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第20話 ちょっと相手が悪かったなぁ


 アジトが特定された盗賊団なんぞ、怖くもなんともない。

 これはどんな犯罪組織だって同じだ。


 圧倒的多数で包囲して殲滅しちゃえば良いんだもの。そして国なり貴族領なりにはそれができるだけの兵力があるんだもの。

 注意するのは、取りこぼしがないようにするってことだけ。


 盗賊だって生きてるんだから優しくしてあげましょう、なんてうさんくせーことを言ってる国は、人間の領土にも魔族の領土にも存在しない。


 他人様の金銭を殺してでも奪おうって連中を、なんでへらへら笑って許してやらないといけないんだって話である。

 殺すか、生かしておくなら農奴か鉱山奴隷にでもするか。


 矯正施設に入れて真人間に更生させましょう、というのは、たとえばもっとずっと時代が進んで、罪人を養ってやれるくらいまで豊かになったら可能かもしれない。


 ともあれ、取りこぼしがあると、そこから勢力を盛り返してまた悪事を働く可能性がある。

 復讐戦を挑んでくる可能性だってあるだろう。


 盗賊は皆殺し、というのは国や貴族領の都合であって、盗賊どもにはべつの意見があるだろうから。

 不作のせいで食えなくなったんだ、とか。

 災害のせいで家を失ったんだ、とか。


 まあ、だからといって他人を襲って金品を奪って良いって話にはならないんだけど、彼らだって皆殺しにしてくれてありがとうって心境にはならないだろう。


 なので、きっちり全員を捕縛するなり殺すなりする。

 これが肝要だ。


「にもかかわらず、たった八人で盗賊退治とか。もしかしてケチなのか? エスカロプの旦那って」

「いやあ。兵を整えたら時間がかかるからさ。ささっと片付けた方が良いかと思って」


 ジト目で見られた宰相が、ぽりぽりと頭を掻く。

 兵は巧遅よりも拙速を尊ぶ。

 これは常識なのだが、城の兵士を何人か連れてくるくらいの余裕はあったはずだ。なんぼなんでも。


「兵など必要ないんじゃよ。フレイ」


 弁護の声はカルパチョからあがった。


「魔王アクアパツァーの四天王が二人もおるのじゃ。むしろ戦力過剰で盗賊が可哀想なくらいじゃよ」

「たしかに!」


 思わず親指を立てて同意しちゃったよ。


 エスカロプの実力は知らないけど、カルパチョはものすごく強い。

 勝ったことがあるフレイだが、あれははっきり言ってまぐれである。

 カルパチョの知らない技で奇襲したから勝てただけで、もう一回戦ったら絶対に負ける。

 そういう次元の強さなのだ。


「まー、取りこぼしが心配なら、わたしとヴェルシュで上から絨毯爆撃して森ごと焼き払うって手もあるしねー」

「ねー」


 頷き合うミアとヴェルシュである。


「怖いわ!」


 突っ込むフレイ。


 想像しちゃったよ。

 古代竜の背にまたがって飛ぶエルフ娘を。

 そして雨のように降り注ぐ炎の精霊魔法とドラゴンブレスを。


 地獄絵図ですよ。


「環境破壊、イクナイ」


 硬い表情で制止するエスカロプである。なにしろここって彼の領地だし。

 盗賊と森林火災だったら、ぶっちゃけ後者の方がやばいって。

 大規模災害じゃねーか。






 寡をもって衆にあたるには奇襲を旨とするのが普通である。

 しかし、彼らはなーんにも考えず、正面から盗賊どものアジトに乗り込んだ。

 談笑しながら。


 先頭はカルパチョ、ガル、ヴェルシュの三人。

 中段はフレイとミア。

 後列はエスカロプ、デイジー、パンナコッタ。


 状況によって前列と中段が入れ替わり、道を開いたり罠を探知したりできる必勝の陣形である。


 たき火を囲んで酒を酌み交わしていた魔族が、悠然とやってくるフレイチームを見とがめ、近寄ってきた。


「な」


 んだてめーら、と、続けたかったのだろうか。

 それはもう誰も知ることができない。


 抜く手もみせずに振るわれたカルパチョのフランベルジュによって、すぽーんと首をはねられたから。

 角の生えた首が景気よく空を飛ぶ。


「て」

「お」


 彼の後ろに続いた二人も相次いで、ヴェルシュの長剣で袈裟懸けにされたり、ガルの大太刀に真っ二つにされたりした。


