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とんだうさぎのさき  作者: かしゆ
7/12

雨の兎7


※(一部太陽の賛歌参照改ざん。)



アリシアが居た通りの日時で追悼が行われた。


亡くなった者が太陽神ダクの元へ迷わず行けるようにと皆が黒い礼装の中それぞれの魔力の光で祈りを捧げる。

祭壇にはソフィアから遺族の手に渡ったナッシュの核が納められている。

司祭の祈りの言葉に合わせ魔力の光が核にあつまる。


「私の主よ、あなたは称えられますように

 すべての、あなたの創られたものと共に

 太陽は昼であり、

 あなたは太陽で、

 創り子、クラレンス・レーナ・ナッシュをてらされますよう ダーリア」


<ダーリア>


集まった光はその言葉により核へと収束され核と共に消えていく、この儀式によって太陽神ダクのもとへ亡くなった者の魂が帰るとされている。


馬車に石を投げたナッシュの妹は悲しみの中アーサーとソフィアへ憎しみの目を向けていたが、兄の葬儀を壊したくなかったのだろう何も言わず最前で祈りを捧げていた。


「アーサー、ソフィア。貴方達は先に帰りなさい。ルアーノ、お前も一緒に。」


式が終わり、宴が始まる前にルーカスが子供たちを家に帰すよう立たせ控えていたミリアに指示を出す。

魔女の夜の手から逃げる際に傷を負っていたらしい背中の痛みを庇いながら、白髪を隠す黒いヴェールの下でソフィアはシスターの中に魔女を探したが見つけられなかった、式が始まる前にソフィアの魔力溜の解消を行ったシスターは誰かと手当たり次第に聞いていたが此方も不思議と覚えている者は居なく、アーサーとソフィアは魔女の言っていた記憶を消すとはこういう事なのだのだと思い知った。



二人の事情聴取と、ナッシュの死で明らかになったレスト区域の魔女の存在はすぐに国王の耳に入る事になったが力が計り知れない以上無暗に討伐を進める事は出来ず対策は滞り、テーム区域にアーサーとソフィアが戻った際に夜の手の攻撃が止まった事からもテーム区域に魔女の力が及ぶ事はないのではないかと推測された。


アーサー、ソフィアには各レスト区域並びにリズの境界への接近禁止命令が出たのみで表向きには天災と処理され、混乱を避ける為リズ以外の魔女の存在については緘口令がしかれ秘密裏にアーサーとソフィアの血液、魔力石の提供が求められ、魔女対策研究の対象となった。


学びに関してナッシュの死の影響からかルアーノだけならまだしも、アーサーとソフィアの教師を引き受ける物はウェンズリー領では見つからず王都の学園に入学する15の年までは隣のゼーユングファー領の娘の師である元王宮魔法師ロビンの元で世話になる事になった。

それでも、馬車で1時間半の場所にある隣のゼーユングファー領の毎日出向く訳にも来てもらう訳にもいかず一般教養はミリアの元で、魔法、戦術に関しては週に二日ゼーユングファー領へ教えを乞う事になりそして、明日にゼーユングファー領に挨拶に行く事になっていた。その為、しばらく安静にするようにいわれ、式の後にする事の無かった三人はアーサーの部屋で暇を持て余していた。



「なんで、俺の部屋なんだよ二人とも」

「兄さんも怪我してるのにすぐに剣を振ろうとするから見張っとけって、アリシア伯母さんが。」

「明日、挨拶ついでにシャルロッテに傷を治してもらうのを待てないアンポンタン二人を見張っとけて、母さんが。」


アリシアが田舎の親父しか使わないようなアンポンタン発言をしたのかと、アーサーとソフィアはルアーノを凝視してしまうが、ルアーノはもう一度アリシアが言ったと念を押す。

