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第9話 さあ帰ろう


 王都観光は謁見を待たされている四日間のうちに、だいたい済ませてしまった。


「ていうか、規模がでかいだけで、だいたいザブールにあるもんばっかりだったなぁ」


 とは、フレイの率直な感想である。

 交易都市ザブール、なんて呼ばれるのは伊達じゃない。

 王都に揃うものは、ザブールでもだいたい揃う。


魔法屋(マジックショップ)の品揃えも、たいしたことなかったしねー」

「デイジーが持ってるマジックアイテムより上等なものは、ザブールにだってないわよ」


 ミアさん苦笑しか出ませんよ。

 なにしろこの司祭、全身マジックアイテムでコーディネイトだからね。


 額に輝くサークレットには、デイジーの魔力を少しずつ回復する効果があるし、まとっている神官服には見えない衣装には強力な防御の奇跡が施されていて、素肌が露出している部分までしっかりガードしてくれる。

 ホットパンツで藪の中に分け入っても、むき出しの生足には傷一つつかない。

 虫刺されだってしない。


 そして持ってる錫杖(ステッキ)にはマリューシャー女神の加護があり、デイジーが扱う奇跡の力を増幅してくれるのだ。

 あと、これで殴るとキラキラキラーって星が舞う。


 履いてるショートブーツにはウイングスの魔法がかかっており、助走なしで三階の屋根くらいなら跳び上がることができるって優れものだ。


 これ全部揃えたら、たぶん屋敷が使用人付きで買えるくらいの金がかかる。

 にもかかわらず、デイジーは銅貨の一枚も負担していないのだ。


 ぜーんぶ貢ぎ物だから。

 ユリオプス司祭とかパンナコッタからの。


 あいつら金もあるし、魔法や神学の知識がパンパないもんだから、こういうものが手作りできちゃうのである。

 そしてデイジーは素直ないい子なので、もらったものは律儀に身につけるのだ。

 罪作りなことに。


 自分の作ったものをアイドルが身につけ、愛用してくれる。

 その喜びというのは、たぶんデイジー教徒(ドルオタ)にしか判らないけど。


(それがし)はコートを新調できたので満足であるがな」

「あ、はい」


 ガルの言葉に頷くフレイ。


 なんというか。

 似合ってはいるんだけどね。

 蛮族感がすごいんですわ。得物も戦斧だし。


「けど、白虎の毛皮なんて、返り血で酷いことになるんじゃない? 白いし」


 ミアの疑問だ。

 それは、冒険者や傭兵が、あんまり白い衣服を身につけない理由でもある。

 きれいな白い布は高いって理由もあるけど、


 その高い布を返り血でどろどろにしちゃうってのは、もったいなさすぎる。

 血って落ちないしね。


「大丈夫だよミア。ボクが防汚の奇跡でコーティングしたから。汚れても、水で流せば元通りー」


 えっへんとデイジーが胸を張る。


「……マリューシャーの魔法って、たまに意味不明なやつがあるよわね」


 防汚ってなんだ。

 防汚って。

 もうちょっと役に立つ魔法を授けなさいよ。


「ミア。魔法じゃないよ。キ・セ・キ」


 ちっちっちっと指を振るデイジーだった。


「へいへい」


 ちょーどっちでも良い、とか思いながらミアが肩をすくめる。

 旅装を整えながら。


 勅命が下った以上、いつまでも王都でだらだらしているわけにはいかない、というのが表向きの理由だ。

 実際のところは、王都観光もだいたい終わったし、そろそろ帰りますかーくらいの感覚である。


 もともとミアは王様の命令なんて、これっぽっちも尊重していない。

 謁見の間で跪いていたのだって、ぶっちゃけ喋るのが面倒くさかったからであって、敬服していたわけでも威に打たれていたわけでもないのだ。


 エルフだもの。

 人間族の王なんて畏れないさ。


「わたしとしては、当初のプラン通りに逃げちゃっても問題ないしね」

「問題しかねーよ」


 フレイが苦笑する。

 ザブールの人々のことは気に入ってるのだ。アンキモ侯爵も、ガイツのアニキも、頭おかしいユリオプス司祭も。いつも仏頂面している組合の係員さんも。


 愛すべきしがらみというやつだ。

 簡単に捨てられるものではない。


 彼らが逃げなくても済み、かつ王様の面子も立つような解決法を見つけ出す必要があるのだ。


「そのためにも、はやくザブールに戻ってカルパチョたちと相談しないとな」

