獣王の失墜
前話、下ネタですみません。今回はないです。下ネタが病的に書いてしまう(^_^;)
キンコーン、カンコーン。
俺が元々いた現世の学校でのチャイムがなる。ようやく、苦痛から解放された。俺は戦いに明け暮れた身。戦闘の知識はあるが、ごく平凡な学生の勉学など、さっぱり解らない。
「井草野な~にをやっとるんだ?」
「わかりませんか? 黒板の文字を写しているのです」
「いや、そこはなんとなくわかるが、なんだ? その文字は?」
「古代ミソソッピ文字です。私は現代文字より、こちらが慣れているのです」
「廊下に立っておれ。春もだ」
「ええ? 私もっすか?」
「彼に現代日本の文字を教えてあげなさい」
「しょうがないな~。どこから教えればいいのやら」
この様である。不甲斐ない俺に春美咲は愚痴をこぼしながら廊下にでるのを付き合ってくれる。
「ちょっと、鳥がとまっているような文字はなんなんだしー」
「あっこれ? あに近い。正しい発音はㇽア、ルアだな」
「小さいルなんて発音できないよ。もう一回言ってみ」
「ㇽア」
「ルア」
「ㇽア」
「ルア」
文字を教わるどころでは、なかった。そして、俺たちのやり取りは騒音の元になり黙って正座させられた。勉強どころではない。このような、地獄が続いたのだ。
「じゃあね。光っち。それとも私と帰る」
「助かる。自宅がどこにあるのか分からなく、なっている」
「君、本当に大丈夫?」
再転生して現代日本に帰ってきたのだ、解らない事ばかりだ。しかし、転生したプリンシとはいえ、美咲には説明しても解らないだろう。
「およそ、体が覚えている感覚で帰ろうと思う。付き合ってくれるか?」
「はあ、今まで生きていたのが、奇跡だと思うし」
その通りなんだ。異世界ピースワールドにいた時は死闘に明け暮れていた。奇跡に近いんだ。しかし、今は本当の自宅に帰るのに、悪戦苦闘するとは考えもしなかった。
「ん?」
「どうした? 美咲」
「先生から君の住所を聞けばある程度わかるっしょ」
「おお、君は賢いな。しかし、聞くのは淫乱ビッチ賢者サキュバス様だろ?」
「あんたの湯葉先生に対する印象が丸わかりだし」
美咲は呆れながらも同じ気持ちを抱いていた様子だった。
「でも、聞くのは担任の先生で大丈夫だよ」
「ほう、誰だ? ハゲ島か」
俺はう~んと唸った。大丈夫なのか? エビルプリースト、ダークエターナル禿で。禿はセクシーとフォローがはいった所で、邪悪さとは関係がない。
「いや、副担任の竜ケ崎先生でも大丈夫だよ」
「竜ケ崎とやらがどんな者かわからないがそいつに頼もう」
「君は寝てばかりだったから、人間が全然知らないんだね」
まあ、その間に異世界にいたんだから仕方がない。とでも説明しようが無駄だな。
「すまない。これからは、寝てばかりせずに周りに関心をもつ」
「エライ、エライ。進歩したね」
美咲に頭を撫でられる。プリンシとは関係なく彼女に撫でられたのが、少し嬉しくて照れしまった。
「美咲、美咲!」
美咲に女生徒が慌てて違づく。どうしたのだろうか?