因みに、ルアーノの言うシャルロッテとはゼーユングファー領の領主の娘シャルロッテ・ゼーユングファーで代々人魚の魔法で治癒魔法と得意とする家系である。ゼーユングファー家にはシャルロッテの上に兄であるユリウス・ゼーユングファーが居るが人魚の血を上手く継がなかったらしく自身の回復は早いが、周りの者を治癒する子は出来ず次期領主はシャルロッテとされていた。

ユリウス本人は微塵も気にしていなく、今年入った王都で自由にしすぎているとゼーユングファー夫妻がウェンズリー夫妻に悩みの手紙を送っていたくらいだ。



それにしても、とルアーノがソフィアに迷いがあるのかもったいぶる様にゆっくりと口を開く。

「…ソフィア。あの先生の核本物?」


寝台の上で本を読み始めていたアーサーが唖然として顔をあげる。その脇に座る問いかけられた本人は飄々として窓の外を眺めながら寝台から足をぶらぶらと揺らす。

ソフィアの背を見るようにして椅子に座るルアーノはアーサーの表情に気付いてなかったのかと思いながらもソフィアに応えるように促す。



「僕が見た時はもう少し濃い藍色だったと思ったんだけど。それに大きさも少し小さくなっていた。」


ルアーノのその言葉にアーサーはハッとしたようにソフィアの肩を掴む。傷に触ったのか、ソフィアが顔を歪めるのも気にせずに詰め寄る。


「ソフィア?何をした?あれは、偽物だったのか?」

ソフィアはやだなあと笑って肩を掴むアーサーの手を優しく外す。行き場を無くしたアーサーの手が一度宙を漂うがソフィアが口を開き応えようとするのを見て自身の膝の上に握りこぶしをつくる。


「本物だよ。全部じゃないけどね。」


「は?全部じゃないってどういう事だ。」

「ちゃんと説明してよ、ソフィア。」


「…ルアーノ兄さんに先生の核を渡された後ずっと私が持っていたでしょう。

先生の核、魔女の攻撃でやっぱりちょっと傷が、というか亀裂が入ってて部屋に戻った後に治せるかなと思ってずっと弄ってたんだけど二つに割れちゃって。」


「割ったのかい!?ソフィア!」

驚きに声をあげるルアーノと言葉もなく天を仰ぐアーサーにソフィアは目をそらす。


「まあ、そういう事になるかなあ?あ、でねくっつくかなあと思って魔力を込めてぎゅっとやってみたんだけど、今度は割れた二つが完全に独立した核になっちゃって。」


ほら、割れ目とかなかったでしょう?とヘラッと笑うソフィアにルアーノは項垂れ、アーサーは目頭を押さえる。

ルアーノはハッと気付いたように椅子から立ち上がり二人の座る寝台に膝を置き詰め寄る。


「ソフィア。二つになった片方は式で渡したものだよね?もう一つは?どこにやったの?」


その言葉にアーサーもソフィアの答えを待つ。

すると、ソフィアが口を開けゴクンと何かを飲む動作をする。ルアーノは意味が分からず首を傾げるが、アーサーは寝台に倒れ込みメソメソと枕に顔を埋める。



「妹がこんなに気狂いだなんて思ってなかった…先生が太陽神ダクのもとへ行けなかったらソフィアのせいだ。頭のおかしな妹を持つのがこんなにつらいなんて思ってなかった。ルアーノもう、駄目だ。ソフィアはやっぱり魔女の元に置いてきた方が良かったのかもしれない。」

「何を言っているんだ、アーサー、先生の死を無駄にするような事を口にするなよ。」

「そうだよ、兄さん私は先生を忘れない為にも飲んじゃったら忘れないかと思って飲んだのに。ちょっと痛かったけど。」

「そうだよ、だからソフィアは………え?」


やっぱり…とアーサーが強く枕に顔を埋めるの対し、ルアーノはえ?と繰り返しながらソフィアの顔とお腹を交互に見る。自体を飲み込むと問答無用でソフィアの口に指を突っ込む。


