魔法の始まりの話
『武器屋の勇者様』スピンオフです。
昔、昔、遠い昔。
人間が生まれるよりもずっと昔。
小さな島にドラゴンたちが住んでいたんだ。
ドラゴンと言っても今はそう呼んでいるってだけでね。
そのころはまだ名前もない小さなトカゲだったそうだよ。
その年は寒かったそうだ。
何十匹と居たドラゴンたちは1匹また1匹と倒れていった。
それは寒さに弱い生き物たちはどんどん居なくなってしまうほどだったそうだった。
だから寒さで死に絶えていくのを見かねた火の神様が生き物に魔法を教えたんだ。
ドラゴンにだけじゃなく、死にそうなすべての生き物にね。
その魔法でドラゴンも他の生き物も暖をとり寒さをしのいだんだ。
ドラゴンたちは火の神様に感謝したよ。
寒さは去っていたけどドラゴンは魔法が使えるのがうれしくて火の神様の魔法を使ったんだ。
火の神様のためにお祭りをしていたんだよ。
そうすると今度は世界が熱くなってしまったんだ。
ドラゴンたちは考えた。
熱くできるなら寒くもできるんじゃないかってね。
試している内に魔法で色々な事ができることに気が付いた。
火を起こし、水を運び、風を吹かせて、土山を作る。
楽しくなったドラゴンは世界を変え自分を変えていったんだ。
ここからはその中の一匹のお話。
ドラゴンが魔法を貰ってから長い年月が過ぎた。
人間が何回も生きては死んで行ける時間だったそうだ。
火の神様に貰った魔法を使えるのはドラゴンだけになっていた。
長い間生きていたドラゴンは体が大きくなり立派な翼を持つようになっていた。
でも、好き勝手に暴れたので仲間とはぐれてしまっていたんだ。
さすがに長い間生きていたのでドラゴンもおとなしくなりのんびりと生活していた。
でもね、たまに大暴れするんだ。
背中に生えた苔がかゆくなってね。
ドラゴンの手は短いからね背中まで届かないのさ。
近くに住んでいた森の人は暴れるドラゴンに迷惑していたよ。
ドラゴンが暴れるたびに山が揺れるからね。
森の人はドラゴンに言った。
「私たちが苔を取ってあげるから暴れないでほしい。」
ドラゴンは喜んで森の人に苔を取ってもらった。
それからドラゴンは森の人と一緒に暮らしはじめたんだ。
背中の苔を取ってもらうお礼に魔法で彼らを助けてあげた。
畑に水をあげたり、洗濯物に風を送って乾かしてあげたり。
ドラゴンは森の人の生活が面白かったそうだよ。
だってドラゴンは料理ができないし、洋服も着ないからね。
ドラゴンが魔法で助けてくれるから森の人の生活は豊かになり数も増えていった。
最初は数十人だった森の人もその時には数百人になっていたそうだよ。
そうするとドラゴン1匹じゃ手が足りなくなってきた。
ドラゴンは考えた。
皆が魔法を使えれば良いと。
だけど、火の神様の魔法をそのまま教えてしまっては自分の立場がなくなってしまう。
ドラゴンはもう少し考えた。
ドラゴンは文字を使わなかったけど森の人は文字を使っていたんだ。
ドラゴンには手紙を書いても届けてくれる人が居ないからね。
だから、新しい文字を使った新しい魔法を作った。
ドラゴンが新しい文字を作らなければ森の人は新しい魔法を使えない。
そうすればドラゴンの立場も守られる。
森の人は喜んだよ。
魔法の便利さはよく知っていたからね。
自分たちで魔法を使える様になって新しいことをはじめていった。
ドラゴンには思いつかなかったこと。
道具を使わないドラゴンが思いもよらなかったこと。
火の魔法で料理をしたり、風の魔法で矢を飛ばしたり。
ドラゴンはびっくりしたよ。
でも火の神様も同じ気持ちだったんじゃないかって思ったんだって。
自分が教えた事を新しい物に変えていく。
それはそれで素晴らしいってね。
そして一緒になって新しい魔法を作り始めたんだ。
そんなある日、森の人の村に人間がやってきた。
人間は森の人をうらやましく思った。
自分たちが苦労して火起こししているのに森の人は簡単に魔法で火を点ける。
自分たちが苦労して川から水を運んでいるのに森の人は簡単に水瓶をいっぱいにする。
便利な魔法を自分たちも使いたいと思った。
だから、人間は森の人たちが大事にしていた本を盗んだ。
けどね、その本には簡単な事しか書かれていなくって人間は大した魔法は使えなかったのさ。
それから、森の人は人間を彼らの森から追い出すと絶対に森に入れてくれなくなってしまった。
なんでこんな話が伝わっているかって?
人間が盗んだのは森の人の日記が書かれた本だったからさ。