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勇者ヒカル

改稿しました。

「魔界最強と呼ばれたこの私が、人間ごとき、人間ごときに!」

 

 愛と平和に満ちたピースワールドの住人たちは、1000年に一度おきる魔物の侵略に人間達は脅かされていた。

 

 この、俺、井草野(いくさの)ひかるはただの高校生だった。しかし、ピースワールドに転移召喚されて以来、勇者ヒカルとして数々の戦いを繰り広げ、仲間たちと一緒に勝利をつかみ取ってきた。

 

 三年の月日が経ち、俺たちは魔界の中でも真の魔王と呼ばれるエビルスピリットと対峙するに至った。奴は魔王といっても角と肌の色をのぞけば、さほど人間とは見た目が変わらない。だが、内から漏れ出している、邪悪さと威風が並みの魔物より圧倒的に上だった。見ただけで心を失ってしまうだろう。それだけの凄みがある。

 剣と魔法、あらゆる攻撃手段を駆使する。持てる手は最大限でぶつける。エビルスピリットは表情を変えずに、回避と防御と反撃で凌いでいる。

 

 しかし、あと一歩だった。あと一撃を奴に決めれば倒すことができる、ここまで追い詰めることができた。皆の助力と犠牲で、ここまでたどり着いたんだ!

 

「終わりだ、エビルスピリット。貴様の故郷である、地獄に堕ちるがいい」

 

「この、私が敗北だと? ふっ、笑わせる。死ぬのは貴様らだ」

 

「思い通りにさせるか!」

 

 俺は剣を振り上げ、最後にするべき渾身の一撃を放つ。技でも何でもない、ただの斬撃。しかし、俺と仲間と世界の人達の想いを込めた最大級の一撃。

 

 バキン! バキバキバキバキ! 鈍い金属音を立てて、剣は砕け散った。さようなら、わが相棒、聖剣ライトニングブリンガー。

 

「くくく。くくくくくく」

 

 エビルスピリットは狂いながら笑った。これで、奴が倒れなければ、俺たちには打つ手がない。

 

「これで、終わったと思わないことだな。我は、1000年後に……」

 

 言いかけて奴は砕け散った。願わくば、1000年後の世界は魔物と人間が平和に暮らしていて欲しい。だけど俺には、1000年も先の事までは、どうにもできなかった。次の世代にも俺と同じ宿命を受け継ぐ者が現れるのだろうか。

 

「おめでとう。ヒカル」

 

「二――ナ――」

 

 勇者を導く巫女が現れる。薄衣の服装の上に甲冑を装備した女の子が僕に寄りかかってくる。

 そして、僕に愛をせがもうと顔を近づけてくる。

 

「君じゃ駄目なんだ。僕が愛していた人とは違う。俺の心にはプリンシという恋人がいる」

 

「もう、プリンシはこの世にはいない。それでも彼女を愛し続けるのですね」

 

「すまない、ニーナ。僕は生涯でプリンシ以外を愛することができない」

 

「そう、そうなの、出会って初めに、彼方を好きになったのは、私なのにね。あーあ。完全にフラれちゃった。プリンシがいなくなっても、駄目なのか。でも、約束は果しますよ。君を元の世界に帰します」

 

 ニーナは悲しげに魔法を詠唱する。すると、魔法陣が現れてまばゆい光に包まれる。俺は、ピースワールドが好きだ。だけど、プリンシがいないこの世界に未練はない。いや、ここにいてはいけないんだ。俺は元の世界に戻り、ひっそりと生きて行く。

 

 俺の物語は終わった。

 

 

 

 

 

 

 Fin  できれば、彼女のもとに行きたかった。

 


 

 

 

 

 

「おい、井草野、井草野!」

 

 俺は眠っているようだ。できれば、目覚めた場所でプリンシと会いたい。彼女がいるであろう天国とやらで目覚めたい。だが、それは、叶わないというもの。俺の手は血塗られている。天国には相応しくない。俺はプリンシとは対極の、麗しくない声に起こされる。おそらくは中年男性の声だろう。俺をしつこく起こそうとする。俺は全てやりつくしたのだから、あとは静かに生きたいだけなのだ。だが、そうもいかないらしい。また争いでも起こるとでもいうのだろうか?

