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現世ではどうにもならなかった

「で、どういう事かしらん」


 艶っぽく厚ぼったい唇から、セクシーな声が問う。セクシーでありながらも、尋問的な口調が、より一層にエロスを感じさせる。色香なんぞに、くっ、屈しないぞ。


「知りませんよ。ハゲ(じま)じゃなくて、川島(かわじま)先生に聞いて下さいよぅ」


 女性の色香なぞ、女性には通用しないのか、美咲(みさき)こと、今はビッチガールは動じることなく言い返す。


「う~ん。川ちゃんはね、傷心気味で、私に全部投げ出しちゃったのん」


「ハゲ、連呼し過ぎたせいじゃね? でしょうか?」


「まあ、それも、あると思うわよん。でもね、貴方たちの扱いに匙を投げっちゃったと思うのねん」


 変わった口調の淫乱サキュバスが立派にも教師の恰好をしている。

 

 現世にサキュバスがいるだと?

 

 スーツで身を包んでいるが、収まり切れらない胸がはだけている。豊満な体に色香を漂わせるサキュバスだと。間違いなく女悪魔。眼前にいるのは、淫乱の女悪魔。しかし、所詮、悪魔は悪魔だと言える。


 いざとなれば、俺は戦って勝利できる。できる自信はあるが、相棒である聖剣ライトニングブリンガーがないのは心許ない。先ほどから試しているが、魔法も使えないようだ。それも、サキュバス程度の低級悪魔を成敗する魔法が使えない。サキュバスごときに、サキュバスごときにサキュバスごときに!

 

「え? (ひかる)っち興奮しているの?」

 

「そんなことはない。はぁはぁ」

 

 ところで、こいつは現世の誰であっただろうか? 入れ替わりでもしたのか、俺の元いた世界に、こんなダークサイドがのうのうと暮らしているとは気付かなかった。ピースワールドから刺客が追って来たのか? そして、俺には平穏はが似合わない、許されないと言うのだろうか? この世界でもまだ、戦いの日々は終わらないかも知れない。だが、心が折れたりはしない。


「ところで、誰だ? こいつ」



「先生に対して、その言葉遣いは気をつけてねん」


 美咲(みさき)に訊きたかったのだが、代わりにサキュバスが答える。


「貴様を師と仰いだ覚えはない」


「そうかしらん。師匠のあるべき理かしらねん。学ぶべきことは、全ての事柄よねん。人間はあらゆる物事から学ぶものよん。師と言うなら全てが師匠かしら。例え、愚者相手であろうともね。どうかしら? 君の好みに合わせたわよん。ウフフ」


 こ、こいつ。もしや、淫魔を装った賢者なのか? 俺は恐れいり平服した。賢者はいつだって一風変わっているものだ。


「失礼しました。(わたくし)は愚かで、貴方の考えなど遠く及びませんでした。どうか私に教えを導いて下さいませんか?


「子供らしくない変わった子ねん。初めて相手する生徒ねん」


 賢者サキュバスはため息をつく。俺の言動を理解できないのであろうか? そこから、諦めができて、失念を心に生み出してしまったのであろうか。


「確かに(ひかる)っちはな失礼な癖に、堅い性格しているよね。普通いないよ、こんな奴」


「でも、ムッツリスケベそうねん」


「そんなことはない。くそ、聖剣ライトニングブリンガーがありさえすれば」

 これだから淫魔は嫌いだ。


 息を荒く悶えていると、サキュバスは俺の下半身を睨めつける。淫魔はこれだから嫌いだ。


「いや、そこは剣じゃないっしょ。なんだか先生と光っちは気が合いそうだね。妬いちゃうな~」

 

 下半身見ながらいうな! 美咲ことプリンシよ。

 


 妬くとは、本気でそう思うのか? 俺はプリンシ一筋だぞ。彼女には早く記憶を取り戻してほしい。


 俺は今、職員室の一角にある生徒指導室にいる。生徒指導室といっても、パーテーションで区切られただけの、他の職員に丸聞こえな場所で、安上がりな黒のソファーに春美咲(はる みさき)と座っている。


 この世界の学生には、喫煙を禁ずるというシステムという、ルールがある。転移後もちゃんと覚えている。しかし、教師が堂々と、生徒の目の前で喫煙するのは如何なものかとかと思わざるを得ない。目の前の淫乱サキュバス教師じゃなくもとい、賢者様は気に留めずにタバコを吸う。これも、試練の類であろうか?


 

 ちなみに、俺もピースワールドで、仲間との付き合いもあり、タバコぐらいは吸ったことがある。その味も香りも好きにはなれず、決して羨ましいとは思わなかった。だから、疑問に落ちてもどうでもよかった。しかし、タバコ存在自体は否定はしない。だが、風紀や礼儀は気になるだろ?


