龍、再登場
猫を乗せた馬車は普段は荷物を運んでいるのだろう。裏返した木箱を椅子代わりにしている。猫は龍眼肉を一つ一つ確かめるように食べると安堵感から眠くなった。
目を覚ますとそこは水の中だ。息ができない。水面からは眩い光が差し込んで美しい光景なのだが、次第に息が苦しくなり光の柱を楽しむ処ではなくなった。
身体が沈んでゆく。下を見ると深い水底は真っ暗闇だ。沈む速度が速くなった。〈川魚、助けて。〉猫は心の中で叫んだ。
すると水底の闇から巨大な龍が浮かぶように現れた。龍は猫を頭に乗せると一目散に水面に向かう。水面は意外に固く猫の身体はすぐには出られない。龍は猫の背中を水面に何度か軽くぶつけた。背中を掌で叩かれたような変な感じだ。飲み込んでいた水を吐くと今度は湯船から上がるようにすっと水面に浮かんだ。
気がつくと童子が背中をこんこんと叩いている。口の中には噛みかけの龍眼肉があった。
猫は龍眼肉をしっかりと噛んで飲み込むと童子の顔を見る。童子はまだ驚いた表情のままだ。
猫は童子に
「ありがとう。助かりました。飲み込む途中で眠ってしまったのね。」
と言った。
「びっくりですよ。うとうとされているから眠いのは解りましたが、まさか龍眼を喉に詰まらせていたとは。でも気づいてよかった。無事でなによりです。」
童子は猫の笑顔を見ている。小さな子供みたいな笑顔をしていた。
「少し眠ります。ごめんなさいね。」
猫が言うと
「どうぞ、ご遠慮なく。」
と童子が返す。
猫は眠くて眠るより、もう一度眠ったら川魚に会えるかもと儚い想いを抱いていた。