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龍眼肉

 一人の中年女が中空を凝視している。視線の先には木に吊り下げられ縊死した女がいた。遺骸は服装を見ただけでも高貴な女性だとわかる。顔は美しく化粧されていた。吊るされている女性は楊貴妃だった

 中年女は複雑な心境だ。

〈私もつい先日までは楊貴妃と呼ばれていたわ。〉

「おい、そこの女。何を見ているのだ。さっさとどこかに行け。」

 声の主は玄宗の腹心、宦官の高力士だ。

「女、邪魔だと言っておるのだ。これをやるからさっさとどこかへ行け。」

 高力士は中年女に龍眼肉の包みを渡した。

「ありがとう。」

と女は言う。中年女とは思えないほど可愛らしい笑顔だ。

〈玄宗様はこの笑顔に一目惚れしたのだ。そして、この笑顔がどれほど玄宗様を癒したことか。〉

 高力士は懐かしい気持ちになり、華々しい栄華の日々を思い浮かべた。


 安禄山の乱で楊貴妃は処刑されることになった。

 そこで玄宗皇帝は高力士に一言、

「何とかしろ。」

と言った。

 高力士は玄宗皇帝に

「貴妃様に二度と会わないとお約束できるのなら、貴妃様を無事逃がしましょう。」

と告げた。

 高力士は楊貴妃の身代わりを立てるというありふれたを手法を選択した。〈死顔には生前の面影がない。〉とどこまでとぼけていられるか不安だった。

 身代わりの女が木に吊るされ。息絶えると玄宗が即座に言う。

「いつになれば貴妃に会える。」

 高力士は答えた。

「ですから、もう二度と会えません。方士に頼んで死後の世界に道を架けてもらうしかないのです。」

 玄宗は現実に帰った。冷静に考えると当たり前なのだ。楊貴妃に会えば身代わりを処刑したのだと発覚する。玄宗は充分に理解してはいたが感情を押さえられなかった。

「貴妃、貴妃。」

と取り乱して叫び、

「高力士、貴妃に合わせろ。ここに連れて来い。」

と喚いた。玄宗の視線は吊るされた女に向けられている。

 玄宗皇帝の乱心をを見た人々は吊るされた女を楊貴妃だと信じ、縊死した女が身代わりだと言った疑念は消えた。


(マオ)、早く雀の処へ行け。」

と高力士は玉環(マオ)を急かす。玉環は高力士の顔を見て笑顔で頷いた。

「笑顔は隠した方がいい。」

 高力士は言った。

 玉環は身代わりの女に視線こそ向けなかったが心の中で〈ありがとう、ごめんなさいね。〉と呟いた。


 雀と呼ばれる交易商に向かう馬車で玉環は龍眼肉を食べながら〈猫が龍眼肉なら楊貴妃は茘枝(レイシ)なのかしら。〉と可笑しかった。

 あの日、龍の目をした男は玉環を

「無邪気で仔猫のような子です。」

と言っていた。

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