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プロローグ

恋姫シリーズの第二弾です。


主人公の郭図さんを始め、一部の登場人物は朱霊伝と関連があるのでこっちは朱霊伝の進み具合によって投稿間隔が非常に遅くなります。

 ~豫州・頴川・陽翟県~



 ここに一人の男がいた。



「良いぞ!やれ!そこだ!」


「ああっ!?クッソ!もっと頑張れよ!?」



 男達の歓声と嘆声、舞い散る赤く染まった羽毛を肴に徳利を傾け、だらしなく地面に寝転がっている。


 まともに手入れもされていないであろうボサボサの頭髪に伸び放題の無精ヒゲが浮浪者を彷彿とさせる。



「あちゃー、今回も負けかな?」



 男も賭けに参加しているのだろうか、徳利を持ったその手には一本の棒切れが一緒に握られていた。




 場末の賭博場。


 そこで行われているのは【闘鶏】と呼ばれる賭け事の一つである。


 クエェェーという断末魔の叫びが響き、壮絶な闘いに終止符が打たれた。


 既に何回も負け越しているのか、男の周囲には真っ二つにへし折られた棒切れが何本も散乱していた。


 そこに新しくへし折られた棒切れが追加される。



「んー、ダメだったかぁ。おっし次だ!」



 先程の賭けに負けたばかりであるというのに男は次なる闘いに銭を投下せんと懐を漁った。


 そこへ、



「よぅ、図の兄貴!また負けたのかい?」



 一人の青年が声を掛けるとその隣にドカリと腰を下ろす。



「んぁ?あー、援か。うむ。さっきので二十四連敗だぜ」



 散乱している折られた棒切れを流し見て男はカラカラと笑う。


 二十四連敗していて笑っていられるこの男は大人物と言えるかもしれない。


 ただ単に馬鹿なだけかもしれないが。



「なぁ兄貴、賭け事をするなとは言わねーけどよ、流石に限度ってモンがあるんじゃねーか?」



 援と呼ばれた青年が苦笑いを浮かべる。


 だがその目が言っていた。『自重しろ』と。



「良いんだよ。オレは負けても楽しいんだから。酒、賭博、そして女!

 人生は一回きりなんだぜ?楽しんだモン勝ちだろうよ」



 苦笑している青年を尻目に懐からだした銭を数え、



「おーい!次はそっちの弱そうなのに頼む!」



 元締めの男に銭を渡そうと手を伸ばす。


 が――、



「ほう?良いご身分ですね従兄どの?」



 の言葉と共にきめ細かい肌をした綺麗な手にガッチリと掴まれていた。



「ゲッ!?その声は――嘉!?」



 男が向けた視線の先には、メガネを掛けた几帳面そうな少女がいた。


 その右手は男の腕をガッチリと掴み、左手でメガネの淵を抑えている。


 キラリと陽の光を反射しているレンズのせいで表情は窺い知れないが、その身に纏う雰囲気が不機嫌である事を雄弁に物語っていた。



「な、なんで嘉がここにいるんだよ……って、まさか援!?」



 慌てて向けた視線の先で青年が視線を逸らし頬を掻いていた。


 どうやらこの青年がメガネ少女を連れて来た様である。



「い、いやぁ、嘉がどうしてもっつーから……」



 言い訳にもならない言葉を零しつつ肩を竦めている。



「お、おま……!」



 自身にとって天敵とも言える少女を連れて来た青年に男が文句の一言でも投げないと気が済まんと口を開くが、



「いったい何をやっておられるのですか従兄どの。こんな事だから郭家の穀潰しなどと言われてしまうのですよ?」



 ピシャリと言い放たれた少女の言葉に男は『うへぇ……』と肩を竦めるしか無かった。


 恐らく自覚があるのだろう。


 先も自分で『酒、賭博、女』と宣っていたくらいだ。



「別に良いじゃねえか。減るもんでもねえし」


「いいえ、確実に郭家の財が無駄に浪費されていますね」


「金は天下の回りものって言うだろ?」


「ご自身で稼ぐようになってから言って下さい」


「稼げる様に頑張ってるって」


「博打で負けると分かっている方にわざと賭けている事が?」


「当たったら大きいだろ?」


「勝った事は?」


「ないよ?」


「……穀潰し」


「返す言葉もねえ」



 唐突に始まった言葉の応酬はどうやらメガネの少女に軍配が上がったようだ。


 男の手に握られていた金はメガネの少女に容赦なく没収されてしまった。


 そもそも男に勝算など始めから無かった。


 どこからどう見てもただのダメ男である。



「で?嘉がこんなトコにまで来てオレになんの用だ?」



 今までの遣り取りはじゃれ合いの範疇だったのか、メガネの少女に金をボッシュートされた男が本題はここからだと言わんばかりに話題を変えた。


 この男の切り替えの早さは少女も知っていたのだろう。


 動じる事も無く男の問いに答える。



「実はそろそろ仕官先を探しに旅に出ようかと思っています」


「あー。もうそんな時期か。いつの間にか嘉も大人になってたんだなぁ……」



 メガネの少女の言葉に男は感慨深そうに嘆息する。



「そっかぁ。嘉は旅に出るのか。小言を言われなくなると思えば嬉しいが、逆に聴き慣れたお前さんの小言が聞けなくなるって思うと少々つまらんな」



 己の天敵とはいえ、見知った顔が減るとなるとそれはそれで寂しいもんだと零した男だったが、



「何を言ってるんですか?従兄どのも一緒に行くんですから」


「…ぅむ?」



 メガネ少女の口から吐き出された言葉に目が点になる。


 何言ってんだコイツと言う様な視線を送る男だったが、



「従兄どののご両親から『アレも連れて行って』とお願いされましたので」



 と、無慈悲な言葉が返って来ただけだった。



「ちなみに拒否権は?」


「あるとでも?」


「…ですよねー」


「さあ援どのも行きますよ」



 クルリと踵を返したメガネ少女がさり気なく援と呼ばれた青年を巻き込んだ。



「え?俺も?」


「……従兄どのを私だけで引っ張って行けるとでも?」


「あー、そりゃ無理だな」



 少女の言葉に納得したらしい青年も男の腕を掴む。



「行こうぜ兄貴。何事も諦めが肝心だ」



 と、力任せに男を引き摺る。



「い、いやだぞ?オレはまだ遊び足りないんだ!!」



 子供の様に駄々を捏ねる男だったが、メガネ少女と青年は馬耳東風。


 男の旅立ちが決定したのだった。



 メガネの少女。


 その名は郭嘉。字は奉考。


 歴史では後に曹操に仕え、名軍師の一人として名を馳せた天才。



 援と呼ばれた青年。


 その名は郭援。


 歴史では袁紹に仕え、勇将として名を馳せた武人。




 そして、この情けない男は、


 歴史では袁紹に仕え、袁家に混乱と衰退を齎した元凶として名を馳せる事になった有名な軍師。


 彼の立案する策の悉くが裏目に出ては敗戦を繰り返し、後世では『出ると負け軍師』と揶揄される。


 そんな彼の名は郭図。字は公則。


 とにかく残念な印象が強い彼だが、実は某シミュレーションゲームの初代のお陰でコアなファンが多々存在する。


 その影響もあり、彼はこう呼ばれた。



 ――【猛将・郭図】――と。



 この物語は、本来の歴史とは掛け離れた中華を舞台に、常人離れした武力と知略を誇るものの、どこかいい加減でちょっとだらしない郭図と言う男が織り成す英雄譚である。

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