第12話 念願のアレを手に入れたぞ!
城塞跡で野営し、翌朝フレイたちはザブールへと向かって旅立った。
四人ともごく軽装である。
かさばる荷物は全部、どのくらい入るかの積載実験を兼ねて「収納腕輪」に片付けたから。
ちなみに腕輪を装備するのは、全会一致でフレイに決まった。
彼以上に信用できる男は、ザブール中を探したって見つからないだろう。
「馬車一両分ってわけにはいかなかったな」
「荷車ひとつ分でも御の字でしょ。四人で手持ちできるよりずっと多いんだから」
先頭に立って歩くフレイとミアの会話である。
エルフ娘が方向を確認しながら歩ける場所を探し出し、野外活動の専門家が藪を払ったりしながら道を啓開する。
この二人のコンビプレーがあればこそ、一行は街道を歩くときと比べて極端にペースを落とさず進めるのだ。
昨夜の実験の結果、腕輪に収納できるのは一人引きの荷車一台分くらいと判った。
ガイツの持つ「収納袋」には及ばないが、たとえば大いのししの一頭分くらいなら余裕で収納できる。
諦めなくてはいけない財宝とかは、ずっとずっと減るだろう。
実際、城塞跡にあった宝物は、すべて持ち出すことに成功した。
魔力炉に突き刺したロングソード以外は。
魔法の品物も多かったので、売ればかなりの金になる。
「ゆーて、これ以上稼いでどうすんだって話だけどな」
「いいのよ。どーんと大きく稼いで、ばーんと大きく使う。それが冒険者の醍醐味だし、価値でもあるんだから」
経済を回すのも仕事のうちだとミアが笑う。
まったく、誰がけちくさい冒険者など歓迎するというのか。
「きちんと鑑定できてからの話だが、某は大太刀をもらい受けたい」
「お? 珍しいね。ガルがアイテムをほしがるなんて」
戦利品のひとつだ。
片刃の曲刀で、かなりでかい。デイジーなんかだと背中に背負ったとしても鞘から抜けないだろう。身長が足りなくて。
長身のフレイでもかなり厳しそうだ。
ガルの巨体なればこその武器だろうが、
「装備を変えるの? ガル」
ミアが訊ねる。
メインの武器を変えるというのは簡単な話ではないからだ。
使う道具にまったくこだわらず、あるものは何でも使うフレイは頭おかしいから良いとして、普通はそういうわけにはいかない。
戦斧から大太刀っていうコンバートは、かなり難しい部類に入るだろう。
ものすげー力で叩きつける、なんていういままでの戦闘スタイルでは、カタナなんか簡単に折れてしまう。
「ミアよ。某の肩書きを忘れたか?」
「デイジー教の狂信者」
この上ない正解である。
したがって、ガルはムキになった。
「ちがうわ! 武芸者だ! これでも武芸百般、一通の修練は積んでいるのだ!」
「修練を積んだ結果として、選択した武器が斧なんだ……」
他に選択肢はなんぼでもあるだろうに。
「旅暮らしでは手入れも行き届かないゆえな。斧ならば多少の刃こぼれくらいを気にする必要もない」
斬るというより、力任せにたたき割るという使い方だからだ。
これが、たとえば東方のカタナなんかだとものすごく繊細なため、使うたびに手入れをしなくてはならない。
ようするに、ガルは利便性を優先しただけなのである。
「この大太刀ならば魔法もかかっているようだし、せっかくの機会だから持ちかえようかと。ダンジョンの中などでは戦斧は取り回しが大変だしな」
「太刀だって長すぎるじゃない」
ミアが呆れる。
振り回すことを考えれば、戦斧でも大太刀でも大差ない。
「そのとおりだミア。しかし剣には斧にはない使い方がある」
「それは?」
「突き刺す。じつは切りつけるよりも殺傷力が高いのだ」
に、と唇をゆがめるガル。
半裸コート男の笑いは、一口で言ってかなり怖かった。
「じゃあさガル。ボクが祝福してあげようか?」
しゅた、と、デイジーが右手を挙げる。