 なんだか一言しか話せない種族なのかって感じだが、もちろんそんなことはなくて、前衛三人の攻撃が思い切りが良すぎる上に速すぎるのである。

 だから、敵襲と叫ぼうとした盗賊も親分に報せろと言おうとした男も、最初の一音しか口にできなかった。


 陣形を乱すことなく、アジトにしている広場へと侵入する。

 接近する敵には前衛三人が、距離を置いてはミア、パンナコッタ、エスカロプの魔法が確実に敵を葬っていった。


 ナキャマー峠での戦いより、はるかに余裕がある。

 一人多いだけなのだが、その一人が魔法職だというのがとてつもなく大きい。


 草でも刈るように魔族の盗賊どもを打ち倒してゆく。

 前衛三人のなかで最も戦闘力が低いのはガルだが、左右でカルパチョとヴェルシュが戦っているため、正面だけを向いて戦うことができた。


 それでも個体戦闘力の差から押し込まれる局面は幾度もある。

 フレイやデイジーの出番だ。

 トリッキーな動きでリーダーが隙を作り、マリューシャーの司祭がガルの傷を癒やす。


「まともに打ち合うな。ガル。力負けするぞ」

「承知。さすがは魔族。たかが盗賊と侮れぬな」


 一瞬、背中合わせになったフレイとガルが、ふたたび飛び離れる。

 新たな敵を求めて。


魔法抵抗力(レジスト)もばっか高いわね。面倒くさい相手」


 ぼやきながら、ミアが精霊魔法を放つ。

 解き放たれた氷狼(フェンリル)が駆け、三本の角を持つ屈強な魔族を凍らせた。

 が、それも一瞬。

 力づくで魔法を破る。


 ミアがぼやいた魔法抵抗力の高さである。普通の人間なら一発で氷漬けにできちゃう魔法が決定打にならないのだ。


「まあ、判ってさえいれば、いくらでも対処法はあるんだけどね」


 鈴を鳴らすような声とともに飛来する火蜥蜴の槍サラマンダージャベリン


 氷狼より低級に位置する魔法だ。

 そんなもんでなにをするつもりだ、と、という趣旨の笑いを浮かべたまま、その魔族は消滅した。

 爆発に巻き込まれて。


 極低温の氷と極高温の火槍が衝突したとき、なにが起きるか。

 これが答えである。


「水蒸気爆発っていうのよ。火山の溶岩が氷河なんかに流れ込んだら、町ひとつくらい吹き飛んじゃうんだから」


 嗜虐の笑みを浮かべながら、もはや聞く者のいない解説をしてやった。

 爆発に巻き込まれて死んだ盗賊は四人ほど。

 まずまずの戦果である。


「できれば死体を残す方法で殺してくれた方が、僕としては嬉しいんだけどね」


 謎の言葉とともに、エスカロプがパチンと指を鳴らした。

 すると、爆発で死んだ盗賊どもが立ち上がった。

 頭や片腕を失った状態のまま。


 そして、かつて仲間だった者たちに襲いかかる。

 死人操り(ネクロマンシー)だ。

 ちょっとした地獄絵図が現出する。


 これこそが魔界宰相の力であり、彼が単独で行動できる理由でもある。

 敵味方を問わず死体が増えれば増えるほど、彼の戦力も増大するのだ。


「相変わらずえげつない上に、こきたない魔法だね。エスカロプ」

「ほっといて欲しいね。時代遅れの古代語魔法(ハイエイシェント)にこだわりつづける骨董大魔法使いさん」

「温故知新さ」


 軽口をたたき合いながら、パンナコッタが杖を振る。


炎の嵐(ブラスティングパワー)!」


 放たれた無数の火炎弾が不規則な軌道を描きながら盗賊どもに襲いかかった。

 避けても逃げても追いかけてくるという、たいへんに厄介な魔法である。


 もともと低かった賊どもの連携がさらにに乱れる。

 逃げ回ったあげくに味方にぶつかったり、突き飛ばしたりして、ぐだぐだを絵に描いたような状態だ。


 もちろん、前衛三人がそんな隙を見逃すはずがい。

 服や髪に燃え移った火を消そうともがき回る盗賊たちにとどめを刺してゆく。


 そして殺された魔族が起き上がり、生きてる仲間に襲いかかるのだ。

 わけのわからない状況に音程の狂った叫びをあげる盗賊もいたくらいである。


 四半刻ほどの戦闘で、盗賊どもは完全に全滅した。


 


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