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清少納言

 清原諾子(せいしょうなごん)は紫式部が書いた『源氏物語』を読んでいる。途中「幻」の巻に差し掛かった際、周防国(すおうのくに)で幼い頃に聞いた伝説と重なった。



 かつて海雀なる交易商が(からのくに)から一人の中年女を連れて来た。唐は乱れ女はある事情で離れなくてはならなかったと言う。女は交易船で長門国(ながとのくに)へとやって来た。

 交易船の船長である海雀は口の固い男で何も語らなかったが、息子の雀童子が一度ぽつりと喋った。この話が長門国(ながとのくに)の油谷に伝わっていた。


 女の名前は楊玉環で玄宗皇帝の貴妃だったらしい。

 雀童子は楊貴妃が縊死させられる前夜の事をはっきりと覚えていた。

 童子は高力士に頼まれた龍眼肉を貴妃の元に運んだ。突然の依頼で龍眼肉は数が揃わずかなりの数の茘枝も用意した。届けた際に目にした貴妃は噂通りの美しい女性だった。これだけなら童子の記憶に強烈に残る事は無かっただろう。貴妃は果実を盛った器から龍眼肉ではなく茘枝を選び数個食べた。

 童子は貴妃に尋ねた。

「龍眼肉より茘枝の方がお好きですか。」

 貴妃は

「茘枝の方が見栄えが猛々しく品があるわ。龍眼の皮は質素よね。そして何より果肉の量かしら。龍眼は種が大きくて果肉が少ないでしょう。」

 童子はこの言葉を聞き、この女性が楊貴妃ではなく別人ではと疑った。

 翌日、童子は高力士から(マオ)なる中年女を船まで連れて行くよう頼まれた。猫は龍眼肉を持って馬車に乗った。

 猫は龍眼肉を食べながら、

「これを食べていると、子供の頃池に落ちた私を助けてくれた人を思い出すのですよ。黒い瞳が印象に残っています。その目で何処か遠くを見ていました。後にそのお方が成龍(りゅうのけしん)だと聞かされました。」

と童子に話した。


 童子はこの女性こそが楊玉環(ようきひ)だと信じて疑わなかった。成龍と呼ばれた男は父海雀の友人だ。成龍は周囲が勝手に呼んでいるだけで、名前は江川魚(ごうのかわな)。遣唐使吉備真備の従者(ずさ)だった。父からは〈真備が組み討ちで勝てなかった只一人の男〉だと聞いた。

 少し前まで海雀は川魚を影真備(かげのまきび)と呼び、今は辞めてしまった数人の船員は影様とか影殿と呼んでいた。



 清原元輔娘(せいしょうなごん)は読んでいる源氏物語より周防時代噂に聞いた龍と影が気になって仕方がない。

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