呪われているかもしれないから、まずはマリューシャーの祝福を与えて使える状態にする。
これは収納腕輪でもやったことだ。
デイジーがいうのは、さらに上の祝福である。
「良いのか? デイジー」
「ユリオプスさまからも言われてるんだよねー ボクもそろそろ物品に祝言を刻めるようになった方が良いって」
普段使っている錫杖は、ユリオプス司祭の愛と祈りから生まれた逸品だ。
さすがに一から作るのはまだデイジーには無理だけど、すでにあるアイテムを祝福するのは実力的にも可能だろう。
「それはありがたいな」
「失敗しても恨まないでね?」
「もちろんだとも」
上目遣いのデイジーに、にへら、と、緩むガルの顔。
歩きながら、その様子をちらっと見たフレイが、エルフ娘に話しかける。
「なあ。ミアさんや」
「デイジーが祝福を与えたアイテムが、マリューシャー教会で売り出される日も近そうね」
「やっぱり同じこと考えちゃったかー」
「さすがは商売の神、としておこうかしら」
ミアも苦笑しか出ない。
月一回の礼拝だって、もっのすごい集客してんのに。
まだ儲けようとか。
なかなかに業の深い教団である。
予定通り街道に出た。
「リトホルの宿場じゃん! こんなところに出るんだね!」
デイジーが驚いている。
森をショートカットしたおかげで、かなり距離が稼げた。
街道を使えば四日の距離を二日で踏破してしまったのである。
エルフと野外活動の専門家がチームにいると、こういう離れ業が可能になるのだ。
良い子は真似しちゃいけないけどね。
森でも山でも、舐めたら死んじゃうから。
「いやいや。地図見せたじゃねえかよ。どこに出るか判ってなかったのか?」
呆れるフレイ。
なーんにも考えないでついてくるとか、冒険者以前の問題として、人間としてまずいです。
誘拐とかされちゃいますよ?
こんなんでも、そこそこの規模の商家の子なんだから。
それ以上に、人気の司祭なんだから。
「考えてなくないよ! 失礼な!」
ぷんぶんデイジーだ。
迫力なんかない。
可愛いだけである。
「フレイについて行けば間違いないって、ちゃんと考えてるもん!」
「ぜんぜんダメぢゃねーか」
びっくりである。
親鳥の後ろをついて歩くひな鳥じゃないんだから。
こつんと軽く頭を小突いてやる。
「てへっ」
舌を出したりして。
ちなみにこいつらはカップルではない。
それ以前に男女ですらない。
「忘れそうになるな。ことあるごとに確認しておかないと」
「あとデイジー。一応それはわたしのなんで、必要以上にいちゃつかないように」
ガルとミアの台詞だ。
「すこしばかり急ぐぞ。そろそろ陽が傾きかけてる。木戸がしまっちまうからな」
それ扱いされたフレイが仲間たちを促す。
リトホルは宿場なので、ザブールやナナメシのように立派な街壁や街門があるわけではない。
町を囲っているのは木の柵だし、門だってただの木戸だ。
だからといって、閉門時刻の後に堂々と乗り越えても良いって話にはならないのである。
事情を話せば木戸を開けてもらえないわけじゃないけど、双方ともに面倒な手続きが必要だ。
規則ってやつは、守っていてもとくに恩恵は感じないけど、破ると大変に面倒くさいことになる。
まあもちろん蛇の道は蛇というもので、賄賂を使ってくぐり抜けるの簡単なんだけどね。
「けど、それこそ無駄な出費だからな」
「どーかんどーかん」
普通にしていれば使う必要のない金銭だ。
それがたとえ大銅貨一枚程度だったとしても、無駄にして良いものではない。
デイジーの言葉を借りれば、物乞いに恵んであげた方がずっとマシ、ということになろうか。
木戸番だってちゃんと給料をもらってるからね。
困っている人を助けるのは善だけど、べつに困っていない人に施すというのは、マリューシャーの嘉することではないのだそうだ。