 賢者といえども、サキュバス教師に敵視するように見ていたのだが、相手に好意があるのと勘違いされてしまったのか、いやらしい表情をこちらに返してくる。復活してくれ、ライトニングブリンガー! 俺はサキュバスの色気に屈しない。


「やだ、照れちゃうわん。坊やはね、タバコじゃなくて、ママのおっぱいでも吸っていなさい。と、言ってもお年頃だから嫌でしょうねん。でもね、私のおっぱいなら、構わないよん」


「なっ」


 俺は、その性的な攻撃姿勢に驚くが、負けてはいられない。ここで賢人か賢人の皮被った淫魔かもわからない奴に負けるわけにはいかない。ここで賢人か賢人の皮被った淫魔に負けるわけにはいかない。早く、復活してくれ! ライトニングブリンガー!


「近親相姦や教師に対する不貞を勧めると俺は試されてるんですかね? 賢者様。しかし、俺は負けん。美咲、すまんがここは頼む」


「頼むって、アタシのおっぱいにいくわけ? いいワケないっしょ」


「ち、違う。俺たちの愛でどうにかするんだ」


「まだ、愛まで生まれていないし」


 どうやらまだ、美咲は前世の記憶を取り戻せないらしい。プリンシ! いや、プリンシも破廉恥な真似は許さないだろう。愛の力を見せてやるだけだと言うのに。


「すまない。美咲」


「光っちが、一応分別があって良かったっすわ」


「うむ、行き過ぎた正義は時に悪よりタチが悪いからな」


「自分で理解しているんじゃね。このまま、常識を学ぼうよ」


 常識なのか。常識は人それぞれで時代によって変わる。魔物と戦ってそれは理解した。今の俺が求めるのは共存。考えは違っても、分かち合える世界。しかし、現世に戻された俺はどうであろう?



「わからない」


「そんなに、大真面目に返されると困りますけどー」


「だからね、美咲ちゃん。先生はあなたに光君の教育係をお願いしたいんだけどね」


「ええー!」


 冗談抜きで、嫌がる美咲。少し、俺が傷つのも仕方がないというもの。現世の生き方を忘れてしまったのだから、腫れもの扱いにされるのも道理だ。



「先生! 俺、いや、私にはいったい何かが欠けているのでしょうか?」

 

 俺は真剣に思い悩む。勇者は呪われている。決して祝福に満ちた存在ではない。何かを代償に平和をもたらすのだ。罪深い。


「ええとね、キャラクターが変だという事なのねん。美咲ちゃん、なるべくこの子を普通ぽくしてあげてね。でも、長所は伸ばして挙げてやってねん」


「む、難しいな」


 サキュバスどころか、賢人と呼ぶべきなのかわからない、この女性。だが、賢人サキュバスが指南役と認めた烈女ギャル美咲。俺は土下座して願いを請う姿勢に入る。


「か、堅いな~。光っち。私達一応付き合っているわけだし、お安い御用だよ」


「美咲~ウルウル」


 俺は号泣した。それに対して美咲はドン引きしている。そのやりとりをニヤニヤと微笑ましくみている賢者あるいはサキュバス。そういえば名前って知らないな。


「賢者様、お許し頂ければ、お名前を聞きたいのですが」


「生徒指導である私の名前を知らないなんてねぇ~ん湯葉早紀(ゆば さき)よん。二人とも、人様の名前を扱う時には気を付けること。川島ちゃんなんて、ハゲハゲって呼ばれて嘆いているわん。貴方達の年でわからないとは思うけどね。ハゲってとってもセクシーなのよん。そういう事、忘れずに」


「はい、わかりました。しかと、胸に刻みます」


 俺は深々とお辞儀した。美咲はしていない。人を畏敬する事を知らないようだ。サキュバスかも知れないから、だろうか。だが、彼女は本当にプリンシの転生者なのだろうか。


「光っち、単純すぎ」


 真の知力とは単純明快なんだよ。人はあれこれと考えすぎなんだ。


「先生、私たちはこれで失礼させてもらいます」


「うん、これから、頑張ってね~ん」


 俺は指導室から退散する。そして、新たな気持ちを意気込む。


「よし、頭髪を剃るぞ!」


「いや、光っち。そこが大事なことじゃないからね」

 

 え? 違うのか。まあ、こちらの世界の良識は彼女に教えを乞うこととしよう。俺はまだまだ、隠棲した生活に戻れないようだ。


 プリンシとひっそりと愛を育む時は、いつ訪れるのだろうか。それは、美咲次第だろう。


 美咲は変な目で俺を見た。


 こ、心が読めるというのか? いや、二人の心は通っている。


 また、変な目で見た。

 

 やめてくれ!


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