「どしたの? さっちゃん」
さっちゃんとやらは、深刻な表情で美咲に告げる。
「竜ケ崎先生。うちの不良共の喧嘩に介入して出て行っちゃったよ」
「流石、さっちゃんは情報通。ってこうしてはいられない」
この世界にもこういう時代遅れな野蛮な行動があるようだな。それ自体は俺が思うことは一つ、好きにしていいと思う。喧嘩で分かり合うこともあるだろう。ただし、弱い者いじめは賛同できない。殺し合いも賛同しない。だが、目的の竜ケ崎先生にもしものことがあれば俺の帰宅に影響する。助太刀せねば。
「場所は?」
俺はさっちゃんという女の子に、真に迫った勢いで問い詰める。相手は驚き怯えているようだ。
「光っち、脅迫は駄目だし」
「す、すまない」
俺は慌てて謝る。それでも相手に威圧したようだ。
「い、いえ。竜ケ崎先生は通学路周辺にある河川敷で揉めているようですよ。これは地図です」
「ありがとう。さっちゃん」
「みさちゃんも彼氏と頑張ってね」
「まだ、そこまでの関係じゃないし」
俺たちは走って目的の河川敷まで向かった。そこは、どこか懐かしい感じがした。
記憶が曖昧になってしまったが、俺が以前通学に通っていた所なのだろう。
俺は河川敷で見た惨状を目にする。
「あれは、コボルトとオークの集まりか?」
「いや、光っち、人間をなんだと思っているし。あれは、内の学生と他校生の集まりっしょ」
そうなのか、なんだか品の無さそうな輩達が誰かを寄ってたかって暴行をしている。そんなのは亜種族の生物だろうと思いこんでいたが。おや、あれは……。
「獣王―!」
「うわっ、びっくりしたな光っち。獣王ってなんなの?」
「獣王とはピースワールドの地上での覇者だ。魔王エビルスピリットを召喚して果てた我が強敵だ」
などど、熱を入れた説明にたいして美咲は口をあげて唖然としていた。驚いたのだろうか。
「光っちね。そのへんてこ? な妄想? 中二病から卒業したら? あそこでボコられいるのは竜ケ崎先生だよ」
そう、かつての獣王は学生たちに暴行を受けている。かつての地上の魔王とは思えない。もしや、真の魔王を召喚したせいで力を失ったのだろうか。
「獣王、どうしたんだ? この様は」
獣王は獅子の頭をもち、力にあふれた屈強の戦士をしている。今では草臥れたアラサーサラリーマンのような姿だ。だが、俺には獣王だと感じることはできる。
「イタタタ。おや、内の生徒ですか」
「違う、勇者ヒカルだ!」
ヒカルだ。ヒカルだ。ヒカルだ。木霊する。不良たち一同は爆笑する。え? 俺は何かおかしな事を言ったか?
「やめなさい。そういう事はお家に帰ってから叫びなさい。今の私は獣王ではないのですよ」
「獣王の記憶があるのだな」
「そりゃ、ありますよ。ここに転生したのは、私だけかと思いましたが、君もなんですね。光君」
「いや、隣にプリンシもいるぞ。お前はプリンシの膝に抱かれて死んだじゃないか」
「え? アタシ? いやいやいやいや、そんなことやってねーし」
「彼女は転生者じゃないですよ」
「は?」
そんな、馬鹿なことはない。春美咲はプリンシの転生先だ。間違いない。
「やれやれ、君がそう思うのなら、それでいいと思いますけどね。ここ、日本ではピースワールドの事は持ち出してはいけませんよ」
「そうかもしれない。しかし、獣王よ、随分と弱ったな」
「君もその内に分かりますよ」
獣王はやれやれとばかりに衣服についた汚れを落とした。乱暴されたわりにはダメージは少ないようだ。
「おー? これだけ、ボコっても立ち上がるなんて、根性あるんじゃねえか」
不良の一人がへらへらと笑いながら獣王を馬鹿にする。こいつ、獣王の恐ろしさを知らないな。だが、もしかしたら、獣王はかつての力を、失っているかもしれない。俺がやれることはひとつだ。俺が拳を構える。
「お? お前も俺たちとヤルのか? 馬鹿にして。西高の奴らも俺らの学校の生徒ぽいがボコっていいぜ。どいつもこいつも俺らを馬鹿にしてやがる」
馬鹿にしているのはお前らだ。俺は殺さない程度に拳を振るった。
――結果――
カァ、カァ、カァ。烏が俺を馬鹿にしたように鳴いている。あるいは呆れているのだろうか。俺は地面に潰れていた。聖剣ライトニングブリンカーを使った方がよかったのか。しかし、今はない。
「だから、忠告したでしょうが」
「うーむ、これが、かつての勇者と獣王か」
俺は愕然とする。
「だ、大丈夫? 光っち。あと先生も」
性格の軽い美咲も親身に心配をしてくれる。嬉しいことだ。
「命のやり取りに比べれば、どうということはない」
「君はたくましいですね。不良程度に負けたんですよ」
「む、鍛えなおさなければ」
「君はポジティブですね」
獣王は呆れながらも笑っていた。そして、日が暮れていく。俺たちは帰路へと向かうのであった。
YO!C-(ヨッシー)
@wy9liCPLLzqZsrQ
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