関係が変わる時
「お疲れ様です。お先失礼します」
「お疲れ様です」
新人は残業禁止という上司の方針をいいことに、定時すぎるとさっさと帰り支度をして、会社を後にする。
入って3年経つが、さっさと帰っても何も言われないこの環境が割と気に入っている。
せっかくの金曜日だというのにこのまま家に帰るのは味気ない。
でも、当日に連絡して捕まる友達は少ない。どうしたものかと思いながら、駅に向かう。
きっと彼氏が帰ってくるのは日付が変わる時だろう。それまで、家で1人で過ごすにはちょっと寂しい。
ただでさえ連日の雨で気分は晴れないし、誰かと飲みたい。
家に帰ったあとのことなどを考えた結果、駄目元で友達に連絡を取る方が魅力的に思えた。
誰も捕まらなかった場合、そちらの方が悲しい気分になることは明白だけど、そのリスクを犯してでも今日は飲みたい気分だった。
駄目元で何人かに連絡してみる。
何人か集合してもいいように、同じコミュニティの人がいい。もし誰か捕まった時のために、新宿に向かう。
新宿に向かう電車の中で、何人かからは予定があるとの返事。
まぁ、当然だろうなと思いつつもどこか落ち込む。
連日の雨のせいか、気が参りやすくなっているようだ。
もう帰ろうかな、金曜日の夜の繁華街に1人で行く元気はないと考え出した時、1人から承諾の返事。
アキラか…。
連絡したのは、すべて高校の同級生だった。アキラも高校の同級生の1人。
確か高校時代はあまり仲良くなかった。卒業してからクラス会の度に距離が縮まり、いつしか頻繁に2人で飲むようになった。
そう言うと本当に偶然気があったようにも思えるけれど、本当は少し違う。
高校から大学にかけてアキラが私のことを好きだった。
誰もいなかったら付き合ってもいいかなーと私も思っていたけれど、アキラから言ってくる気配もなくヘタレだなと思っていたら、私に他に彼氏ができた。
それでも、アキラと飲むのは心地よかった。
アキラにも彼女ができたり、別れたりしていた。今はフリーだったはず。アキラに彼女がいようがいまいが、私には関係ない。
頻繁に飲んでいるうちにこちらの性格や思考パターンが筒抜けで、見栄を張っている私の本心を突いてくれる。
それでいて、甘えさせてくれるから心地よい。そのためか、もう10年近い飲み友達だ。
一方的に私に得しかない関係。
アキラと飲むことになったのは良かったのか悪かったのか。
今のこの気持ちで飲みに行ってしまったら、何か変わってしまうようなそんな予感。
飲むに行くべきか、行かぬべきか。
下書きにずっと書いてあったものの供養