「うえっ」

「ほーら、ソフィア吐き出そうな。父さんが酒で気持ち悪くなったらこうすれば吐き出せるっていってた。」

「っう、やめ、っとに、うえっ」


聞いただけの浅知恵で上手くいくもなくソフィアの嗚咽音はアーサーが首を振ってルアーノを止めるまでの数秒続いた。

ソフィアがせき込む中、アーサーが手洗ってこいとルアーノを洗面所まで移動させた。先にソフィアの元へ戻ったアーサーは何も言わず、ルアーノが戻ってくるまで沈黙が続きソフィアも口を開くタイミングを計りかねていた。


何事も無かったかのように部屋に戻って来たルアーノは椅子に浅く座り項垂れるとそれで、とソフィアに先を求めた。


「えっと。それで、先生のもう一つの核は私の中で二つ目の魔核として多分心臓と繋がりました?みたいな?自分の中の感覚だけだから分からないけど、多分お腹の中で消化されたって事はないと思うよ?」


「なんで、飲んだの?」

「ルアーノ兄さんが、「え、僕」

…忘れないでって。」

「言った。確かに言ったけどそこからどうしたら飲み込もうって発想になるの?」


突然名前を出され責任を押し付けられたルアーノは少しムッとするが、ソフィアはどうしてだろうねと笑ってごまかす。

1つ深いため息を吐いて、ソフィアが飲み込んでなんともないならそれでいいともうすでに諦めたように本を読むアーサー。自分の妹なのだから何とかしろという思いを飲み込んでルアーノは考えるがどうこうなる訳でも無い。人間の核を飲み込むなんて聞いたことが無かった。

核は魂とされ、それを食べる行為は魔女ではなく悪魔だ。

ソフィアの言うとおり心臓と繋がってしまっているのであれば、取り出すことはソフィアの死と同義だろう。だからと言って本当かどうか調べるすべもない。これがナッシュの妹に知られたらどんなことになるか、考えたくもないとルアーノは首を振る。



「ねえ、ルアーノ兄さん。私ね、お父さんとお母さんの顔はもうほとんど思い出せないの。

兄さんも私も二人にあまりに似て無かったから。愛してもらった事実は覚えているけど、どんな暖かさだったか、どんな言葉をかけてくれたか。最後、どんな顔で守ってくれたか。」

「それは…しょうがない事だと思う。」


「お父さんとお母さんの核はもう何処にもない。あと、何年かしたら一日で一度も思い出さない日が来るかもしれない。」

「でも、一生忘れている訳じゃない。現にソフィアは一度忘れても思い出しだでしょ。」


「次も思い出せる保証は何処にもないよ。魔女には強がって思い出すって言ったけど…どうかな。私は覚えていられるかな。」

「だからって先生の核を飲み込む理由にはならない。母さんに渡すように言われた時はちゃんと返事していたのに」


なんで、と言う言葉はルアーノが言っても無駄なのだろう。アーサーの様に諦めるのが正解なのかもしれない。


「飲み込みでもしないと、ルアーノは返せっていうでしょう。」


そう笑うソフィアが思い出すのはナッシュを殺した魔女だ。寂しいと泣き続けていた女の顔を覚えている者はアーサーとソフィア、後は同じ魔女の者は覚えているかもしれない。魔女はまたねと言った。次会う時までにナッシュを殺した恨みが持続する自信がソフィアにはなかった。自分を同じように守った両親の思い出さえほとんど忘れてしまっていて一度は綺麗さっぱり忘れ去ってしまった自分が血の繋がらない、言ってしまえば他人を殺された時の事を覚えていられるだろうかと不安が襲った。


(でも、これがあれば忘れない。)


そう自身の胸に手を当てて確かな物を確認する。




「もう、いいよ。もう二度としないでくれ。」


笑うソフィアにルアーノは諦めてうなだれる。







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