「まぁ、今後は互いに話し合っておけばよかろう。さぁ、さっさとパーティ名を決めて、登録を済ませよう」
とりあえず、ケヴィンのドタバタも落ち着いたので(なぜか僕が代表で)受付へ。
「すいません。パーティの新規登録お願いします」
「は~い」
「『獣たちの楽園』ですか。よい名前ですね。では頑張ってください」
一応評価情報です。
弓貧剣無
なぜか四字熟語になってますが、言いたいこと伝わりますかね?