虹 【月夜譚No.75】
カラフルなマカロンが可愛らしい。箱を開けた最初に受けた印象だ。
一列に並べられたマカロンは端から徐々に色を変え、まるで一筋の虹のようだ。箱の内側が空色なのも、そのイメージを定着させる。一つを取り出して掌に乗せると、コロンと音が聞こえてきそうだ。
これを一つひとつ作るのは、骨が折れたことだろう。生地毎に食紅を変え、ここまで綺麗なグラデーションを作り上げるのは根気のいることだろうと想像に難くない。
端の一つを摘まんで前歯で噛むと、サクッと小気味の良い触感がした。甘味が口に広がって、ほんのりとフルーツの香りがする。もしかして、味もそれぞれ違うのだろうか。
思わず感心して箱の中を見詰めると、これを渡してくれた時の彼女の顔が甦った。急いでいたようですぐに別れてしまったが、とても良い笑顔をしていた。
微かに雨の音がした気がしてカーテンを引き、目を丸くした。窓の鍵を開け、ベランダに出る。
狐の嫁入りの向こう側に、輝く虹が橋を架けている。それを見たら自然と口が綻んで、手にしたままだった食べかけのマカロンを齧った。
「よし、頑張ろう」
口を衝いて出た独り言は、雨音の中に溶けて消えた。