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のんびり死体と折れた相棒とサバ その2

諸君、私が今どこにいるかわかるだろうか。


青い空の下、流れる雲と、潮風に吹かれ、私は帰ってきたのだ。


もう、場所も言ってしまおう。

貝塚人口島だ。


ここは、ルアーで釣る人にも、家族でサビキする人にも大人気の場所だ。

夏は鯵にサヨリにカワハギにカサゴ辺りがよく釣れる。

冬は太刀魚で大人気の場所だ。


また意味もなく仁王立ちし、海を睨みつける。


「私には2度の敗北はないっ」


しかし、海はまるでのんびり死体をあざ笑うかのように、何処までも穏やかな顔を見せている。

きっと相手にもしていないのだろう。

しかし、海は私を侮りすぎているのだ。


「ふふっ、余裕を見せれられるのも今のうちだっ。」


いそいそと、フィッシングマック〇の袋から仕掛けを取り出す。

今回のサビキは、針がエビを模したものでなく、小魚を模したものだ。

半透明の白いボディに、銀色のギラギラが眩しい。


体調管理も完璧にするため、朝ご飯は少なめにして、飲み物は常温の緑茶である。

のんびり死体も選んだ綾鷹である。


さらに、それだけではない。

車の中には、介護用の簡易トイレも積んである。


「軍人は兵站を尊ぶ」と脳内でつぶやき、我ながら完璧な布陣に満足をする。


今日の私は、のんびり死体ではない。


きびきび死体である。


さぁ、勝負だ。


颯爽と竿を海に向ける。

ちなみに、のんびり死体はあまり仕掛けを遠くに投げない。

殆ど足元で釣る。


なぜなら、それで投げている人より、沢山釣ってきたからだ。

のんびり死体は、いろいろと考えた。

前回と同じようにしては駄目だ。

でも、今までやってきたこと、うまくいっていたことをすべて否定するのは違う気がしたのだ。


今日の僕は、なんか良いことを言っている気がする。


まぁ簡単に言うと、自分なりに成果があった方法で、あたらしい武器で戦うことにしたのだ。


これは、後々わかったのだけど、足元で釣ることは、別に愚行でもなかった。

わけもわからず、投げて釣るよりはよっぽどの利点があったのだ。


海中というのは、意外と餌も酸素も少ないらしい。

なので、魚というのは常に、餌と酸素を求めている。


波が波止に打ち付けて、小さな泡がたつと、空気中の酸素が取り込まれる。

また、波止のテトラや、消波スリットには、多くの貝や虫がついている。

だから、足元で釣ると、結果として壁際で釣ることになり、成果が上がりやすいのだ。


また、回遊魚は通る道のようなものが決まっていることがある。

それは何通りもあるのだけれど、自分のすぐ近くを注視していれば、そのうちの一つを見つけやすい。

つまり、明確に狙うポイントが出来てくるのだ。


これは、このお話の中でも、数少ない、本当に役に立つ知識である。

是非、みなさんにも活用してもらいたい。

他には大した知識は出てこないと、断言しておこう。


さて、颯爽と投げ込まれたサビキは、海中でもキラキラと光っている。

のんびり死体は、緑茶を飲み過ぎてお腹を壊さないように、喉が渇くたびに、ちょっとだけ口に含む。


今日はペースを乱さぬよう、お忍びで一人で来ている。

だって、皆に釣りに行くって言ったら、あとで釣果を聞かれるし、釣れなかったらかっこ悪いもんね。

勝利の為には、心のコンディションだって重要なのである。


そして、今、全てが完璧である。

完全体の「のんびり死体」である。


あとは時合を待つばかりだ。

※時合とは、魚が釣れる時間のこと。


しかし、竿は潮風に吹かれて、穏やかに揺れるばかり。

空はブルーハワイのかき氷みたいな、美味しそうな色をしている。


竿先がググっと引き込まる姿を想像して待つものの、穏やかな時間ばかりが過ぎていく。


なんとなく、不安になってくる。

魚も見えてはいるものの、数も少ないような気がする。


「うろたえるなっ、軍人は諦めない。」


深さを変えたり、位置を変えたりしてみる。

あまり大きく動き回るのは得策ではない。


小さく、少しずつ位置を変えて試してみる。

潮風がふぅっと、汗に濡れた前髪を通り過ぎていく。


「くっ、まだ足りぬというのか。」


焦りが判断を狂わせる。

海底で引きずるように、仕掛けを動かしてしまったのだろう、サビキが根がかりする。


ジタバタと動き回って何とか仕掛けを取り戻すが、いくつかの針が外れ、ボロボロの姿をさらしている。


我が軍は、またも敗北してしまうのだろうか。

また、半べそを心の中でかきながら、仕掛けを取り換える。

※のんびり死体は、ナイスガイなので人前では泣きません。


仕掛けを好感し、かごに餌を入れる前に、一度試しで投げ入れてみる。

問題なく投げ入れられ、すぅっと海中に仕掛けが吸い込まれていく。

異常無いことを確認し、引き上げようとした刹那、竿がグッと曲がり、糸がピンと張る。


「くぅ、また地球を釣ってしまった。」


ため息をつき、空を仰ぐ。

もう、釣りなんてやめて帰ろう。

随分無駄使いをしてしまったけれど、余った仕掛けは人にあげてしまおう。

やってみたことないけど、今度はPS4を買ってみよう。

そんなことが、頭をよぎった時・・・。


いやっ違う。

地球を釣ったはずの糸が、水面を切って横に引っ張られる。

竿先が曲がり、びくびくとした感触が手元に伝わってくる。


「きたっ。」


リールがジジジッと聞きなれぬ音を立て、糸を吐き出している。

自然と体が、竿を上下させて糸を巻き上げる。

こうすることによって、糸を巻き上げる余裕を少しでも作ろうとしているのだ。


相手はさらに海中に潜り、リールに逆らって糸を持って行ってしまう。

焦りで手がびりびりする。

胸がどきどきして、頭の中は沸騰したように興奮している。


それは数十分にも感じられ、そして数秒だったようにも感じられる不思議な時間だった。

何とかバタバタしながらも、僕の手元にはスーパーで売っているのより、もっと大きいサバがぶら下がっていた。


嬉しい。超嬉しい。


その姿を眺める。

良く見慣れた魚であるにもかかわらず、釣れたてはもっと青く美しい。

持っているクーラーボックスに、そのままでは入らぬほど大きい。

頭を斜めにして、無理やりに押し込む。


そして、海に向かい、綾鷹を掲げて宣言をする。

我が軍の勝利であると。


早速追撃の用意をする。

仕掛けはもみくちゃにされている。


新しい仕掛けに交換し、海に投げ入れる。

そうして、異変に気が付く。

竿先がだらんと下を向いていたのだ。


1980円で購入した、ファミリーサビキセットの竿は、僕に釣りの楽しさを教え、最後に大物までプレゼントしてくれて、その役目を終えたのだった。




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