「はやくカルパチョに会いたい?」

「そっんなこと言ってないでしょ!」


 すぐからかってくるミアと、すぐムキになっちゃうフレイである。

 にやにやと笑いながら、デイジーとガルが見守っていた。






 往路に十日かかる行程のため、復路にだって当然そのくらいの時間がかかる。


 まあ、来るときは十三日かかったけどね。

 ナナメシに三日も長く滞在しちゃったから。


 帰りは予定外の長居はしないで、とんとんと進みたいものである。


「と、思ってた時期が俺にもありました」


 半笑いでフレイが呟いた。

 街壁の上に何十本もはためく(のぼり)を見上げて。


 王都プリンシバルから三日、ナナメシの街である。

 カラーゲって書かれた幟が、街を囲む城壁の上にずらーっと並んでるっていう頭おかしい光景を、生きているうちに見ることになるとは思わなかった。


「ここはあれかね。ミアさんや。カラーゲ教の総本山だったかのう」

「フレイおじいちゃん。そんな宗教はないわよ」


 世の中、いろんなものを崇める人はいるけど、油で揚げた鶏肉を崇める人は、たぶん一人か二人くらいしかない。

 なので、宗教として成立するのは、ちょっとだけ難しいだろう。


「ずいぶん流行っちゃったみたいだねえ」


 くすくすとデイジーが笑う。

 彼らかこの街を去ってから十二日ほど、カラーゲはすっかり街の名物になってしまったらしい。


 そしてそれを伝えたのが、ミアとデイジーってことになっているのだ。

 このままナナメシに寄るのは、ちょっと危険な気がする。

 歓待的な意味でね。


「また飲めや歌えの騒ぎになってしまったら、数日は足止めされてしまうな」


 ガルも困った顔だ。

 どんちゃん騒ぎ自体は彼も嫌いじゃないのだが、そうするとデイジーを独占できなくなってしまうのである。

 ほら、この街にもけっこーいるからね。デイジー教徒。


「街道を避けて森を進む? わたしなら案内できるけど」

「んだなー ここんとこずっと楽ちんな宿泊まりだったし、たまには野営すっか」


 ミアに向かってフレイが笑って見せた。


 冒険者だろうが傭兵だろうが、好きこのんで野営をしたいわけではない。

 そんなもんじゃ疲れは取れないので、むしろ避ける傾向が強いだろう。


 食事やトイレの不便さ。モンスターなどの襲撃の可能性。

 野宿を避けるべき理由はいくらでもある。

 わずかな金銭を惜しんで危険を冒すのは、少なくとも一流のやることではない。


 だが、だからといっていつでも宿に泊まれるわけではない、というのもまた事実だったりする。

 冒険の途中で野営なんて場面はいくらでもあるのだ。


 そういうとき、いつも楽をしていると踏ん切りが付かなくなってしまう。野営いやだなーって。

 人間、楽な方へ楽な方へと流されるものだから。

 で、タイミングを逃して夜通し歩くことになったりとか。


「たまには初心にかえって、野営としゃれこもうぜ」


 ちょっとした訓練のようなものだ。

 感覚が鈍っていないか、確認するという意味もある。


「そうだねー 雪が降っちゃったらもうできないしねー」


 今のうちにやっておこう、と、デイジーも同意した。

 そしてデイジーが頷くならガルだって当然のように頷く。


「そしたら……」


 懐から手書きの地図を取り出すフレイ。

 次の宿場までの最短ルートを調べるためだ。


 街道というのはまっすぐに走ってはいない。

 危険な場所を避けたり、なんとなく気まぐれにだったりとか、様々な理由でけっこううねうねとうねっている。


 なので、危険を承知で森や山を突っ切れば、比較的短時間で次の街まで進めるのだ。


「……このルートかな。森抜けでショートカットしよう」

「おっけ。森の中はわたしがナビゲートしてあげるわ」


 ミアは、どんなに深い森に入っても方向を見失うことはない。


 こんなんでもエルフだから。

 すべての森の木々に愛されている娘だから。

 そして愛されてはいるけど、とくに大切にしているわけでもないという鬼畜だから。


「よろしく」

「おまかせ」


 こつん、と、フレイとミアが右拳をぶつけあう。


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[一言] デイジー可愛い。
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