 

「いい加減にせんか! 井草野!」

 

 ガバッ!

 

 俺は奇襲に対応する癖が抜けておらず、起き上がり、瞬時に後方へ移って戦いの構えをとる。

 

「お? おお」

 

 俺を起こそうとした中年男性は驚く。俺は辺りを観察する。懐かしい、ここは転移前にいた学校だ。そうか、元の世界に戻ったんだな。しかし、少しも安堵はできない。目の前の中年男性が悪の要素を感じる。

 

「井草野! ふざけているのか! いつも、授業中寝ているわ。急に立ち上がり変な構えをとって私を睨みつけるわ」

 

 ああ、まちがいない。奴は魔物。俺をここまで敵視するとは魔物しかいない。しかし、魔物が何故、日本にいる? どういうことだ?

 

「聞いているのか! 井草野」


 そうか、あの邪悪な光。頭皮から輝く邪悪なオーラ。

 

「ああ、わかったよ。ダークエターナルハゲ(・・)

 

「禿、禿だと!」

 

「その通りだ。禿という永遠に戻らない毛髪を信仰する者。邪悪な思念で毛髪再生を計ろうとする執念。生贄をつかい自己の毛髪復活する為なら、善悪を省みない悪。暗黒僧侶ダークエターナルハゲ。俺は何回か暗黒僧侶と対峙していて、知っている」

 

 禿はポカンと呆気に取られたあと、激高する。悪とはそういうものだ。

 

「光っち、光っち」

 

 悪と対峙している最中に、なれなれしい呼びかたで呼ぶ女がいる。端正な顔立ちはしているが浅黒い。こういう種族は見たことがある。

 

「何故、ダークエルフがこの世界にいる?」


「誰がダークエルフっしょ。初めての会話がオタクのような会話だと驚きだわー」

 

「初めて?」


「あんた、いつも授業中寝ているじゃん。授業終われば急に消えていくし」

 

「俺はそんなこと……」

 

 ああ、わかった。時空の埋め合わせか。ピースワールドにいた時と、この日本にいた時の時間差はピースランドの方が早いとニーナに聞いた。俺をピースワールドに転移させた、勇者の巫女だ。俺が日本にいなかった時の辻褄あわせが働くのだとしたら、時空がこうした現象を起こしてくれたのだろう。いても、いないのと同じ存在にニーナが上手く調節したんだろうな。

 

「感謝する。ニーナ」

 

「ニーナ? 私は美咲(みさき)だよ」

 

 別に自己紹介して欲しい訳ではないが、勘違いされたようだ。それにダークエターナルハゲと対峙する俺にとしては、一般人(【ダークエルフだが】)に悪との関りあいをもって欲しくない。危険に巻き込みたくないんだ。


「美咲だったけか? 邪悪な波動が迫ってくる。ここは俺が食い止めるから逃げるんだ!」


「わお、いきなり呼び捨て。そだね、フルネーム名乗ってないもんね。アタシ、(はる)美咲(みさき)だよ」

 

「悠長な台詞を! 美咲! 皆をつれて早くいけ! 逃げろ!」

 

「結局、呼び捨てぇ~。ハゲ(じま)先生をハゲ呼ばわりすれば怒るに決まってるっしょ。あっ、アタシも言っちゃった。やべ。でも、少しは希望があるんだよ。生き残った毛髪に感謝しないとね」

 

「き、貴様ら!」

 

 悪の僧侶は全て禿なのである。うら若き乙女たちの毛髪狩りしたこともある。この、ハゲ島も同じ行いをするのだろうか? いや、それ以上の悪意を感じる。

 

「貴様ら廊下に立っておれ!」


「え? アタシも? とばっちりだな~」


「国外追放か? やはり、悪の禿だな」


「いや、教室から出るだけっしょ。光っち、行こうぜ」

 

「ダークエルフも苦労だな。俺にポン引き行為とは」


「いや、光っち、スゲー失礼だし。廊下に出るだけだって」


「清らかなダークエルフとは珍しい」


「貴様ら、廊下で変な事するなよ」


「白昼の変態じゃないし、するわけないっしょ」


「いや、俺はそういうのを見たことがあるぞ。心が痛い」


「痛いのは、光っちの思考っしょ」


 美咲は疲れたように言葉を出し、俺を引っ張る。俺が抜けて、この教室は無事にいられるのだろうか?

 

 

 

 

 と、いう事でだ。俺は心配になり教室を覗きこむ。至って静かで平和だった。


「やめなって。光っち」


「む、心配でな」


「私はアンタの言動が心配だよ」


「やめとけ、俺と言う男は不幸しか呼ばない」


「そこまで心配してない。己惚れか! いつも、死んでいるような光っちが急に元気すぎて驚いたよ」


「そういう、君こそ、何故俺に近づく? 不思議だ」


「隣の席でいつも寝て、一日終わらせる奴なんて気になるじゃん。何者、こいつ? ってね」


「確かにあやしい」


「自分で認めたよ。やれやれ」


 美咲は頭と手を振りながらやれやれと表現する。オーバーなリアクションだ。


 しかし、こいつには何かを感じる。思えば、ピースワールドで初めて親しくなった女性はプリンシだ。ピースワールドにいく以前、こっちの世界では、ピースワールドに行く前はこれといって親しい異性はいなかった。だが、この世界に戻ってきて、始めに会話を交わした女に親しみが湧くような気がしてきた。


 プリンシとは似つかず、軽薄で清楚には程遠いが、内に宿る慈しみと優しさがあるようにも感じる。


 春美咲(はる みさき)

 

 この、女は……。

 

 待てよ、この女、女性は、もしや!


「プリンシ! プリンシなのか! こっちで転生したのか!」


 俺は力強く彼女の手を握る。この、愛に満ちた肌触り、間違いない彼女だ。彼女はどうやら転生前の記憶がないらしい。


「プリンシ! プリンシ、思い出してくれ、ヒカルだよ。恋人のヒカルだよ。君を守り切れず、死なせてすまない。でも、君との愛は永遠なんだ。思い出してくれ」


「ちょ、ちょ、何言っているんですかつーの。手も痛いし、アンタの演技は痛いっしょ」

  

「演技ではない。プリンシ、俺には君の品格がちょっと落ちたように見間違えたが、君の心は儚く暖かい。だが、少し心が黒いところも感じる。し、しかし、君の本質は変わらない。愛しているよ、少し違和感があって戸惑うが、愛しているよ」


「最低な口説き方だー! いやもうね、普通にアタシが好きなら好きって言おうよ」


 俺は少し考え込む。考えていたことを蛇足だと感じて脳内から消し去る。好きなら好きって言う。その通りだ。


「美咲、愛している!」


「いいよ。友達からね」


「軽っ。しかも、結局のところ恋人になっていないじゃないか」


「当たり前っしょ。アタシは尻軽女でないからね。でも、付き合ってあげる」


 パチパチパチパチ。


 拍手が喝采される。何が起きたというんだ?


「ここに、一つのカップルが成立した。おめでとう。では、川島(かわじま)先生お願いします」


 誰かは知らないが、一人の生徒が皆を盛り上げておいて、ダークエターナルハゲを呼び出す。洗脳でもされたのか?


「お前たち、うるさい」


 禿はニコニコしながら、俺たちを生徒指導室へと連行する。皆の危険を考慮した俺はプリンシの転生先の美咲と一緒に禿の先導に従うのだった。


 そして、気になる生徒たちはと言うと。『リア充死ね』という恨みがこもった念を飛ばすのであった。


 リア充? ああ、思い出した邪悪なる者の名称だな。あの禿のことだな。待っていろ! 皆。あの、ダークエターナルハゲは俺がどうにかする。



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